Q

第1話

「楓は女の子だからだめ」

 まだ小さかった頃そう言われて友達の中に入れてもらえない事が度々あった。なぜ自分が仲間に入れてもらえないのか全然わからなかった。そして、今でもよくわからない。

 人はみんな揃いも揃って『男』だとか『女』だとか『異性愛者』『同性愛者』『LGBT』だとかそういう枠に自分を、そして他人を当てはめたがるけれど、それになんの意味があるというのだろうか。

 私の体が、女というものに部類されるのは知っているし受け入れてもいる。けれど、だから何?と思ってしまうのだ。男も女も人間でしかないのに。分ける必要はあるのか、と。

 女らしさを押し付けられると抵抗感がある。けれど、だからといって男なのかと聞かれても『わからない』としか答えられない。

 私が私の性別に名前をつけるなら、女であり男である。といったところか。どちらの性でもあり、どちらの性でもない。それが私だ。

 女の子の様に可愛いものも好きだし、男の子の様に格好いいものも好き。その日の気分で変わるそれを固定する意味はあるのだろうか。

 和食が好きだからといって一生和食のみを食べ続ける人がいないとは言わないが、殆んどいないと思う。誰だってその日の気分によって、洋食や中華を食べているだろう。それなのに何故、性別の話になると声を揃えて枠の中に押し込めようとするのか。理解が出来なかった。

 一番イラっとしたのは、男子生徒二人がじゃれていたときだ。「なにあれ?ホモ?」そういって誰かが嗤った。二人で仲むつまじくじゃれついてていいのは男女のカップルだけ。そう言わんばかりのその言葉に、どうしようもないほどの憤りを感じた。あの二人の関係がどうであれ、その子にはなんの関係もないだろうに。


 どうしようもなく、女子の制服が嫌なときがある。たまに、男子の学ランに憧れる。

 けれど、それを訴えた所で自分の主張が通らないのもわかっている。

 枠からはみ出るものは異物として淘汰される世の中だから。私はその淘汰される側の異物なのだろう。

 だから、今日も女子のフリをして、女友達の女子トークに参加する。

 それでも、やっぱりわからないのだ。好きな相手が男の子でなければいけない理由が。



『性別ってなんのために必要なんですかね?』

 世の中の全てが納得いかなくて。でも友達相手には吐き出せなくて。そういう気持ちはSNSで吐き出す事にしている。

 顔も名前も知らない人たち。そういう人達が、ポツポツと共感の意思表示をしてくれたりコメントをくれる。

 中には否定されているわけではないけれど、やっぱり枠にはまったコメントが来てモヤモヤすることもある。

 けれどそれは仕方がない事なのだろう。私と相手は違う人間なのだから。なぜ、皆それを理解せず考え方を押し付けてくるのだろうか。


早く大人になりたいな。


 SNSで交流のある人達の会話を見ているとそう思う。みんな私より年上で殆んどが社会人。

 窮屈そうだと思うことも多いけれど、それでも高校という狭い枠組みの中よりは自由に見えた。性別も恋愛も多種多様な世界が広がっている。

 私は、まだ恋をしたことがない。


 恋なんて無くても生きていけるとアイさんは言う。

 好きな歌手に恋をしているささみさんは毎日が楽しそうだ。

 カイさんは少しもやもや悩んでいそう。

 反対に、ゆうさんの生活はいつでもパワフルで満ち足りて見えた。

 Naoさんはあまり自分の話をしない。けれど大人のお姉さん、といった風でいつでも誰かの世話をやいている。そして商売上手。『成人したら店でお祝いしてあげる』と言われているので今から楽しみだ。

 皆が投稿する内容を斜め読みするだけでも色々な恋がある。

 そして、あまり自分から投稿することがないIさんは最初から愛される事を諦めている雰囲気があった。以前Iさんに愛とは何か聞いてみたら『苦しいもの』という答えが返ってきた。私はまだ恋をしたことがないけれど、なんとなく共感できる気がした。


 学校にいると、自分の将来すら見えなくなるほど不安になる事が多いけれど、一歩学校の外に目を向けてみるとまだまだ知らないことの方が多かった。

 私が悩んでいる時、ここの大人たちだけは私を枠に嵌めたがらない。自由でいいと言ってくれる。世界は広いよ、と。

 辛くなったら店においでというNaoさん。

 その時は保護者として付いてきてくれるというカイさん。

 もし恋がでなくても、私たちがいるから。一緒にライブ行こう、なんて。半ば勧誘のように声をかけてくれるささみさん、そしてそれをやんわりと牽制してくれるアイさん。

 子供相談室やLGBT相談ダイヤルなんかの安全に利用できるらしい支援団体があると教えてくれたIさんもいる。


 将来の事はまだ、全然わからない。彼らを見ていると、自分がまだまだ子供だと実感する。

 皆は、『それがわかるだけ大人だよ』と言ってくれるけれど、まだ全然たりていないと私は思う。

 数年後、私も彼らのように誰かを助けられる人になれているだろうか。

 そうなれていればいいと思う。



Q……クエスチョニングは憧れる

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