1-50 再確認
「今よ!」
ミカエリスの合図と同時に、クロスが春樹と秋人を抱え上げる。
「なっ…何するんだ!」
「わっわっわっ!」
「しゃべってると舌噛むぜ…っと!!」
クロスはそのまま一気に、頂点への入口へと駆け出した。
揺れる視界には、ミカエリスがアルコに向かって駆けていく様子が映し出されている。
ある程度近づくと、彼女は大きく跳躍し、手に法陣をまとう。
そして、金色の光の筋がアルコたちへと襲いかかった。
(ミカエリス…のやつ…何を…したんだ?)
金色の光の筋は、アルコたちにまとわりつくと、電撃のようなものを浴びせる。
遠くの方では、ルシファリスとクラージュにも同様のことが起きていた。
(あ…いつ!!)
ミカエリスが何をしたのかはわからない。しかし、春樹はイラ立ちを隠せずにいる。
頂点への入口が近づくと、クロスは二人を下ろして、口を開く。
「これは自分の意思がないと通れない。だから自分の足で行け。」
「ミカエリスは!?あいつはルシファリスたちに何をした…グハッ」
春樹がまくし立てようとすると、クロスがみぞおちに拳を入れる。
「自分で選んだんだろ?他人のせいにすんな。」
秋人はそれを見ながら、恐る恐る入口を通っていった。
「さあ、行けよ。」
クロスは冷たく暗い眼で春樹にそう告げる。
「ぐっ…」
悩み苦しみながら、春樹はチラリとウェルたち、そして、ルシファリスへと視線を向けた。
その瞬間…
ルシファリスの視線と春樹の視線が交差する。
ルシファリスは苦痛の中にも驚いた表情を浮かべている。
その顔を見た瞬間、心の中で何かを再確認したように眼に力を入れ、春樹はヨロヨロと入口を通っていくのであった。
◆
ルシファリスは少し混乱していた。
なぜこいつがここにいるのか。
ミカエリスのやつがなぜこのタイミングで、アルコや自分たちに攻撃を仕掛けてきたのか。
そう考えて隙ができた一瞬を、ミカエリスは逃さなかった。
アルコとウェルへと放った法陣と同様のものを、自分たちにも向けたのだ。
「がっ…がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐぁ…グググ…」
ルシファリスとクラージュは、体中に走る電撃に、苦悶の表情を浮かべる。
そこにミカエリスが着地する。
「あらあら、こんなところで奇遇じゃない、ルシファ…」
「お…前…なぜ…グッ…」
「ウフフ…もっと遅いと思ってた?残念でした…こっちはいろいろと計画を立ててるのだから、舐めないでほしいわね。」
「…グハッ…」
ミカエリスは苦しむルシファリスをニヤリと一瞥して、その顔を蹴り飛ばした。
「もう少し…もう少しで私の悲願が達成される…そしたら、あんたも殺してあげる…それじゃ…」
そう告げると、ミカエリスは振り返って頂点への入口へと向かい始めた。
その背中を映し出している視界の中に、自分たちと同様に横たわるアルコとウェルの姿が見えた。
二人とも動いている様子はない。
「ググッ…くそ…!」
追いかけようとするが体が思うように動かず、苦痛の声を上げるルシファリス。
悔しさを滲ませ、見据えるミカエリスの背中の先に、思いもよらない人物を捉えた。
「ハルキ…?グッ…」
彼は一瞬だけ視線を合わせると、頂点への入口へとその歩みを進め出した。
(あいつ…なんで…?)
