『小さなお話し』 その260・・・・・『古墳めぐり』

やましん(テンパー)

『古墳めぐり』 前編

 『これは、フィクションです。この世の中とは、一切無関係です。』





 さいきん、古墳めぐりに凝っています。


 『こふん? そんなもん、めったにないだろ?』


 いやいや、それが、そうでもないのです。


 考えてもみてください。


 いや、よくない考えだろうと思いますが。


 もし、また、大津波が来て、このあたりが、みな海の底になったら、そうして、そのまま、いっぱい、土がつもったら、そこらじゅうが、遺跡や古墳になりそうです。


 そこまで考えなくとも、いくらか掘れば、遺跡は実際、割によく現れるのです。


 たとえば、このあたりは、昔は、海だったのです。


 だから、小さなお山も、かつては島だったのです。


 島の周囲には、遺跡や古墳が残りやすいわけです。


 高速道路とか、おおがかりな開発とか、作ったりすると、そういう遺跡や古墳が、出現するわけで、壊してしまうこともあり、だから、工事に当たっては、あらかじめ周辺の調査が行われるのです。


 もし、道路を通すとかになったら、遺跡全体を引きずって、残した場所もあるようです。


 そこで、けして、大きいものではない、全国的に有名でもない、小さな遺跡や古墳は、探せば、けっこうあるものなのです。


 もっとも、古墳時代からやがて奈良時代にかけての当時、だんだん、仏教が広がって、お寺ができると、古墳は、作られなくなっていったようなのです。



 あるひ、ぼくは、不思議な山に入っておりました。


 実際、それは、地図の上でも名もない山で(実際にはあるのですが)、民家もほとんどなく、繁華街から、そんなに離れてはいないのに、なんだか、別世界の香りが漂うような場所なのです。


 かつては、海岸沿いだったと思われます。


 資料の上では、そこに、小さな古墳があることになっております。


 ほとんど、山側からの圧力で崩れていて、形も原型を留めていないと、あるのです。


 車は入れないので、ふもとに止め、ぼくは、ふらふら歩いて回りました。


 昼間なのに、薄暗い。



 すると、いいかげん歩いたところに、崖っぷちに、穴が開いておりました。

 

 資料によれば、小さな祠のようになってるらしいのですが、それにしては、なんだか、大きいのです。


 屈んで入れば、人もはいれそうです。


 だいたい、おはかですから、公に公開されている場所はともかくとして、やはり、中を覗くのは、ご遠慮すべきでありましょう。


 そのとき、なんと、穴の中から、ひとりの女性の姿があらわれたのです。


 たいへん、古風な、もめんらしき白い貫頭着ですが、どことなく、モダンな雰囲気さえあります。


 しかも、なかなか、美しい。


 お化粧が、ちょっと、はでです。


 一見、たぬきさんのような。


 ぼくは、たぶん、流行りの、歴女のかただろうと思いました。 


 すると、そのかたが、手招きするのです。


 そうなると、無視も出来ないではないですか。


 『もし、おいやでなければ、なかをご案内いたしましょう。』


 『え? いいのですか?』


 『はい、あなた様だけならば。』


 『ふえ~~~~~~~?』


 ぼくは、さしてこの世に未練もなく、まあ、いいか、と思い。ついてまいりました。


 すると、穴の中は、意外と広くて、立って歩けるくらいです。


 しかも、なにかの方策で、ほんのりと、色よい明かりが入っております。


 『こりゃあ、もしかして、『ひるこさま』とか出ませんか?』


 『ほっほほほほほのほ。まあ、とって喰ってしまうなどはございません。』


 『はあ。そりゃあ、どうも。』


 『はい。ここは、『ひみこ様』がいらっしゃった時代から、もうすこし、後の時代に造られました。表向きは、墓なのですが、実は、この奥には、時に流れに関わらない、我が主〈あるじ〉の、屋敷がございます。そこに、参ります。』


 『ええ。。。なぜですか?』


 『主が、あなたが通りかかっているから。この機会にぜひと、申しまして。』


 『はああ・・・・? よくわからないなあ。』


 『まあ、主が、お話することでしょう。』


 そんなに長く歩いたようではないのですが、あたりは、突然ぽっかりと、空間が開けたのです。


 そこには、みごとな庭園に囲まれた、お屋敷がありました。


 ただし、そんなに豪勢なものではなく、おそらくは、このあたりの木材を切り出し、上手に作った、ハンドメイドのお屋敷。


 そういう感じであります。


 しかも、ガラスの窓、なんてものはなく、あちこちが、開きっぱなしでした。


 そうして、屋敷の中に入ると、たいへん上品そうな、主と言われた方が、現れたのです。


 こりゃああ、きつねさんか、たぬきさんか、とも、思いましたが、しっぽはありません。


 もしかしたら、一種の『隠れ家』かもしれないのですが、それには、人間は登場しないのが通例です。


 『よく、おいでくださいましたな。まあ、『彼も一時、此も一時』と申しますゆえ、ここは、そう思い、おつきあいくだされませ。』


 ぼくは、真ん中にお湯が沸いている座敷に通されたのです。




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