才能がないと言われた俺は、最高のギフトを授かって成り上がる。

仲仁へび(旧:離久)

第1話




 その世界は、才能が全てだった。

 才能があれば、権力も富も手に入る。

 しかし才能がない者は、何も得られない。

 そんな世界だった。





 俺は、天才ばかりを産む家系に生まれてしまった。

 だから子供の頃から、母と父に溺愛され、育ってきた。


 何でも買い与えられたし、どんな我がままを言って聞いてもらえた。

 だから、慢心していたのだろう。


 そんな俺に、何の才能もないなんて事、あるはずがない、と。


 そんな子供の頃の俺は、おそらく人生の中で一、二を争うくらいの幸せであふれていた。


 それが、つかの間のものだと気づかずに。


 運命の日は、七歳の誕生日だった。


 他の国はどうだか知らないが、俺のいる国で生まれてきた子供は、七歳になった時に、特殊な水晶を使って才能を調べる。


 魔法の才能や剣の才能、算術の才能や、力持ちの才能。

 自分にどんな才能があるのか、水晶を使えば分かるはずだった。


 その才能を元にして、魔物の討伐や学者になるなどの将来が決まる。


 けれど、水晶は何も示さなかった。

 いやそれは、示す才能が何もないもないと、無言でつきつけてきた。


 結果を見た父と母は、呆然としている俺を家から追い出した。


 才能がないお前は、間違って生まれてきた他人なのだと。


 そう言いながら








 行く当てのなかった俺は、町をさまよう中で、孤児院に拾われた。


 俺は才能ある家の人間だったから、誕生日が来るまでは彼らの事を……才能がないゆえに貧しい暮らしをしている者達を、いつも馬鹿にしていた。


 それにもかかわらず、孤児院の者達は俺を受け入れてくれたのだった。


 だから、俺はその日から心を入れ替えて過ごす事にした。


 才能がある者も、無いとされている者も、同じ人間。

 そう考えるようになった。


 彼らの優しさに耐えかねて、孤児院を飛び出した夜もあったが、誰かが必ず探しに来てくれた。


 才能がなくても、ここにいていいのだと理解できた日に、俺は人生で初めて泣いた。






 孤児院の生活に慣れた頃、小さな子供達が、ゴミ捨て場に捨てられていた水晶を拾ってきた。

 たぶん価値を知らずに偶然持ってきたのだろう。

 ぞんざいに紙に包んで、他の戦利品と共に持ち帰ってきたからだ。


 誰がそれを捨てたのかは知らないが、才能がないゆえに孤児院に集まった俺達にとっては無用の長物だった。


 だから皆の意見は自然と、売り払ってお金に変えようという事になった。


 しかし、その水晶を俺が持った時、思わぬ変化が生じた。


 水晶が示したのだ。


 何の才能もないはずの俺に、何かの才能があるという事を。


 俺が持っている才能は、捕食。


 才能は七歳の時に授かるのが一般的だが、たまに成長してから授かる事があるという、そういうのは神様に成長を認めてもらえた証なのだと言われていた。


 その成長してから判明した才能。内容は、食らった物を自分の力に変える才能だった。


 食べ物や無機物、魔物などを食らうと、自分の力にできるらしい。


 けれど、俺はその力を誰にも言わなかった。


 力を手にした事によって、孤児院で得たものが失われる事が怖かったからだ。


 俺にとっては、富を得る事よりも、権力を握る事よりも、今の暮らしが続く事が大切だったからだ。


 それからは、何事もなく日々を過ごしていた。


 売り払った水晶のお金は、とうに孤児院の補修や備品の購入にあてられていた。


 そんな中、ある事件が起こる。


 魔物の軍勢が俺達のいる町を襲ってきたのだった。


 俺達は慌てて、町から逃げ出そうとした。


 けれど、気付いた時には魔物の包囲網がぶ厚くなっていて、人間一人すら逃げ出せない状態になっていた。


 何の備えもなく、魔物に囲まれた町の人達は、死を待つのみだった。


 孤児院の者達も運命を共にするはずだった。


 俺が何もしなければ……。






 力を解放した俺は、攻め来る魔物を片っ端から食らっていった。


 食らうために強くなっていった俺は、何日もかけて魔物の群れを討伐。


 無我夢中で戦った後に気付くと、町のヒーローになっていた。


 すると、誕生日の日に俺を捨てた両親達が、養子の少女を連れて俺の前に現れた。


「お前を捨てたのは間違いだった」

「あなたなら、素晴らしい才能を開花させてくれると信じていたわ」


 聞こえの良いセリフを述べて俺に手を差し伸べてきた彼等。


