永遠のあとで
早稲田暴力会
永遠のあとで
ここは建物が多すぎるから幸せにはなれないとあなたは言った。スープに浸すよりも先にあなたはパンを齧って、そこにバターを塗ってまた齧り、オレンジジュースを汲みに席を立ち、そのまま二度と帰ってこなかった。バグを修正することを怠って、比重の偏った部屋のソファーの上ですべてを想像する時間が浪費されたあとの歴史を描く。人身事故の発生を何度目かのアナウンスで知った。名前を、呼ぶ、声。もっと花束を、もっと花束を、理由のない長い過剰な祝福に足るだけの花束を、あなたの次の次のあなたに早く手渡そう。
死体置き場にドラムを置けとの指示があるまでそのオムレツをひっくり返してはならない。彼は都市生活の惰性を象徴するオブジェの遺品を簡潔に処理して、糖衣でコーティングされた錠剤が解けていくのをいつまでも恩寵として感じていたかったし、昆虫の死骸の散乱する中庭で子どもらは他にすることがないので穴を掘ろうとした。形あるものはみな広報へと消えゆく、最初にそう言ったのは誰。かつて綿密に配置された模様をなぞったいくつもの掌を重ね合わせ過去へのアクセスを不可能にする、それは修辞的な世界の領域だった。
始まりとそれ以後のことについて考えるよりも終わりについて考えるほうがずっと楽だとみんなは思った。育たない種子と開かない花弁が音楽のない密室の中で朽ちていって、相次ぐ死によって目的を喪失した旅行者は空の下にはただ何の表現も認めることができない起伏だけがあったことを思い出し迂回することを選んだ。異常は常態化する。もし動かされないことを強く望むのならば、つねに関係することを目指すようにせよ。たとえ意味を志向する意匠から逃れてもそれは、決して停滞から救済されたことにはならないのだから。
断片をいくら回収したところで完全なものにはなれないが、失われたものだけを誤りなく数えていくことでいま現在失われてはいないものについての考えをまとめることはできるとエンジニアは教えてくれた。複数の工程を経て編集された映像よりも切り捨てられた映像を無造作に接続したものを用意したほうがこの場にはふさわしかったのかもしれない。語彙を変えても言っていることや言いたいことは結局みんな大差はないのだ。途絶した回線。恐怖は自己成就する、わたしたちがほんとうに願っていることを言ってしまうことで。
このまま延々と冷めたシチューを火にかけながら誰かが話しかけてくれることを期待していたとして、無限を約束するためのアダプタも視神経をふるわせるほど深く差し込む色のないひかりも見つけられないのだろうし、夜明けから最も遠く離れた場所へあなたとさまざまな暗い未来を潜り抜けて来た瓦礫を拾いあつめるために行こう。どれほどのキーワードを並び替えて検索しても辿り着くことのできない回答。波打ち際につながる最後の道の終わりに近い坂の途中の永遠のあとで、訪れるおびただしいエラーを歓喜とともに迎えて。
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