#18 エピローグ
サーカステントの中では警察官たちが動き回っていた。団長の遺体と、土に埋められた遺体を確認し、凶器となったトロフィーを回収した。土に埋められていた遺体は、昨晩行方不明になっていた女性のものだと判明した。イワンはポリスカーにのせられた。これから色々と聞かれることだろう。
コランはポリスカーから降りてくるトムを見つけた。彼もまた友人の姿を見つけると、コランのところに駆け寄ってきた。
「お前、本当に犯人を見つけ出したのな。」
「しっかり依頼料はもらうぞ。」
「今金持ってない。後でな。」
トムは友人だからと言って、依頼料を誤魔化すような男ではない。即払いでなくとも問題はない。
「ジャックから色々話は聞けた。彼はいわゆるネクロフィリア……死体愛好家だった。自身の欲望のために人を殺していたんだ。彼はこのサーカス団に入る前にも殺人を犯していたらしい。奴は犯行がうまかったが、一つの街に止まっていると捕まる可能性は高まる。だから5年前に各地を転々とするサーカス団に入ったんだと。」
コランはそれを聞いて彼に対する印象は間違ってなかったなと思った。奴は普通の人に擬態することができる。団長も、団員たちも付き合いが長いはずだが、誰も彼の凶悪性はを見抜くことができなかった。恐ろしいやつだ。一体何が、そんな化け物を生み出してしまったのだろうか。
「詳しいことはお前の上司に話しておいた。お前は仕事にもどれ。いつまでも油を売っているわけにもいかないだろう。」
コランがいう。
「わかったよ。お前も確認したいことがあるみたいだしな。行けよ。」
トムはそういうと団長室のある方へと向かった。
コランは、ルイとエリに会いにいった。彼らには礼をしなければいけないし、エリが盗み出した書類についても気になったからだ。書類には彼ら双子について調査した結果が書かれていた。おそらく団長が調べていたものだろう。そこに書かれていたのは驚くべき事実だった。ルイとエリ、彼らは本当の双子ではなかった。マリーは彼ら双子について少しではあるが、団長から聞いていた。
彼ら双子は元々、小さな教会に預けられていた子たちだった。ある日神父が教会の入り口に2人の赤子が置かれているのを見つけ、その神父は彼らを引き取り、育てることにした。しかし、神父はかなりお年を召していて、これから先、彼らが立派に育つまで自分が元気でいられるか心配だったと言う。そんな話を知り合いだったアラン……団長に話すと団長は彼らを引き取ると言い出した。うちなら人手はあるし、将来、彼らが食べていく技術も教えてあげられると。神父は他に当てもなかったので、その言葉に甘えることにした。そういう経緯があり双子はサーカス団に引き取られたのだった。マリーの話といい双子の話といい、団長は少々人が良すぎるようだ。そんな人が殺されてしまったというのは、なんともやるせない気持ちになる。
神父は同じ日に並んで置いてかれていた赤子を見て、双子だと思い込んでいたらしい。団長も彼らはずっと双子だと思っていた。しかし、最近になって彼らのことを調査していた団長は、彼らの事実を知る。彼らはそれぞれ違う両親から生まれた他人だったのだ。同じ日、同じ場所にたまたま預けられただけだった。書類にはその調べた内容が色々と書かれていた。
どうして今になって団長が彼らのことを調べ出したのかはわからないし、もう確かめることはできない。ただ、彼らは双子ではないし、それぞれ違う両親を持つということはわかった。
双子は最初、この事実に驚いていたが、血が繋がっていようがいまいが、今まで過ごした時間がなかったことになるわけではない。彼らの関係はそれほど変わることはないだろう。
エリは団長が書いた手がかりをもとに両親を探しだすつもりだという。たとえ自分を捨てたとしてもエリは両親に会いたかった。そして自分を教会に預けた理由を知りたかった。一方ルイの方は自身の両親を探す気はなかった。色々起こってしまったが、サーカスでの暮らしに満足している。今更自身を捨てた両親には興味はないようだ。この2人は似ていない。当たり前だ。双子でもなければ、血も繋がっていないのだから。
サーカスは、団長の姪だということが判明したマリーが跡を継ぎ、存続することとなった。ライオンの購入予定は変わらず、しかしマリーはモーリスが希望していた楽隊を雇うことを決めた。色々あって団員が減ったせいでもあるが……やはり各地で楽隊を雇うスタイルはいくら才能のあるモーリスとはいえ、負担が大きすぎるという判断からだった。モーリスは
「マリーって、意外といい奴だね。」
と、とても満足そうだった。団長が憎くて、昨晩、彼の財産を盗もうとしていたことをコランは知っている。エリが団長室に忍び込んでいたため、彼の犯行は未遂に終わったのだが。犯行の意思があったとはいえ、それだけでは逮捕することはできない。まぁ、楽隊のための予算が出たのだから、もう犯罪まがいのことはしないだろう。
警察の捜査が終わった後に、ギルモートサーカスは、次の街へと旅立っていった。コランも日常へと戻っていった。
サーカスが街を去ってから1週間。コランがいつもアコーディオンを演奏している路上。彼はアコーディオンを担いだまま路上の角に座り込んでいた。彼は手紙を持っていた。差出人はルイだった。
「ちゃっかり仲良くなっちゃったの?」
トムが背後から覗き込んできた。
「しばらくは探偵業はお休みだぞ。」
コランは冷たく言う。
「違う違う。今日は依頼料を渡しにきたんだよ。」
そうして彼は持っていた封筒をコランに渡した。コランはそれを受け取り、中身を確認する。約束通りの額だった。
「確かに受け取ったよ。」
コランは鞄の中に封筒をしまった。
「これから仕事かい?」
トムが聞く。
「今日は朝から働いていたさ。天気もいいし絶好の稼ぎ日和だ。今は休憩中。」
最終日は事件に振り回されてしまったが、コランがサーカスで得たものはなかなかに大きかった。彼の演奏のレパートリーにはサーカス音楽が加わっていた。
「じゃあ、俺も一曲聴かせてもらおうかな。サーカスにいて、お前の演奏の腕も上がったんだろ?」
アコーディオンのことなど全くわからないくせに、トムはニヤニヤしながら言う。
「投げ銭はちゃんと寄越せよ。」
コランはトムのムカつく顔など見ずに返す。
「ケチいな。依頼料払ったんだからいいだろう。」
「それとこれとは話が別だ。」
そう言うとコランはアコーディオンを担ぎ直し、立ち上がった。そしてモーリスがくれた楽譜を見ながら曲を奏でる。周りにいた人たちがアコーディオンの音色を聞き、次々と立ち止まる。観客の反応は上々。コランは気分良くアコーディオンでサーカス音楽を響き渡らせていた。
了
アコーディオン弾きの事件ファイル-file1 サーカステントに隠された秘密- 旦開野 @asaakeno73
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