 だか俺はその手を振り払った。


 俺がいる場所は、もうそこにはないと思ったからだ。


 俺には戻りたい居場所があるのだから。


 新たに迎え入れられたらしい存在……養子の少女には睨まれてしまったが、俺はあの家に戻る気はなかった。








 恐る恐る戻った俺を、孤児院の者達は歓迎してくれた。


 心配して、そして無茶をした事を怒られた。


 そして最後に「ここにいてもいいのか」と問う俺を、優しく抱きしめてくれた。


 俺はようやく、安心していられる家を見つけたのだと確信した。


 しかしこの世界には、多大な功績を作った俺を見逃すような者達はいなかった。


 俺の力は強大だった。


 孤児院の者達の境遇を考えて、各勢力から反感を買わないようにしたかった。


 だから俺は様々な組織や町や村、国からよこされる頼みに全て答えた。


 魔物を倒し、犯罪者を倒し、困難を解決する。


 孤児院の者達と会える日は、日に日に少くなくなっていった。


 しまいには、手紙のやりとりだけになってしまったくらいだ。







 そんな俺は、すくすくと育って成人の年齢に達した。


 大人になった証であるとされる、国特有の儀式をすませ、神職の人間に祝福の言葉をもらった。


 立派に育った俺に、孤児院の者達も祝いの言葉を手紙につづってくれた。

 俺は誇らしい気持ちでいっぱいになった。


 けれど、ある日孤児院の者達が、とある国の者達に攫われてしまった。

 その国は敵対している国だった。


 俺の力を利用したいがゆえの暴挙らしい。


 すぐさま駆け付けたけれど、孤児院の者達は亡くなってしまっていた。

 俺は復讐心に駆られて、その事件に関わった犯罪者たちを根絶やしにした。


 俺に情報をくれた国王が、必要ならばその国を滅ぼしてもかまわないと言っていたが、関係のない者達を殺すのには抵抗があった。


 俺は才能を得て、様々な物を手に入れた。


 権力に富、人脈。

 優れた道具、珍しい宝石なども。


 けれど、一番大切だったものはなくなってしまった。


 成り上がった俺は落ちぶれて、荒んだ暮らしを送るようになった。

 人々からは、堕ちた天才と言われるまでになった。






 そんな俺は、しばらく生きる気力を失っていた。

 だが、ある時、一人の少女に出会って目が覚める思いをした。


 それは大きくなった孤児院の者達が、互いの想いを実らせ、結ばれてできた子供だった。


「父さんと母さんがすごいと言っていた英雄に戻って」


 その言葉に頬を叩かれた俺は、もう一度立ち上がる。


 そして、その子供がお世話になっていた村を助けることになった。


 その村は盗賊の根城にされて、支配されているらしい。


 俺はすぐさま、盗賊達の元へ向かった。


 しかし、そこで見たのは、幼い頃に出会った養子の少女だった。


 結局父と母から見捨てられたその少女は、堕ちぶれてしまい、盗賊に身をやつしていたのだった。


 俺は盗賊の拠点を壊滅させて、彼女に手を差し出した。


 孤児院の者達は、たくさん亡くなった。

 残ったのは、彼らが必死の思いで逃がした、一人の少女だけだった。


 少女が生きていてくれた事は嬉しい。

 けれど、それでも喪失によって開いた、胸の穴は埋まらなかった。


 だから、これ以上知っている人間を失いたくなかった。


「どうして、私などに手を差し伸べるのですか。父と母に見限れた時、私が伸ばした手を誰もとってくれなかった」


 その言葉を聞いて、ようやく俺は腑に落ちた。

 自分の行動の、真の理由に、


 彼女はあの日の、孤独になった日の俺と同じだったのだ。


「理由なんてない、才能があってもなくても、富める者でもそうでなくても、そんな目をした誰かに死んでほしくないんだ」


 その日、堕ちた天才は汚名を返上し、かつての英雄が生き返った。


 俺達の前には、様々な困難か押し寄せ、様々な災難が発生したが、


 孤児院の者達に与えられた何にも代えられない力……俺の世界を変えてくれた贈り物、「誰かと手をつなぐ強さ」を携えて、その全てを解決していった。







『こんなところにいたのね。さあ、孤児院に帰りましょう』

『……何で俺を探しに来たんだよ。 俺は、お前達の事ずっと馬鹿にしてたんだぞ』

『そんな悲しい目をした子を放っておけるわけないでしょう? どんな子供だって同じ。一人ぼっちは寂しいし悲しい。だからほら、手をつないで一緒に帰りましょうね』

『……分かった』




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