第1話

「あっ!よっしーじゃん!今帰り?」


「うん..」


「テンション低!ってか何でこんなに遅いの?」


「朝言っただろ?補習だよ補習」


「あ〜、そうだったね。で、教科は?」


「いつも通り」


「ってことは社会か〜」


美咲は成績がいいとは言ったが、苦手な教科は俺と同じ社会だった。


まあ俺は全教科苦手なんだが...


「社会以外だったら教えてあげられるのにな〜」


「それはまたみさきが空いてる日に頼むよ」


「まっかせて!」


彼女の両親はカフェを営んでいて天候によって客の入りが変わるため、彼女は晴れの日だけ店の手伝いをしていた。


「って言うかあれ読んだ?」


「読んだよ!え〜っと...あれ?なんだっけ?」


「転生したらゴブリンだった件ね!」


「そうそう!それそれ!」


「も〜、読んだばっかりなんだから忘れないでよ〜!」


「ド忘れしただけだよ」


「あーね!それでどうだった?」


「めっちゃ面白かった!!」


「ね!?言ったでしょ!?」


「うん!俺が1番気に入ったところはーーーーー」


そんなこんなで最近読んだラノベの話をしていると、気が付いたら俺たちは自分達が住んでいるマンションの前まで帰ってきていた。


俺の部屋は5階の階段から見て右側の部屋で、反対側が美咲の部屋なのだが、エレベーターが2日前から壊れていたので、階段を使って登らなければならなかった。


なので俺たちは晩ごはんの話をしながら階段を登っていた。


すると...


「うわっ!」


後ろで美咲が声を上げたので、振り向いて確認すると、俺はとっさに美咲の腕を掴んでいた。


みさきが足を滑らせて転落していたのだ。


俺は美咲の腕を掴むのに気を取られていて、もう片方の手で手すりを掴むことを忘れてしまっていた。


俺は運動部員の美咲を怪我させまいと俺が下敷きになるように体をひねり、両手で美咲の頭を自分の胸に抱き寄せ、すぐに来るであろう衝撃に備えて目をつむった。


そしてすぐに衝撃となかなかの痛みが俺の体を襲ったが、その衝撃と痛みは明らかにコンクリートに落ちたものとは違うものだった。


「っいてて、み、みさき、大丈夫か?」


「う、うん」


「なら良かった...って、えっ!?」


「どうしたの?」


「ここ...どこだ....?」


気がつくと俺たちはさっきまでいた階段ではなく、どこかの路地裏にいたのだ。


しかも落ちきっていたはずの太陽はたった今沈み始めたところで、地面はコンクリートではなく土だった。


人間びっくりしすぎると動けなくなるもので、俺たちはしばらく固まっていた。


そして俺たちは少し話し合い、意を決してこの路地裏を進んでみることにした。


少し路地裏を進み、大通に出ると俺たちの目に信じがたい光景が飛び込んできたのだった。


剣や防具を身にまとった屈強な男たちや、長いローブを身にまとい、先端に水晶がついている長い棒...というか杖を持っている人達が行き来していたのだ。


俺たちは直感でここが異世界だと理解した。


が、現実を受け入れるのはそう簡単ではない。


「マジでどうなってんだ...」


「ねぇ...これからどうする...?」


俺たちが棒立ち状態で途方に暮れていると、知らない男に声をかけられた。


「やあ君たち、どこから来たんだい?あまりみない服装だけど...?」


そう言われて俺たちは自分の服装を見る。


当たり前だが俺たちは制服を着ていた。


ぶっちゃけこの世界では死ぬほど浮いている。


だがそんなことより俺には聞きたいことがあった。


「すみません!ここどこですか?」


「どうしたんだい?いきなり血相を変えて...まあいいか、ここはフミルという町で、アルバ国の中心にある町だよ」


「フミル??」


「アルバ国??」


聞いたことのない地名に俺たちは思考が停止した。


「なんだい?その反応は...まさか知らないのかい?」


「は、はい...俺たちは日本にいたんですが、気がついたらここに...」


「なに!?ニホンだって!?君たち悪いがこっちに来てくれ!」


「えっ!?ちょっ!?」


俺たちは強引にその男に連れられ、歩き出したのだった。

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異世界召喚された世界に同期生がいた話 花込 沙谷香 @hanagomesayaka

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