KのーとinS

炯斗

001//opening_1

その時世界の神々は、扉が開いた音を聞いた。

彼らが待ち侘びた『英雄』の来訪だ。



――ヴぉん、と。


大気が重たく振動して―――



「へ?」

空。

直前まで見ていた灰色の壁とは対照的な、青い空と白い雲。絵に描いたようにいい天気だ。

「うわっ!!?」

突如、胃の競り上がる感覚に襲われる。

風圧は凄まじく簡単には呼吸を許してくれそうに無い。

これは…

「落ちてる、なぁ…」

眼下に広がるのは、果てなく続くような広大な草原。少し見渡せば、その大草原にも果てがあると教える山々。波のない穏やかな海と、サイズ感のバグった巨大樹が一本。

後ろには、同じく落下感に顔色を無くしている相棒が一人。

「………アラさんや、これはマズいぞ?」

昼の日差しを燦々と受けて煌めく大地が凄い勢いで近付いている。

このままだと、絶対死ぬ。

「バカ!もっかい転移だ!」

「なるほど」

aからの罵倒と指示を受けて、Kは両の掌を向かい合わせた。

――ヴぉん 

空間が歪み、一度視界が真っ暗になる。

…ヴん…

「よっと」

再度大気が震えた時には、ふたりで草原に着地していた。

空間転移。

これはKが開発した人為的な技術だ。両手に仕込んだ装置により、相対的またはその星における絶対座標での転移を可能にする。まあ、まだ実験稼働段階ではあるのだが。

「は~びっくりした」

aは一息吐いた後、くるっと辺りを見回した。

「で、何処なのココは」

「異世界、ですかね」

「はぁ!?」

いや、だって。

間近に聳え立つ大樹を見上げる。

なんかもうデカいとかいう問題じゃない。ビル。もうこれはビルディング。

「こんなんチキュウにも帝国にもないからね」

実際見た事はないけど屋久杉だって…シャーマンだってここまでじゃない。世界樹という言葉があるが、こういうものを指すんだろう。これは住める。町作れる。

aは呆然と壁でしかない木肌を見つめている。

「しっかしまた着座標ズレ。転移に違和感もあったしなー。こうなると健康も心配なので一度研究室に戻って――――………?」

空が光った。

きらん、と一瞬だけ輝いたそれはそのまま落下を始めたみたいだ。

どうみても、人影がふたつ。

「「巻き込み事故ッ!!」」

ふたりが現れた地点から見て、転移時に巻き添えを喰らわせた可能性が高い。

「やばいやばい!」

人が慌てて走ってるのに、

「あ、でも下海…」

「関係あるかっ」

「ワンチャン…」なんて暢気な事を言うaに一喝入れつつ足を動かし続けたが――


ドバザァッ―――!!!


ああああああ……

死亡事故を起こしてしまった―――!!

「―――あちゃあ…申し訳ない…見知らぬおふたりさん…」

南無。まだ小さかったように見えたけど…ご冥福をお祈りします。

せめてご遺体は回収しなくては、と海へと一歩近付いた処で、

――ザバァッ!

「ぷはっ!!」

「!!? 生きてただとー!? でかしたっ、aさんGo!!」

「へいよ」

aは上着を脱いで海へ入ると、達者な泳ぎでふたりを回収した。

「せめて受け取るくらいしようかね」

―― ぬ る っと。

水際のぬかるみを踏んだ感覚。

「………」

aがこどもたちを丘に上げている間、動けずにぷるぷるとバランスを保ち続ける。

「aさん…早くこっちも助けて…」

自らも水から上がったaは、

――ドン!

「だよねっ」

にっこり笑ったままKを突き飛ばした。

解ってた! こうなる気しかしてなかった!


「うぇっぺ、真水だ…」

病気でも拾ったらどうしてくれる…

ちょっと飲んでしまった水は塩の味がしなかった。草原からイキナリ海っていうのも違和感あったし、これは海にしか見えない大きさだけど湖なんだろう。

aが助けてくれないのでズリズリと自力で這い上がる。

「うわ。この子たち凄い色だな!」

aが回収してきてくれたこどもたちを見て思わず声が漏れた。髪の色が、ひとりは黄緑でひとりは蒼銀だ。

「いや…あの…おまえもな?」

aが遠慮がちにKを見て言う。

「Kの頭、派手にオレンジだぞ」

え。じゃあ光の加減かと思ってたけど、

「aさんも茶色いよ」

「え」

脱色作用とかどういうこと!

今は特に異常は感じないけど、肌とか目とか大丈夫かしら。ちょっと怖くなってきた。

「要成分調査だな。送ろう」

――うぉん

試験管を取り出して湖の水を掬う。

Kの転移技術は瞬間移動だけじゃなく、異次元ぽっけ的機能も備える。寧ろその倉庫的空間開発の延長で転移に発展した。

「この子たちも還すよ~」

「おー」

背後のaに軽く返事をしながら試験管を『穴』へしまう。

と。

――ぺっ

「――ぺ?」

しまった筈の試験管が、吐き出されて戻ってきた。

「ちょっと待った―…aさ―――」

こどもたちを送り還すのを止めようとした時、

「やめておいた方が賢明だ。次元の狭間に落ちれば消失の恐れもある」

なんだかふわっとした人が、空に腰掛けるようにして浮いていた。

「セフィロートへようこそ、マルクト・ターナ。我々は君たちを歓迎する」

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