君と僕の差

セラー・ウィステリア

第1話:第一の差


 一人の、小さな少年の願いがあった。

 少し汚れた農民の麻服。土に汚れた顔が精一杯の声で叫ぶ。


「僕は、立派な騎士になって、誰もが安心して、平和に暮らせる世の中にするんだ!」


 争いが、世界を炎で包み込む。

 悲しみが、人々の笑顔を闇に閉ざす。

 希望や願いが弱さと切り捨てられる時代。

 それでも光を失わない例外というものは、各地で芽を出す。


 そういった芽がいつか花開くとき、人はそれを道化と呼ぶこともあれば、英雄と呼ぶこともある。


「できるわけがねえ!」


 全速力で否定する声に振り向けば、その小さな少年より頭一つ、いや二つほど大きい少年がいた。

 腰に短いながら剣を佩き、きれいな絹服に身を包んだ少年だ。


「お前は、俺のように先祖代々の騎士の血を継いでいない、ただの農夫の息子だ。そんな奴には、騎士になることすら許されないんだよ!」


 ドンッ、と幾分か大きい掌が、小さな少年の肩を叩く。あえなく尻餅をつく姿を、大きな少年は指差し笑う。

 それが小さな少年ハルモと、大きな少年デュスノの、最初の差だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る