ZZZ(トリプルゼット)ランクの冒険者

15まる

ZZZ(トリプルゼット)ランクの冒険者

 冒険者ギルドでの裏の二つ名、絶壁の処女。

 異世界召喚された勇者パーティを潰し、世界を滅ぼすと恐れられた魔王も逃げ出す。

 まさに絶体絶命で、絶対零度の視線を持ち、絶対領域のニーソックスを履く、ZZZ(トリプルゼット)ランクの冒険者に今日も挑む、一人のおっさんがいる。


「いい加減、諦めたら?」


「いいや、諦められないな・・・きっかけは、一目惚れだが、こうやって12年間、何度も挑戦して思った。あの時の俺の一目惚れは必然だった」


「はぁ・・・12年間も時間を無駄にしているわ」


「それを決めるのはお前じゃなくて、俺だ」


 彼女の姿が一瞬で消えた。

 気が付くといつもの天井で、いつものベッドで目を覚ました。


「ほんと、律儀だよな・・・そういうところも俺は結構好きなんだよ」


 ◆◆◆3時間前


「この男の考えはわからない・・・エルフの私と違って、人間の寿命で12年とは大きいものだろう・・・馬鹿が」


 倒れたアイツを宿まで運ぶ。

 いつも通りの光景だが、誰も私達に近づこうとはしない。

 一定の距離を置いて、こちらを見ようともしない。

 畏怖という感情が伝わってくる。

 だけど、そんな光景はいつも通りで今までと何も変わらない。

 これからも何も変わらない。


 ◆◆◆


「いい加減、諦めたら?」


「このやり取りも、毎度毎度やっているが毎日が新鮮だ」


「23年間よ・・・」


「そっか・・・23年間も一緒にいるってことか。そんなにも一緒にいるって、熟練の夫婦みたいだな」


「馬鹿じゃないの?」


 彼女の姿が消えた。

 気が付くといつもの天井で、いつものベッドで目を覚ました。


「ほんと、強い・・・だけど、諦める訳にはいかないんだな」


 ◆◆◆18年前


「5年間も私に挑み続けているけど、いつも一瞬で終わるから、いい加減、諦めたら?」


「今日はいつもより会話をしてくれるんだな」


「意地を張って挑んでもアナタに勝ち目はないわ」


「意地なんて張っていないさ。前から言ってるだろ?俺は君が好きなんだ。だから君と一緒にいたい。君と一緒にこれからの人生を歩んでいきたい」


「本当にバカ・・・」


 彼女の姿が一瞬で消えた。

 気が付くといつもの天井で、いつものベッドで目を覚ました。


「なかなか伝わらないもんだな」


 ◆◆◆


「いい加減、諦めたら?」


「諦める?まさか・・・そんなことあるわけない」


「アナタ、初めて会った時と何も変わっていない。そして、それは今も何も変わっていない。どういうことかわかる?これからも何も変わらないということよ」


「君は何もわかっていないな。変わっているんだよ。それは本当に微々たるモノで、本人ですら気づかない小さなモノかもしれない。だけど、変わっている。これだけははっきりと言える」


「微々たるモノなんて、変わっていないと何も変わらない」


 彼女の姿が消えた。

 気が付くといつもの天井で、いつものベッドで目を覚ました。


「本当に・・・変わっているんだよ。だから、大丈夫」


 ◆◆◆記憶にある、あの頃


 初めて君と出会ったのは、もっともっと前になる。

 俺が冒険者になる、もっともっと前のこと。

 ありきたりで申し訳ないが、森の中で魔物に襲われている所を助けられた一人の少年だ。

 君はたぶん覚えていないだろう。

 君の中ではありきたりな日常の1ページで、俺にとっては今でも思い出すことができる始まりの1ページだ。


 初めて君を見た時、綺麗だと思った。

 語彙力がないので、綺麗としか表現できないのが残念だ。


 彼女に助けてもらって、村まで連れて行ってもらったとき、大人たちが彼女に向けていた不可解な感情について、あの頃の俺には分からなかった。


 どうして、大人たちは彼女にそんな感情を向けているのだろう。


 その光景は彼女にとって当たり前の光景だったのだろう。

 気が付くと、そこに彼女はいなかった。

 だから、俺が伝えたかった「ありがとう」という言葉を彼女に伝えることができなかった。


 ◆◆◆


「そろそろ、厳しいんじゃないの?」


「え?・・・もしかして、わかっちゃう?」


「・・・」


「そっか、やっぱり隠せないよな。厳しいと言えば厳しいな。俺も昔みたいに若くないからな。そこまで大きな無茶はできない体になってきたからな。だけど、鍛えているから、まだまだ現役だ」


