1-51 運命なんか…
「ぐっ…ミカエリスのやつめ…面倒な法陣をかけていきやがって…」
ルシファリスはかけられた法陣の解除に必死であった。
ミカエリスがかけた法陣。
電撃のような攻撃的な法陣に見えたが、実は少し違う。
麻痺や鈍化など、動きを制限する法陣が何重にも重ね合わせてあり、解除するのはルシファリスでも難儀するほどに、精密に練られていた。
「クラージュ…あんたは動けそう?」
「いや…無理ですな…痺れはなくなりましたが、解くのに時間がかかりそうですな。」
「チッ…」
舌打ちをてし、ルシファリスは再び法陣の解除に意識を向ける。
その時であった。
一つの影が自分にかかったのに気づくと、ルシファリスはそちらへ視線を向ける。
目の前には銀髪オールバッグの男が、自分を見下ろしている。
男はそのまま、右手をルシファリスへ向ける。
「ちょっ…ちょっと!今はそんな場合じゃ…!」
「アルコさま!お待ちください!!」
二人の声も気にせず、アルコは手に法陣をまとい始める。
(くっ…ここまでか…)
ルシファリスがそう思って目をつぶる。
が…
「勘違いするなよ…」
アルコはそう言うと、ルシファリスとクラージュにかかっている法陣をいとも簡単に解いてしまったのだ。
「なっ…なんで…どういった心変わりかしら…」
体の動きを確認しながら立ち上がって、ルシファリスはアルコへ声をかける。
「ふん…先の小僧の入れ知恵だ…感謝するならあのハルキという小僧に言え。」
「ハルキが…?どういうことなの?」
「話はあとでしてやる…今はあの熊のところへ行ってやれ。」
アルコの視線の先には、横たわるウェルの姿が確認できた。
「ウェル…!!」
ルシファリスは急いで駆け寄って、ウェルの頭を抱き上げ、回復の法陣を施す。クラージュもその後ろに立ち、心配そうな表情を浮かべている。
「死んではおらんがな…時間の問題だろう…」
「あんたがやったんでしょ…」
「すまんな…レイの強さは予想以上でな、力加減を見誤った…私の失態だ。」
アルコはウェルを見下ろす。
「助けてやりたいのはやまやまだが、私にもやることがある。時間もあまりない…お前たちも行かねばならんぞ…ミカエリスを止めるにはな。」
「そんなのわかっているわよ!でも、このまま放ってはいけないじゃない!」
必死に法陣を施すルシファリスであったが、体に空いた風穴は一向に塞がる気配はない。
「くそっくそっくそっ!」
「ルシファ…リスさま…」
そうしているとウェルが薄っすらと目を開けた。
「黙っておきなさい!今、治すから!」
「わた…し…のことより…ハルキたち…を…」
「そんなことしたらあんたは死ぬわよ!」
「いいんです…ミカ…エリスを止める…ことが…先決です…」
ウェルはそう言いながら、ルシファリスの手を掴んで退けた。その手は瀕死とは思えないほどの力が込められている。
「ウェル…!離しなさい…離しなさいってば!!」
「ルシファリスさま…」
その手を振り払おうとするルシファリスを諌めるように、クラージュが口を開く。
「なによ!クラージュ…!あんたもウェルを見捨てろって言うの!?絶対嫌よ!!私は絶対に助けるわ!!」
「いえ…しかし、ウェルの勇気を無碍にもできません…」
「うぅ…くそっくそっくそっ!!」
悔しがるルシファリスの手を、ウェルがギュッと握りしめた。
そして…
「ハルキ…を…頼み…ました…よ…」
ウェルはそう言って静かに目を閉じた。
「ウェル…!!」
その問いかけにウェルは答えない。
静かに横たわるウェルの姿に、ルシファリスは肩を震わせている。
クラージュがその肩にそっと手を置いた。
「…私とて鬼ではないが…こやつの想いを繋げねばならんのではないか?」
「……」
アルコがルシファリスに声をかけるが、ルシファリスは無言で肩を震わせている。
「…こやつもそうだが、イツキの息子も覚悟は決めておる…ないのはお前だけだ。」
「…ハルキが…?どういう意味よ。」
ルシファリスは顔を上げて、アルコを睨みつける。
「言葉の通りだ…ハルキだったな…あいつはもう決めておるぞ。自分の運命を…未来をな…その中身は言わん、奴との約束は破れない…。」
それを聞いてルシファリスは立ち上がる。
「ムカつくわね…そのなんでも知っているような言い方…」
「お前の運命はどんなものだ?決められるか?そして、それを実現できるのか?」
「運命を決める…そんなことできるはずないって、昔の私なら言ったかもしれないわね…」
ルシファリスはアルコを見据えながら、話を続ける。
「でも、そんな考えなんて…とうの昔に捨ててきたわ。今から私は…私が想う未来を実現するわ…誰にも邪魔させない!ミカエリスも…ぶっ飛ばす!!」
ガシッと右手でつくった拳を、左手で受け止め、ルシファリスは力強くアルコにそう告げた。
「ふん…勝手にするがいい。私は奴との約束を守るだけだ…そろそろ行くぞ…間に合わなくては意味がない。」
振り返り、頂点への入口へと進み始めるアルコ。
ルシファリスはウェルの前に片膝をついてしゃがみ込むと、静かに目をつむる。
(勝手に死ぬなんて…誰が許したのよ!)
ルシファリスは立ち上がると、クラージュの背中をバンっと叩いて、アルコにの後を追うのであった。
◆
「ハルキもやるねぇ〜首飾りに気づいてくれるとは…やっぱりイツキの息子だねぇ〜!」
ミウルは水面に映る春樹とミカエリスのやり取りを見ながら、嬉しそうな笑みをこぼしていた。
「ルシファに残しておいた伝言…ちゃんと繋がったねぇ…あの部屋に首飾りを置いておくように言っといて本当によかったよ!」
視線の先では、ミカエリスに馬乗りになられている春樹が、そのミカエリスに何か話しているようだ。
そして、首飾りが光り輝き始める。
「来たねぇ…ついに来たよ、この時が…長かった…イツキ…君の想いを繋いであげるよ!」
そう言うと、ミウルの体が同じように輝き始めたのだ。
「さぁて…ミカエリス。きみもそろそろ報われても、いい頃だね…」
ミウルがそうつぶやいて目を閉じる。
その瞬間、光とともにその姿は消えてなくなった。
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