頂点への入口にたどり着いたミカエリスとともに、その背中は扉の向こうへと消えていった。
◆
ミカエリスを先頭に、春樹たちは法陣がある部屋へと歩みを進めていた。
先ほどから誰も話そうとはしない。
しかし、その沈黙を秋人が破り、春樹に声をかける。
「はっ…春樹…大丈夫かい?」
「…あぁ、ありがとう。」
春樹の表情を読み取ったのか、秋人はそれ以上、口を開かなかった。
再び訪れた沈黙の中、春樹たちはある部屋へとたどり着いた。
「着いたわ…さぁ、中へ…」
ミカエリスが春樹と秋人を中へと促す。
部屋に入ると、目の前の床には今まで見たことのないほど、巨大な法陣が静かに眠っていた。
(これを起動するんだな…しかし、ミウルとミカエリスの言う手順が少し違うのが気になるんだよな…)
そもそもミカエリスは、世界を戻せばミウルが復活すると言っていたが、夢の中でのミウルは、法陣を使わせるなと言っていた。
そして、法陣を使う前にミウルが復活し、それ同時にルシファリスたちがここへ来ること。
それがベストだと。
(おそらく…ミカエリスが正しい手順を知らないか、ミウルはすでに…)
「さっそく始めましょうか…」
考えの途中で、ミカエリスが話を始めた。
それに対して、秋人が口を開く。
「ミカエリス、具体的にはどうしたらいいんだい?」
「法陣の真ん中に立って、それぞれ陰と陽の力を流し込むイメージをしたらいいのよ。」
「わかった!やってみるよ。」
秋人の言葉にミカエリスはにこりと笑みを浮かべる。
「春樹…行こう!」
「あっ…あぁ…」
春樹は秋人の後ろに続き、法陣の中心へと進みながら考える。
おそらくミウルはすでに復活できるはずだ。ここに来れば何かをトリガーにそれが可能なのだろう。
法陣を使うことを遅らせろと言ったのは、それが理由なのだろう。
遅らせている間に、自分は復活するための準備をして、ルシファリスたちとタイミングを合わせるのではないだろうか。
では、そのトリガーはなんだ?
春樹はゆっくりと辺りを見回した。
特に何もない広間。
ぽつぽつと灯りが等間隔につけられている壁は樹の皮表のように見える。
床に目を落とすと、テニスコートほどの広さで法陣が広がっている。
その端に視線を移すと、春樹はきらりと光る何かがあることに気づいた。
(あれは…首飾り?)
春樹はそれに見覚えがあった。
夢でミウルがつけていた首飾りだ。
(そうか…あれが!)
春樹はそう考えると、すぐにそちらに向かって歩き出した。
「あれ…?春樹?」
気づいた秋人が声をかけるが、春樹は構わず首飾りの元へと歩いていく。
「…ん?なぁ、ミカエリス。あいつ…どこいってんだ?」
「あら?ほんとね、いけない子ね。」
ミカエリスはそう言うと、スッと春樹の方へと移動する。そして、春樹の前に立ちはだかり、口を開いた。
「どこへ行くの?やるべき事が先でしょう?」
「あぁ…そうだな。」
「なら…早く秋人の元へ行きなさいな。」
そう話すミカエリスの後ろに見える首飾りに、チラリと視線を向ける。
「やるべきこと…か。そうだな、先にそっちを片付けよう。」
「わかればいいのよ。よろしくお願いね。」
「あぁ…そうだな!!」
突然、春樹はミカエリスを交わして、走り出す。
「なっ…!?」
ミカエリスも予想していなかったのか、一瞬動揺して春樹を逃してしまう。
が…
「ぐへっ!!」
「ダメよ〜ダメダメ…早く戻りなさいな。」
瞬間的に追いつき、背中に乗るように春樹を止める。
「言ったろ?やるべきことを先にやれって!」
「そうよ、だから秋人のも…とに…えっ?」
ミカエリスは春樹を諭すように話していたが、彼の待つ物を見て徐々に動揺を始めた。
「そっ…それは!ミッ…ミウル…さまの…」
「そうみたいだな!でも、これはおまえにはやんねぇよ!」
「貸し…貸しな…貸しなさい!!!」
そう激昂して、ミカエリスが春樹からそれを奪おうとしたその瞬間、春樹は首飾りに陽の力を目一杯注ぎ込んだのだ。
首飾りもそれに反応して、光り輝きだす。
「なっ…何を!!」
「あんたの…あんたの会いたいミウルさまに、今会わせてやるよ!!おぉぉぉぉぉ!!」
首飾りは春樹の陽の力に反応して、どんどん光を強めていく。
そして…
辺り一面が、その光で包まれたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます