この感情は………?

体育館の教壇の前に立ったのは、校門で歌っていた上級生の女性だった。


えっ!?【上級生】じゃ無かったの?あれで【同級生】だと!?私は自分の胸を見て視線を彼女に移した。


ああぁ、格差社会とは無情な………今泉先生ぇ~今、貴女の気持ちが分かりました!


などどバカな事を考えていると皇すめらぎ詩音と呼ばれた女子生徒が話し始めた。


「新入生代表─私達は桜ヶ丘学園に入学出来てとても嬉しく思います。そして─」


必要な事を的確に簡潔、はっきりした口調で話している詩音の声はとても聞き取り易かった。


「─とまぁ、定型文はここまでにしてここからは私の気持ちを話させて頂きます」


そろそろ終わりかと思った祝辞途中で、何か妙な事をしゃべりだした。


「そろそろ長い話しで眠たくなってきた頃だと思いますので、少し話を変えましょう。今、この場ににる皆さんで校門で歌っていた私を見てどう思いましたか?ほとんどの方が上級生だと思いませんでしたか?」


グサッ!!!?


ゴメンなさい!思いました!あっ、周りの皆も思っていたみたいね。お互いの顔を見ているよ!


「クスッ、それは半分正しく半分間違いです。私は中学に入ってから大病を患い、1年間の闘病生活の末、1年留年しています。ですから皆さんより一歳年上なのです」


えっ!そうだったの!?


「でも、同級生の皆さんが年上呼ばわりしたら殺しますよ♪私、ただでさえ年増に見られて傷付いているんですから!」


こわっ!?目が笑ってないよ!あれはマジだよ!!?本当にゴメンなさい!!?


「コホンッ、とまぁ~今は健康になって激しい運動も普通に出来ます。皆さんも健康には気を付けて下さい。特に交通事故など家族を悲しませる行為は絶対にダメです。部活に勉強、友達との交流など青春は一度っきりです。皆さんも怪我や病気に気を付けて学園生活を送って下さいね」


実際に苦しい体験をしている人の言葉には重みがあった。それは体育館にいる皆が思っている事だろう。


「そして自分の夢を見つけて下さい。部活で全国大会優勝を掲げても良いです。文化部も今回の入賞でも良いです。将来のやりたい職業を目標にしても良いです。夢を持った人は強い。きっと素敵な学園生活になるでしょう!」


凄い!退屈な祝辞から一転、いつの間にか皆が詩音の言葉を真剣に聞いている。


「ちなみに私の夢は歌手になることです。この場を借りて1曲歌わせてもらいます」


えっ!?この場で歌うの!?


「とは言ってもギターもありませんので【簡単】に、アカペラで歌わせてもらいます」


しばらくの静穏の後に詩音が【演奏】し始めた。


指を弾いてパチンッ!パチンッ!パチンッ!と音とリズムを出して、さらにはダンスを踊る様に、靴の踵を地面に付けて足踏みするかのように、ラップを踏んで軽快な音を出し始めた。


そして声でメロディーを紡ぐ─


ラーラーララー♪

ラーラーラララー♪♪♪


『希望の羽の音が聞こえるよ

たくさんの夢と言う色が集まり

虹の橋が掛かるよ___まだ見ぬ未知なる世界へ


ラーララー♪♪♪


輝く季節に煌めく夢

愛する人と共に夢に向かおう


不安という見えない音が聞こえるよ

見えない絶望を見える希望に変えて

たくさんの仲間という力を集めよう

虹の道を歩き___果てなき世界へ


ラーララー♪♪♪


輝く季節に煌めく夢

信頼出来る仲間と共に夢に向かおう』



時間にしたら5分………いや4分も無いかも知れない。それでも私はこの時間が終わらなければと願った。目が離せない。音も聞き逃さない。全神経を研ぎ澄まして聞き入った!


身体の全てを使って音を作り、リズムを生み出し、そして声で歌を紡ぐ!


バラエティや歌番でテレビで見たことはある。でも現実に目に前でそれを体感するのでは全然違った。贔屓目無しで、テレビのプロよりもレベルが高いのでは?と感じた。


そして、歌が凄く良かった。正直、感動したの!!?


「ご静聴、ありがとうございました。これで以上になります」


深くお辞儀をしてステージから降りていく詩音に惜しみ無い拍手が体育館を包んだ!


パチパチッ!!!

パチパチッ!!!

パチパチッ!!!



「凄かった!」

「良い声、歌だったよ!」

「やばっ、鳥肌たった!!?」

「感動したよー」



あの眠かった入学式がアイドルのコンサート会場の様な熱気に包まれた。



そして私は自分でもわからない感情に支配されていた。





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