この地雷女(マインガール)達の中にガチで爆発する(殺傷力のある)ヤツが紛れているので一刻も早く処理(スイープ)しなければならない

下條春冬夏

プロローグ

「私が君の掛け布団になるわ」


 薄氷を踏むように牽制球を投げ合っていた矢先、牡丹のような堂々とした声で先手をとったのは入浴のために長い黒髪をシニヨンに纏めた閉月の美少女。


「私もお部屋に行っていいですか? 敷き布団は私で」


 と、菊のように恥じらった声で間に割って入るは短刀で切りそろえたような黒髪を宵の微風に泳がす沈魚の美少女。


 葉桜は緑を増し薔薇は咲き乱れ初夏の足音が遠く聞こえる五月半ばの熱海温泉。東京からほど近く泊まりの不倫にしばしば使われる温泉地の古旅館に、高校生である近江屋銀次郎はクラスメートの女子四人に半ば強引に押し切られて一緒に滞在していた。


 今はというと丁度、内二人との混浴を終え、着替えして出て風呂の入り口前の広間で冷えた牛乳を飲んでいるところである。残る二人は疲れ果てたのか夕食の後すぐに寝入ってしまっていた。


「すまないが、旅館に据え置きのものを使わせてもらいたい」


 二つの花は目に見えてしぼんでしまった。沈魚も閉月もなんのその、銀二郎は根っからの女嫌いである。この女子たちはさも可憐な見た目をしているが、隙あらば懐へと飛び込んでくるので雨が降った後の階段のように油断ならないのである。


 そう思うと銀次郎は袴と浴衣の擦れ合う音を残してその場を去り、部屋へと戻った。牡丹と菊は艶やかな蘇芳の浴衣を着たまま、そこに埃を被った花瓶のように取り残された。


 ◇◇◇


 部屋の中は暗闇に非常灯の橙が薄暗く光っている。照らされた柱時計の短針の先は10時を指して、既に就寝には早すぎない時刻である。銀次郎はプラスチックケースに包まれたスマホを手に取ると、部屋中央のちゃぶ台前に置かれた座布団に入り口の扉を背にして重い腰を下ろした。まるで100メートルを走りきった後のようにゆっくりと。


 近江屋家はつくづく女運が悪い。唯一母は少々男勝りな点を除いてまともな女性だが、母方、父方の祖父とも最初に結婚した妻に逃げられている。確信はないが、恐らく曾祖父もそうだ。

 

  程なく、背の扉の方からスリッパと杉の床が擦れ合うスリスリ、といった足音がかすかに耳たぶの裏側を震わせたのが感じられた。それから、廊下の明かりに照らされて部屋に、なで肩の女性の長くて黒い影がゆらり、と立ち入ってきた。


  刹那、女は声を発した。


「私と一緒に死んで」

 

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この地雷女(マインガール)達の中にガチで爆発する(殺傷力のある)ヤツが紛れているので一刻も早く処理(スイープ)しなければならない 下條春冬夏 @springsummerwinter

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