030//閑話5

神秘の神に間違われたのでその神に会いに行ったらでっかい眼に睨まれて死にかけてシールとケンカになって出立が延期になった。

そんなこんなでまだリディウムの宿に居る。



落ち着きたくてロビーでコーヒーを啜る。確かこっちではルガッガとか言った筈だ。飲めもしないのにホットで頼んで、舌を火傷させそうになりながらチビチビ飲んでる。余計イライラするから、素直にアイス頼んでおけば良かったと少し後悔。

「なぁに黄昏てんの?」

「ほぇあっ」

いきなり後から声掛けられて大仰に咽こむ。

痛い痛い、熱、苦しッ!!

驚かせてくれやがった張本人はKの横に回りこんで「あーあー」なんて可愛く見守ってやがる。

「ちょっと話してみない?」

「はぁ」

Kが落ち着くのを見計らって、黄緑色の火のカミサマはそんな提案をした。


「ゲブラーにはね、ボクらの兄弟がいるんだよ」

「…あの眼?」

「――――うん。彼は大き過ぎる力の塊。それ故、明確な自我を持てない」

「その割りには、強っい敵意放ってくれたけど」

「あれはね、時間も関係してるんだ。昨日は丁度宵の八時頃。煌天が訪れる時が最も彼の力が高まる時なんだよ」

「え、煌天って…」

「煌月は毎日毎時変動してる。完全な煌天と静天の日は別だけど、煌月がその日一番輝く時も煌天って言うんだ」

「へぇ、知らなかった」

マルクトで説明を受けた気もするが、あんまり覚えてない。

「君達はテマーネやってるんでしょう?」

「そうだけど」

「じゃあ、会うんだね」

火のカミサマは淡々と続ける。

「彼はターミナルの上に留まってるから。…留められてるって言うか」

「じゃなくてもぶっ倒すし。色々とアイツの所為なんだよ」

「―――」

漸く感情を伴う表情を見せるスクラグス。困ったような、苦しいような半端な微笑み。

「―真実を、聞きたい?」

「え?」

「テマーネの真実。ボクら側のね」

「それは…」

聞いてもいいのだろうか。

知ってもいいのだろうか。

解らないが、聞きたいかと感情に問われれば。

「…うん」

スクラグスは頷いて話し始めた。

「テマーネを終えると願いが叶うって聞いたでしょう?」

「うん」

それを期待して旅を始めた。信じてたワケじゃないけど、願掛け的な意味合いで。

「あれはね、『エサ』なんだ。たった十国廻って願いが叶うなら誰でもやるよね。まあ人の身では確かに大変かも知れないけど、そこまで難しい事でもない。暇と根気と体力と資金があれば出来るだろうし」

それは結構大変な気もするけど。

「でも本当は、出来ないから」

「 ? ああ、ゲブラーが…」

「そう。だから本当はこう言ってるのさ」

『ゲブラーの玄霊を抹消せし得た者には望みの褒美を取らせる』

「ってね」

「…成程」

じゃあアレは、今回の八つ当たりがなくっても結局倒さなきゃいけなかった。

「うん。でも皆期待してるんだよ」

「Kたちに?」

「そうだよ」

「君達がこの世界にやってきて、タクちゃんが『予定通り』君達を選んだ時に―」

ああ、そうだ。

この世界にはジズフがいる。

いるということはKたちがこの世界を訪れるのは確定で。

カルキストになるのも決まっていた。

「命が下った。君達のサポートをしろと」

「…」

ということは、カミサマに命令を下すものがいるらしい。

あの眼が何なのかも解らないけど、神々から、ひょっとするとから、消滅を望まれている。

「それは、タクちゃんには内緒だけどね」

「どうして?」

「ボクはもう、傷付いて欲しくないからさ」

「………」

正直、事情も知らないし、意味は解らない。

でも。

「ん」

ひとつ頷いて、顔を上げた。

「しょうがないな、任しとけって。あんなのに負けないよ」

「あはは、うん、期待してるからね。でも…」

一度区切って、スクラグスは遠くをみるような目をした。

「これは、ボクら側の真実。彼にも彼の真実があるんだろうね」

「…」

彼…とは誰をさすのか。眼か、それとも…

「ねぇ、誰でも…ボクみたいにさ。知られたくない事や失いたくない物があって。特に大切な人にはさ、臆病になるものなんだよね」

「………」

言わんとすることは察した。Kだって、そこまで鈍いワケじゃない。

「…解ってる…何かに怯えてるのは解ってるんだよ」

「うん。そっか。じゃあ、ボクはもう行くね」

「……」

言うだけ言って火の神は消えた。

飲める温度になっていたコーヒーは、苦さが際立っていた。



部屋の扉が開く音がした。

aが帰ってきたみたいだ。

「ただいまー」

「お帰り」

「え、K何処か行くの?」

丁度コートを羽織った処だったKを見てaが尋ねる。

「ん」

aを振り返って手をぐっぱぐっぱさせる。まるで睨むような顔になっているかも知れない。

「シールはたいてくる」

「え…」

「あ、と。その前に」

ざっくりとスクラグスの話をaにも話して意思を確認する。

aの答を受け取って、Kは部屋を出た。



ドンドンドンドンドンドンドンドン!