「そう・・・」


「心配してくれて、ありがとう」


 彼女の姿が消えた。

 気が付くといつもの天井で、いつものベッドで目を覚ました。


「時間がちょっと・・・足りなくなってきたかもな。いやいや、弱気は駄目だ。俺ならまだまだ、やれる」


 ◆◆◆3年前


「おお?!こんなところで出会ったのって初めてじゃないか?良かったら、一杯付き合ってくれよ。もちろん、奢るからさ」


「・・・」


 彼女は静かに隣の席に座った。


「俺と同じ飲み物でOKか?マスター、俺と同じ飲み物を彼女に。ここには良く来るのか?」


「たまに」


「そっか、俺達長い付き合いだけど、お互いのことはあまり知らないからな」


「・・・」


「いい機会だから、改めて俺のことを色々知ってくれよ」


 彼女はたまにうなずいたり、「そう」とか、こっちにはそこまで興味があるように感じられなかったが、俺にとってはとても楽しい一日だ。


 彼女に挑んで、倒される日常も悪くはないが、こういう風に一緒にお酒を飲んだり、もっとお互い語り合うことができたら、もっと楽しいだろうな。


 ◆◆◆


「・・・今日は来ないか」


 いつからだろう。

 そう言葉に出すようになったのは。

 ずっと前からのような気もするし、最近なような気もする。


 言葉にしないだけで、そう思っていた日もあったのだろうか。

 何気なく過ぎ去る1日の中で、空はいつもと何も変わらない。


 ただ、ほんの少しだけ。

 何かが変わったように思えるようになった。


 ◆◆◆いつかの記憶


 いつの間にか、勇者パーティを潰し、魔王ですら逃げ出す力を手に入れた。

 Sランク冒険者の上、ZZZ(トリプルゼット)ランクの冒険者として、世界に認知された時、栄光や名声とはかけ離れた挫折と醜聞によって、世界の枠からはじき出された。


 世界を救う為に、今まで頑張ってきた。

 誰かを幸せにする為に、今まで頑張ってきた。

 ただ、それだけだったのに、全てに裏切られた空虚感を感じた。


 私はこの世界に必要ないんだ。

 今まで、私がやってきたことは無意味だったんだ。


 こんな世界、誰が壊したっていいんじゃない?

 そうだ。

 こんな世界、壊しちゃえばいいんだ。


「一目惚れです。好きです。一緒になってください」


 急に飛び出てきた冒険者を一瞬で気絶させた。


「・・・知らない顔」


 ◆◆◆


「いい加減、諦めたら?」


「今日は、少し話をしたいから、一瞬で勝負を付けるのは止めてもらっていいかな?」


「・・・」


「無言は肯定としておく。矛盾って言葉を知っている?例えば、この剣は何でも切れる剣である。この剣に切れないものはない。この盾は何でも守れる盾である。この盾に守れないものはない。じゃあ、剣と盾で戦った際に、どっちが勝つんだろうな」


「・・・」


「俺の予想だと、今回も盾が勝つと思っている。何でも守れる盾っていうのも伊達ではないから。だからって、剣が何もできないかっていうと、そうじゃないんだ。でも、見方が変わると、盾であり、剣でもあるのか。すまん、自分で何を言っているか、わからなくなってきた」


「・・・」


「俺が剣だったとしよう。剣も決して折れはしなかった。そして最後には必ず勝つと信じている。間違った。勝ち負けではなかった。好きって気持ちを伝えることだった」


「・・・話は終わり?」


 彼女の姿が消えた。


「好きって伝わってる」


 気が付くといつもの天井で、いつものベッドで目を覚ました。


「・・・マジか」

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