第13話 セクレタさんが失神している間でやってくれました

「ミズハラさんの世界では一般人でも毎日肉が食べられるの?」


「まぁ、ソーセージとかベーコンとかやけど、朝昼晩3食何かは口にしてるなぁ。焼肉みたいにガッツリお肉でお腹一杯食べるのは、月一あったらええ方やげど」


声が聞こえる。


「こちらでは肉は貴重品だから羨ましいわ。お肉でお腹一杯なんて殆どの人が出来ないわよ」


「こっちでも牛とか見かけますけど、食べやらへんの?」


「こちらの家畜の殆どが牛乳や羊毛の生産品目的で、食用ではないわね。歳をとって廃棄する時ぐらいかしら。豚肉は都会の富豪や上級貴族向けよ」


会話だ。会話が聞こえる。


「しかし、セクレタはん。食べ方上品やなぁ~ 姿も別嬪さんやし」


「うふ、ありがとう。でも私、同族の中では美人ではない方だったのよ」


「えーそうなん?男の見る目がないんちゃう?」


「いいえ、違うのよ。私の種族では、」


「うっ!」


そこで私の意識が覚醒する。なんだか腕が痛い。恐らく気を失った時に腕から倒れたのだろう。


「マールはん!気ついた?」


「マールちゃん。大丈夫?」


身体を起こすと、食事を採っていたセクレタさんとカオリが側にくる。


「大丈夫だと思います。たぶん」


「色々あったから、精神的にも肉体的にも疲れていて、その上お昼も食べなかったから倒れちゃったのね」


「マールはん。ご飯食べる?」


「ありがとうございます。頂きます」


「ほな、スープ温め直すわ」


私はセクレタさんにソファーに案内されてカオリが用意してくれた食事を採る。

スープの温かさが身に染みていく。


「しかし、マールはん。なんであんなに取り乱しとったん? まぁ、庭にいきなりあんなん建ったらショックやけど」


「実はですね。今年から来年に掛けて穀物の相場が下がりそうなので、その補填にあの森林の木材をあてにしていたんですよ…」


「あぁ…なるほど」


「確かにあてにしていた木材を丸太のままでふんだんに使われたら倒れたくもなるわね…」


「せめて製材して板にしてくれたら少しはましだったんですが」


そこに扉がノックされ、リソンとファルーがやってくる。どうやら仕事の合間に様子を伺いに来たようだ。


「お嬢様。大変申し訳ございません!。お側にお付きする事もできず、またあの様な所業を許してしまい…」


リソンとファルーは深く頭を下げたままの不動の状態になった。


「マールちゃん。怒らないであげてね。私が側にいるから二人を下がらせて仕事をさせていたのよ」


「そうそう、二人はうちらの為に色々頑張ってんねん。だからあいつらの所業に気付く暇がなかってん。悪いのはあいつらやねん。だから二人を怒らんといてあげて」


セクレタさんとカオリがリソンとファルーを擁護する。


「二人とも頭をあげて下さい」


 もちろん、私も二人を怒るつもりはない。二人がこの様な異常事態の中、精一杯仕事に努めてくれている事は分かっている。


「二人が良くやってくれていることは分かっています。今回の事は天災に見舞われたと思って諦めましょう」


二人が私の言葉に少し頭をあげる。


「しかし、よく半日で作ったわよね。普通なら途中で気が付いて止める事が出来るのだけど…」


「なんでも、今日習ったばかりの魔法つこて建てたらしいで」


カオリの言葉にリソンは猛烈な速度で直角に頭をさげる。


「大変申し訳ございませぇぇぇん!!お嬢さまぁぁぁ!!!!」


リソンは真っ青な顔になってプルプルと震えている。


「いえ、魔法を教えることは私の許可した事だから…」


そう言う私の顔はたぶん引きつっていたと思う。



リソンとファルーを下がらせた後、私は項垂れながら深い溜め息をつく。


「過ぎてしまった事は仕方がないわね」


「あいつらの事、堪忍やで」


「まぁ、今回の事は当家だけの被害で済みましたから、家の外の他者に被害が出なかった事を感謝しましょう」


私はそう答えるが、少し声が震えている。


「うちが言うのもなんやけど、そう思うしかないなぁ」


「あの人たちの事は別にしても、問題とかやる事は一杯ですから」


そうだ、不幸中の幸いと思えばいい。そう考えていた時にセクレタさんが近づいてくる。


「そうそう、マールちゃん」


「なんですか?セクレタさん」


私は頭を上げ、セクレタさんの方へ向く。


「色々あった手続きや登録。終わらせておいたわよ」


「本当ですか⁉ セクレタさん!」


私はセクレタさんの言葉に瞳を大きく見開く。


「えぇ、マールちゃん。爵位継承の所で詰まっていたでしょ?マールちゃんが休んでいる間に借りの継承申請をここの上部貴族のツール伯爵に申請しておいたから。明日にでもすぐ届くと思うわ。それで手続き関連の書類は済むわ。書類も作成しておいたから。後は帝都からの本継承の連絡をゆっくり待てばいいわよ」


「ありがとうございます。セクレタさん!本当にありがとうございます。」


どれも中途半端で止まっていてモヤモヤした状態だったものが一気に晴れていく。


「いいのよ、私はこの為に来たのだから」


そういって、セクレタさんは微笑んだ。


「なぁなぁ、ちょっと聞いていい?上級貴族と上部貴族ってちゃうん?」


カオリが問いかける。


「ミズハラさんは異世界から来たばかりだから分からないわよね。上級貴族というのは公爵や侯爵みたいに力を持った大貴族の事ね。そして上部貴族というのはちょっと特別なの」


「どう特別なん?」


「この国の爵位は皇帝陛下から直接賜暇されるものと、貴族が部下に自分の領地を分け与え爵位を与えるものがあるの。だから与える方が上部貴族。与えられた方が下部貴族になるの」


「へぇ~なんか親子みたいやね」


「良い例えね。実際には親・子・孫・ひ孫の様な縦の関係になるわ。今回のマールちゃんの爵位の仮申請は戦時下や緊急時にわざわざ陛下から承認を得る時間が無い場合を想定した、昔の特別法なの」


そんな、昔に施行された法律まで覚えているなんてセクレタさんはすごい。


「そうだったんですか。でも、よくあの気難しいツール伯爵から許可でましたね」


「それは色々伝手とコネがあったからかしら」


セクレタさんはふふと笑う。



そこへ再びノックが鳴り響く。

ファルーに付き添われてサツキが現れる。


「申し訳ございません。お嬢様! 私が頑張りますから!!」


サツキが先程のリソンと同じように直角に頭を下げる。


「えっ⁉どうしたのサツキ」


私の問いにファルーが恐る恐る申し訳なさそうに答える。


「メイがメイド辞めて実家に戻ってしまいました」


私ははぁと大きなため息をつき、項垂れた。




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