第二章 再編・改造

第一節:四番機の状態確認

 ギルド側から、十六機のフローティング・パワー・トロリーがM・Mを搭載しやって来たからである。


垂れ幕たれまくも、何も出なくってすまんな」と、私がいった。


「いいえ、期待してますぜ侯爵閣下こうしゃくかっか」と、返答が飛ぶ。



「アスカ、五番のM・M作業整備ブロックポートに移ってくれるか」と、私がいう。


「わかりました」と、アスカ嬢が華麗なハンドル捌きで五番ポートの裏にPtを付け、そしてアラワシを五番ポートに置いた。


 綺麗に操縦して見せたのである、鮮やかの一言である。


 これでパートナー無しというのだから、さらにおどろきではある。



「自由に、といかなくてすまんな」と、いう。


 隣に並んだ四番機の損害状況を見ながら、

「直さなくて、いいのですか?」と、アスカ嬢がいった。


「直せるならな、直したいところなんだが、メカニックが居なくてな」と、ガイドフレームを触りながらいった、私はメカニックのことで頭が一杯になりそうだった。


「上って、見てもいいですか」と、アスカ嬢がいった。


「分かった、ライト要員は必要だろう」と、いって作業用ガイドに一緒に乗る。


「ガイドを上げます」と、細やかな操作で、作業用ガイドを上げて行く。



「各関節が全体的にフレームが曲がっていてな、外傷性になった訳なんだが」とコマチ嬢の怪我ケガの状態を説明しながら話した。



「そうでしたか」と、今日のアスカ嬢は若干違うな、と思って良く見ていたら、左肩に四本も、MLLI=マジック・ライブ・ライン・イルミネーター:デザイナーの国際称号を付けていた。


 しかも、四本全部二センチ幅を着けていた、二センチ幅とは各種別の最高位を指し示すモノである。


 権威的に行けば下から二ミリでドクター:博士、五ミリでスペシフィックオーソリティー:特定権威、一センチでエンジニア:技術者、一点五センチでメカニック:整備士、二センチでデザイナー:設計者の順でそれぞれが三十センチの長さと厚み一点五ミリが規格上きかくじょう決められているものである。


 硬くなく柔らかい素材でできているが、グニャグニャではなく、比較的しっかりした、構造を持つものではある。



「赤(錬金生体医学デザイナー)・金(M・Mデザイナー)・緑(ドラッグデザイナー)・灰(魔導基礎工学デザイナー)……」とうめくようにつぶやいた。



 二点五センチ間隔で付けることが基準になってはいるが見せ方や並びは個人の自由であるらしく、それぞれデザイナーによって付け方が違うのである。


「はい?」とアスカ嬢が振りむいた。


「ナイツではないと思ったら、デザイナーだったのかしかも複合四種の……」と驚いた。


 基本的にデザイナーはかけ持ちできるとは知っていたが、四種をかけ持ちしている者を見たのは初めてだったのだ。


 普通は二種か多くても三種持ちくらいまでであったので、それそのものが物凄ものすごいことなのである。



「こちらでは初めてですね、この服を着たのは」

 としれっといって機体の損壊状態を『データパッド』にチェックして行く流石さすが手早い、最上段まで上ると。


 整備格納筐体きょうたいを収納モードから整備モードに展開した。


 ここからがデザイナーの本領発揮ほんりょうはっきだ「流石デザイナー、お手並てな拝見はいけん……」といいながらスポットビームライトでアスカ嬢が見る先を、照らしていくサポートに回っているのだ。



「B+級『エージェント型』ですか、いい機体ですよねー、標準級で外装装甲が軽装型というだけで他は万遍まんべん無いスペックが売りの機体で汎用はんよう型ですし特に非の打ち所がない、軽装型外装装甲ですので若干装甲面に難がありますが……」といったのである。


(B+級とは国家の旗機はたき※を務められる代表的な性能をした機体のことである)


(※旗機:国家を代表する旗印となるものの意味で、国家でメインの正騎士団に配備される機体のことである。

 一品ものや一点モノ等はこれに該当しない、ギリギリ少数生産機が、旗機として数えられる最小単位ではないかと思われる)


(『エージェント型』とは機体の固有名称ではなく、商品名称又は規格名称に該当する。

 例が戦艦で申し訳ないが、戦艦武蔵なら大和型戦艦という様に、何型に該当する名称なのである)


(標準級:MMとしては一般的な寸法である、全高二十メートル級の機体ということと標準的な装甲をまとっている、他に軽装級と重装級があるが全高は同じである。

 軽装級で標準級の六十パーセント程度の重量、重装級で標準級の二倍までの重量といった違いがある。

 基本的に違いが出るのは運動性能である、軽装級は軽い分運動性能は高いが装甲面にもろさがある、逆に重装級は装甲面に安心感があるが運動性に若干の難点が感じられる等である)



 アスカ嬢がひょいっとコクピット上部まで降りた。


 コクピット内部の確認をするようだ、「ミクロスコープは要るかい?」と聞いた。


「一応ください」との回答だったので、そこまで作業用ガイドを下げると、それを手渡した。


「はい、ミクロスコープだ」


「コクピットは随所ずいしょ変形へんけいが見られますね、押合おしあいでもしたんですか?」とアスカ嬢、「近いな」と私がいう。


「後ろには気を配ってなかったらしくてね、はさまれたんだ」と、一重ひとえに慣れが問題だったんだよねーと思い、続けた。


「BC種でね、後方注意のサインに気付くのが遅れたらしい」、BC種の出すサインに気付くのが遅れたのが原因だった。


「コマチがBC種に慣れて無かったっていうのも、災いした様でね」、


「これは出るなという隊長命令無視の罰則と、未整備状態での出撃前のチェックを怠ったにもかかわらず出てきてしまった彼女のミスなんだが」といって視線を頭部に向ける。



 そしてちょうど、BC種が居るあたりを見た……。


(見えているわけでは無くそのあたりに設置固定されているのが分かっているのでそのあたりを見るという仕草である。

 BC種側からこちらは見えている可能性はあったが……)


「この機体は疫病神やくびょうがみかもしれないんだ……」と私は四番機予備機を見つめた。


「そういうことで、整備されてこなかったわけだが、主には整備できるメカニックの数が足りてない、という現状も浮き彫りにしているということもあって、ギルドには通達済みだ。中々メカニック要員がこない、というのが現状さ」といって、黙殺されているのかもしれないがと思った。



「侯爵になったんだ、足りてない現状を看過できないと、でもいって無理やりメカニックの数を増やすさ……」というのが限界であった。




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