第320話 実験成功、性交失敗

 間の抜けた男声、というのが誰のものなのかなど。


 そんな事は、もはや問うまでもない事ではあるが。


 あえて言及するならば、そう──。


「な、何でだ!? 何で挿入はいらねぇんだ……!?」


 今まさにフェアトとの性交に臨まんとし、いきり勃ったをフェアトの秘所へと滑り込ませんとしたのに、どういう理屈かそれが叶わなかったオブテインの疑問符だらけの声。


 もちろん、こうして叫んでいる間も『初めてか?』というくらいに苦戦しているわけだが、一向に挿入はいる様子はない。


 秘所の入口に、それの侵入を阻む何かがあるような感覚。


 転生後も、ともすれば転生前ですら体験した事のない異様な事態に直面した結果、彼が決定的な隙を晒す一方。


(予想通り……いや、期待以上……!!)


 フェアトは、無言かつ無表情のまま歓喜していた。


 実験が成功したのだと、確信したからだ。


 ……実のところ、フェアトは一つだけ予想していた。


 実験の成功を、ではない。


 オブテインのが、奥までは挿入ってこないのではないかと。


 ──……〝破瓜〟。


 それは、あらゆる女性の秘所への細菌感染を防ぐ為に、あらゆる女性の秘所に存在する〝膜〟が何らかの要因によって破れてしまう事を指し、その際には夥しいとは言わないまでも結構な量の流血を伴う。


 ……そう、血が流れるのだ。


 流血するという事は、それすなわち負傷とも捉えられる筈であり、だとすれば生まれてから一度も負傷はおろか一滴の血を流した事さえないフェアトなら、そもそも膜が破れる事さえない筈だ──という確信を。


 そして、その確信は期待以上の結果を叩き出した。


 実験の試行前、破瓜はしないにしても〝鋒〟は挿入れられてしまうかもしれないし、それくらいは我慢して然るべきだと高を括っていたフェアトとしては願ってもない幸運だったのだ。


 秘所の入口にさえ挿入らない、なんて。


 おそらく〝望まぬ性交〟そのものがフェアトにとっての害であると、フェアト自身の【守備力】が無意識下で判断した結果なのだろうとは推測できるが、そんな事はもうどうでもいい。


 フェアトは実験にて完璧なる〝成功〟を果たし。


 オブテインは〝性交〟に失敗した。


 全く同じ響きの単語が含まれていても、それぞれの行為が導き出した結果は全くの真逆であるという皮肉な結末となったが、フェアトにとって重要なのは決してそんなものではない。


(シルド……ッ!!)


『っ!!』


 先述した通り、オブテインに決定的な隙ができた事。


 それこそが何より重要であると、そう伝える為に声を上げず視線だけで訴えたフェアトの意図を察したシルドは、フェアトと同じく音も立たずに、それでいて迅速に魔力を充填していき。


「……あッ?」


 背後で高まる魔力の圧に気づいた時には、もう遅く。


「なッ──」


 これ以上に鋭い物質など存在しないのではないかと思えてしまうほどに鋭利極まる槍が、【土創クリエイト】にシルドの怒りが乗せられた事で凶悪な造形となっていた槍が、オブテインの心臓を目掛けて発射されており。


「このッ──……ぐぇあッ!?」


 オブテインは瞬間的にシルドの視覚が機能している事を見抜いて第三の眼を開くべく舌を出したが、そんな事をしている間にその槍はオブテインの分厚い胸板を容易く貫いて。


 振り返った彼の背後で倒れていたフェアトには突き刺さる事なく、さりとて勢いを殺す事もなく槍は建造物の床を破壊してヒビを入れ、もう間もなく建造物ごと大破するだろうというタイミングで。


「……上出来です、シルド」


『りゅあーっ!!』


 そう労った瞬間、轟音とともに建造物は崩壊した──。

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