ユメモブ~夢魔の子孫だった私が夢の中のモブとして悪夢退治~
チクチクネズミ
私はモブ
夢を見ていた。
そこでの私の立ち位置は、きらびやかなシャンデリアが垂れ下がるお城のダンスホールで王子様と踊る女の子……を見守る貴族の子供。つまりはモブだ。
私の見る夢はいつもここ。あるときは延々と主役の上空を飛び回る鳥、あるときはケーキのスポンジしか焼けなくて泣く泣くスポンジを食べるケーキ屋さん、ある時は主役を見守るお星様。
主役でも敵役でもない端にいるような立ち位置が私の定位置なのだ。
「王子様すてき」
王子様にエスコートされながらきらびやかなドレスを着た女の子が色めいた声を上げて、くるりと円を描くように踊る。他の人たちは誰も踊りに行こうとしない。この夢の中心はあの二人だけのもの、だから私も群衆の中の一人として収まっている。
目立つこともなく大きな変化もないコツコツと役目を果たしていつの間にか夢が終わる。それが私の見る夢。とてもつまらない。現実では隅っこに潜んでいるのに夢の中でもこの立ち位置、夢の中だけでも楽しい夢を見たいというのにと夢を見る。今夢の中にいるのに夢を見ると考えるのは変だけど。
それにしてもあの二人の舞踏はまだ終わらない。音楽はサビの部分に入ったと思ったらまた戻ってのループをしているし。いっそ夢が終わるまで踊り続けてしまえばいいのに。
ぐるりと二人が私のところにまで見せつけるように変わらずステップを踏んで回転しながらやってきていた。
「だ、だれか。止めて」
一瞬過ぎ去っていったドレスの女の子は青ざめた顔をして助けを求めていたんだ。
ど、どうしよう。誰か止めてくれる人は。しかし誰も二人を止めようとする気配もなく呆然と見続けているだけ。そうか私も含めてみんなこの夢ではただのモブでしかない。
でもこのまま放置するわけにも、なにか台車でもあれば止められるのに。でもそんなものが都合よくあらわれるわけが。と思った矢先目の前に料理を運ぶ台車があった。さっきまでなかったはず。だけどこれでと、台車の取っ手をつかみ勢いよく王子様に向けて突き飛ばした。
ガッシャーン!! 台車がぶつかり、二人を引きはがすことに成功。けど上に乗っていたスパゲッティやフライドチキンなどの料理が空高く飛び上がって、私を含めた群衆の頭にかぶってしまった。私を含めみんなスパゲッティの麺とソースが髪の毛の上から垂れてドロドロに汚しちゃって。お母さんに怒られちゃうと一瞬思ったがよく考えればこれは夢の中だから、怒られるわけもないと思い出した。
王子様に永遠とダンスされていた女の子は、ホールの真ん中に倒れていた。駆け寄ると目を回して倒れていたが、ドレスがスパゲッティとチキンまみれになったぐらいで顔色が戻っていた。よかったぁと胸をなでおろしたその時だった。ダンスを中断された王子様が真っ黒な顔と赤い目で鋭く睨みながら私の肩を強くつかんだ。
「オマエ、ユメヲカキカエタナ」
布団を跳ね飛ばして体を起こすと私は目を覚ましていた。まだ春の季節なのに背中がぐっしょりと自分の大量の汗で濡れていて、体が震えていた。
普通の人なら夢の内容なんて起きた瞬間に忘れているだろうけど、私は今まで見てきた夢のことを最初から最後まで覚えている。
あのまま夢の中にいたら私はあの王子様にどうなっていたのか、想像するだけで震えが止まらなくなる。
「だけど夢……だよね」
そう、覚えているとしても結局あれは夢でしかない。全ては夢の中の話であると。
でもあの夢の中でつかまれた感触はしっかりと残っていた。
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