異世界転生100~私の領地は100人来ても大丈夫?~ 野生の転生者が100人もやってきた!?

にわとりぶらま

第01話 100人それは群衆という

 マールは目を覚まし違和感を覚える天井を見てはっとする。

そして泣き腫らした目元を撫でながらここが故郷の自室だったことを思い出す。

五日前に母が倒れたと連絡を受け直ぐに故郷へと向かった。

だが、母はその後容態が急変し一日を経たず亡くなってしまった。

その後はこの地方の慣例に従って私の到着を待たず葬儀を行い、母の遺体は荼毘に付されてしまった。

その報告を受けた私は泣き崩れ、そのまま気を失ってしまったのだ。

私はむくりと体を起こす。服は寝間着に着替えさせられており、窓のカーテンの隙間から朝日が見える。

コンコンとノックの後、ふくよかな女性が入ってくる。


「マールお嬢様!」


女性は私の起きている姿を見つけると優しく抱きしめてくる。

侍女のファルーだ。


「お嬢様。よくお戻りになられました…」


ファルーに抱きしめられているとまた瞼が熱くなってくるのを感じたが、ファルーは抱擁を解き今度は私の両手を自分の両手で包み込む。


「お嬢様。積もる話はございますが、まずは奥様のもとへ行きましょう」


葬儀自体は終了しているが、荼毘に付された後の遺骨が教会の祭壇に慰霊の為に祀られている。葬儀に間に合わなかった者の為だ。

私はファルーに手際よく喪服の黒いドレスに着替えさせられた後、渡り廊下を通って館の隣に併設されている教会へと向かった。

教会の礼拝堂の前まで来ると前を進んでいたファルーが一度こちらを見てからゆっくりとその扉を開く。

扉を潜り一歩一歩確かめるように進むと白い花に包まれた母の肖像画が見えてくる。

その母の祭壇の横に神官長のサレムさんが白く大きな一輪の花を持って佇んでいた。


「マール様。献花をお願いします」


私は神官長サレムさんから花を受け取り母の祭壇に捧げ、膝を折り慰霊の祈りを捧げる。

見上げる肖像画の中の姿はいつもの柔らかな優しい笑顔だった。

私は愛してくれた母を労わろうと努力してきたが、恩に報いる処が死に目にも立ち会うことが出来なかった。

私はただひたすら祈ることしか出来なかった。


一頻り祈りを捧げた私の所にサレムさんが一冊の本を持って現れた。


「これはエミリー様の遺言によりマール様に必ず渡すよう言われていた本です」


サレムが差し出した本は分厚く、表題の記されていないものだった。


「本…ですか?」

「遺品の日記だと思われますが、私が目を通す訳にもいかず確かめてはおりません」

「ありがとうございます。分かりました。そちらの本を頂きます」


私は手を伸ばし受け取ろうと本に指先が触れた瞬間、本の中程のページの隙間が光り、カタカタと動き出す。


「えっ⁉」


突然の事態に私は本を受け損ねてしまい落してしまう。

本は床に落ちてもカタカタと動き、そのままひとりでにパラパラとページが捲れ始める。

私もサレムさんもファルーも驚きのあまりその様子を見守ることしか出来なかった。

そして、本は中程でページが捲れるのが止まり、そのページに魔法陣が映し出される。

その瞬間魔法陣から凶暴な光があふれ礼拝堂を飲み込んでいく。


「何⁉一体何が起きているの⁉」


私はとっさに眩しすぎる光に腕で目を守りその光に備えた。

直ぐに轟音のような力の波動が落ちるのを感じた後、緩やかに光が収まっていく。

私は薄っすらと目を開けていく。

徐々に礼拝堂の様子が見えてくる。しかし、その様子がおかしい。

私は目を大きく開いた。瞬いた後、もう一度大きく見開いた。


そこには先程まで存在しなかった群衆があった。

歳は十代後半前後。中には何人か赤ん坊もいた。

だが、異常なのは全員黒髪でシャギーカットで額の真ん中に前髪を垂らしており全員が全員同じような髪形をしていた。

その群衆の人々は周りを一回り伺いながら、徐に上げた両手を眺め、自分自身を確かめた後、一斉に叫ぶ。


「「「「「ステータスオープン!!!」」」」」


その叫びも空しく何一つ変化はない。次第に群衆が騒ぎ出す。

この人たちは何を行おうとしているの?

私は恐ろしさに後退るが母の祭壇があり、それ以上さがれず祭壇に寄りかかる形になる。


「くそ!ステータスが開かない!」

「ジョブが確認出来ない!!」

「ギフトは貰えているのか⁉」

「バブ―!」

「スキル!スキルは何が使えるんだ⁉」


群衆は口々に怒鳴る。


「あ、あっ、貴方達は一体何なんですか⁉」


私は恐怖のあまり群衆に叫ぶ。

すると自分自身を確かめていて群衆の顔だけがこちらに向く。

 怖い! ほんと怖い!

私は身を引き締める。群衆はゆっくりと私に向き直り、一斉に平手を私に向ける。


「ひっ!!!」


私は小さな悲鳴を上げる。


「「「「「鑑定!!!!」」」」」


群衆が叫び終わる前に私の意識は落ちた…


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る