「何や! 誰や鬱陶しいなっ」

連続で激しく戸を叩き続けた処、扉の向こうからグールの苛付いた足音が近付いてきた。グールの到着を待たず勝手にあける。

「ッ、」

ちょっと不機嫌全開らしい。グールが黙って道を譲ってくれたので、ベッドに寝転がってるシールの元まで直進する。

「ご同行願うよシール」

「…」

無言で身を起こす。

向かうはジズフ神殿。

混乱の始まりの地で。



ジズフ神殿。

明るい内に来るとこんなに見晴らしがいいんだ。夜景も良かったけど、日中の街並みもいいもんだなぁ。

「…」

さっきからシールは一切口を開かない。

それを確認して何度目とも知れない溜息を隠すようにして吐き出すと、そろそろ口を開く事にした。

「改めてカミサマから直接聞きました。ゲブラーの眼を倒せたら、望みを叶えてくれるんだって」

「…」

背を向けたまま話す。

スクラグスの話で色々とフラッシュバックした。

 『今後もおそらく命にかかわるような困難が襲うだろう。それでも、テマーネを続けるか?』

 『確かに、随分と才能をお持ちだとか。もっと鍛えてからの方が良かったかも知れません』

そして

 『うん。でも皆期待してるんだよ』

つまりきっと命懸け。挑んだ前例があって、

「だから、Kとaはアレに挑むよ。これは自分たちの意思で、自分の為だよ。Kたちの生き死にの責をシールが負わなくていい」


「だからさ」

振り返る。シールは予想よりもっと頼りない表情カオをしてた。

「本当はシールが何恐がってるか知らないし、勘違いだったらすっごい恥ずかしいんだけど…」

ああ、こんな事言うのは物凄く恥ずかしい。でも、もうこんな空気は嫌だし。もう、そんな泣きそうな表情カオされるのも嫌だし。

「―――信じて」

旅は楽しく行きたいじゃん。

それには、自分を一番に考えなくちゃ。

「誰も、後悔しない。Kもaさんもグールもシールも、死んだりしないから」

「―――おまえは…」

「え?」

「…いや」

それきり黙りこむシール。

やばいな、恥ずかしいじゃん。こういう事じゃなかったのかな?

「…困ったな…。ねぇシール、そんな泣きそうな表情カオしないでよ」

「泣き…ッ!」

慌てて顔を上げるシール。なんだよ、どう見たって泣きそうじゃんか。

まあとにかく、Kが言いたかったのは。

「ね、だからさ……この雰囲気、戻そうよ。嫌なんだよ…」

それに、心底困りきった表情カオ

「―――」

何かを振り払うように髪をぐしゃっと掻いた。

「~~~悪かったな…。そんなつもりは無かったんだ」

うん、良かった。

「…ゲブラー…行くのか?」

まだ少し不安そうに、遠慮がちに尋ねてくる。

「いくよ」

勿論。ここで引き下がるなんて冗談じゃない。

「元はシールに誘われてだけどさ。願掛け程度だと思ってたら本当に願い叶いますなんて聞いたらさ。やるしかないじゃん」

望まれているし、約束もしたし、何より殺されかけた私怨がある。

「あの眼を倒したいって思ってるのはKなんだから、問題ないのさ。ね」

そう。誰にどんな思惑があったとしても。決めたのは自分。だから、それでいいか。



「じゃあ行こうか」

荷を担いで立ち上がる。

「…」

後ろにはaが何処か納得いかなさそうに突っ立ってた。グールがそんなaを見てる。何してんのさ。

「ほれ、行くべ」

「―――…」

無言でグールを見上げるa。グールは「ほれ見ぃ」と溜息混じりに首を振る。なにさ。

まあともかく。

「目指すはゲブラー!」

ある者は自らの力を試しに。

ある者は自らの行動の結末を見届けに。

そして

「『眼』を倒しに!」

自らの心を確かめに。

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