1-55 約束
「がぁぁぁぁぁぁ!!!」
秋人は黒いオーラをまとってクロスに飛びかかった。拳をつくり、クロスめがけてそれを放つ。
しかし、クロスはその手を簡単に押さえ込んでしまう。
「その程度かよ…出来損ない!」
「うるさいっ!!グググッ!」
ニヤつき、余裕を見せるクロスに秋人はイラ立ちを隠せないでいる。
「魔人になった…とかミカエリスは言ってたけどよ。これじゃ、拍子抜けだぜ!まったくよぉ…」
「お前に何がわかるッ!」
「いーや…何もわかんねぇ…よっと!」
「グハッ…!」
秋人の力をきれいにいなして、そのまま蹴りを繰り出す。秋人はそれをモロにくらってしまい、大きく吹き飛ばされた。
「…くっ!」
途中で受け身を取って体制を整えると、目の前にいるクロスに向かって再び飛びかかった。
「くそがぁぁぁぁぁ!!」
「しつこい奴だな…だが、楽しませてくれそうだぜ!」
クロスは向かってくる秋人を見て、ニヤリと笑みをこぼした。
・
・
「ハァハァ…ハァハァ…くそっ!」
秋人は片膝をついてら目の前で余裕を見せるクロスを見ていた。
記憶を戻した秋人は、この世界に来て得た能力の使い方も思い出していた。
"空間把握"と"不活性化"
陰特有の能力を駆使して、秋人はクロスへの攻撃を続けていたのだが…
結果から言えば、"空間把握"は、クロスに対してまったく意味をなしていなかった。
なぜなら、把握したところで、それ以上の動きをするクロスを秋人の身体がついていっていないのだ。
最初の組み合い以外、秋人がクロスに触れることは皆無だった。
触れることができないのだから、もう一つの能力である"不活性化"も使えない。
秋人にとって、現状は手詰まりといっても過言ではない状況であったのである。
「どうしたぁ〜?もう終わりかぁ〜?」
「ハァハァ…」
へらへらと笑っているクロスの挑発も、もはや秋人には気にする余裕はない。
必死にクロスを倒すための算段を考えていたのだ。
(あいつ…全然本気じゃないな…くそっ!触れることができたら、一泡くわせてやれるのに…どうする…何か手はないか…)
「おーい!本当に終わりか…?つまんねぇなぁ…ハァ…まぁ仕方ねぇな。それじゃ、今度は俺から行かせてもらうぜ!!」
必死に考える秋人に対して、クロスはもう飽きたというようにため息をついた。
そして、一瞬で秋人の目の前に移動する。
「なっ…!?」
「お仕事に戻ろうか…出来損ないクン!」
◆
「目的の部屋は…あそこよ!」
ルシファリス、クラージュ、アルコの三人は、ミカエリスたちを追ってついに目的の部屋へとたどり着いた。
扉を開いて三人は中へと入った瞬間、目の前にミカエリスに痛ぶられる春樹の姿が現れる。
「ハルキ!!」
「おっと…」
春樹のところへ駆け寄ろうとしたルシファリスだが、その前にクロスが立ちはだかった。
「どけ!」
「そう焦んなよ…」
イラ立つルシファリスに、クロスは笑みをこぼして話しかける。
「今は世界を平らにする作業の真っ最中だぜ…邪魔をしてくれんなよ…なっ!」
「そんなのさせるわけないでしょ!!クラージュ!!」
ルシファリスのかけ声とともにクラージュがクロスに飛びかかる。
クロスがクラージュの相手をしている間に、ルシファリスが春樹の元へと急ごうとするが…
「簡単には行かせないぜ!なぁ、おっさん!!」
「ぬう…!」
クロスは余裕の笑みを浮かべると、クラージュを蹴り飛ばしてルシファリスの前に叩き落とした。
「くっ…!あのガキ…!!クラージュ、無事?!」
「…はい、なんとか…」
目の前で砂ぼこりを巻き上げ、叩きつけられたクラージュは、声をかけるとのっそりと立ち上がる。
しかし、その足下はふらついている。
「あら…来ちゃったのね。まぁいいわ、クロスならあの三人の相手なんて余裕でしょうから…」
ミカエリスがルシファリスたちに気づいて、一度視線を向けたが、すぐに春樹へと向き直る。
「さぁ、早くしないと愛するルシファリスがクロスに殺されちゃうわよ。フフフ……っ!?」
ミカエリスはニヤリと笑って春樹にそう告げた。
その瞬間だった。
そこにいる全ての者が予想していない動きをアルコが見せたのだ。
クロスすら出し抜いて、アルコはミカエリスと春樹のところまで一気に移動すると、その勢いのままミカエリスに体当たりをした。
魔力もろくに残っていないアルコであったが、その体当たりはミカエリスにクリーンヒットし、彼女はそのまま吹っ飛んでいく。
「ハァハァ…アルコ…様…ぐっ」
「根性はあるな…それは認めてやろう。」
「あっ…ありがとう…ぐっ…ございます。」
「…で、良いのだな。」
「はい、お願いします!」
肩で息をしていた春樹だが、最後の一言だけは力強さが滲んでいた。
アルコは頷いて右手に法陣を構える。
そして…
「お前の覚悟…しかと受け取った…」
そう言うと、アルコの右手が春樹の胸を貫いたのだった。
「なっ…!!アルコォォォォォ!!!」
意味不明なアルコの行動に、ルシファリスは我を忘れて駆け寄ろうとする。
クロスはそれを止めることなく、ただアルコとその足元に倒れ込んだ春樹を見ていた。
ルシファリスは春樹に駆け寄ると、その体を抱き上げて声をかける。
「ハルキ!?しっかりしなさい!死ぬのは許さないわよ!!」
「無駄だ…小僧の魂は…もうここにはない…」
ルシファリスはそう話すアルコをキッと睨みつけた。その眼には涙が浮かんでいる。
「これが…これがハルキの覚悟ってこと…?」
「…そうだ…こやつと私の約束だ…」
「なぜ…くそ…何でこんなこと…馬鹿なんだから…」
アルコはルシファリスをジッと見つめ、口を開くことはない。
ルシファリスは肩を震わせてうつむいたままだ。
「やって…くれたじゃない…アルコ様…」
吹き飛ばされたミカエリスが、壁際でゆっくりと立ち上がる。
「お前の計画もこれで破綻したな…諦めたらどうだ…」
「そうね…と言いたいところだけど…それは無理…」
「……」
「とりあえず…陰の彼はまだいるし、ミウル様も残りカスみたいだけど復活はした…陽の能力を持つ子はまた探せばいい。」
ミカエリスは、クロスに手足を串刺しにされ、法陣の中心に捕らえられた秋人と、少し離れたところで倒れているミウルを見ていく。
「だけどね…」
ミカエリスはアルコに視線を戻すと、再び口を開く。
「それじゃあダメなのよ…」
彼女の顔が見る見る醜悪な愉悦の表情に変わっていく。
「ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく…ルシファリスも…ミウル様も…イツキも…みんなどうしようもなくムカつくの…」
「…ならどうするのだ。」
「そんなの決まってるじゃない…フフフ…」
アルコの言葉にミカエリスはゆっくり大きく笑い出す。
「全員殺すのよ…フフフフフフ…ハハハハハハハハハハハハ…アーハッハハハハハ!!!」
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