第303話 勝利後、部族の言う事には

 ──……結論から言おう。


 数十人のプロヴォ族 VS 無敵の【矛】スターク。


 勝利したのは、スタークだった。


 確かに珍しい武器を使う相手との戦いは悪くなかったし。


 ピンキリとはいえ、そこそこ強い者も居たには居た。


 ……だが、そこそこはそこそこ。


 スタークを満足させるほどのものではなかったようで。


「……飽きた」


(やっぱり……)


 今のところ死者は出ていないが、それはあくまでもスタークの気紛れによる結果でしかなく、およそ五分と経たない内にプロヴォ族はほぼ壊滅状態となっており。


 これ以上の戦闘続行は無意味かつ無価値だと断じたスタークの口からこぼれ出た一言が予想と違わな過ぎたからか、フェアトはもう呆れて物も言えないといった具合に溜息をつくしかなかった。


 ……しかし、そう呆れてばかりもいられない。


 問題なのは、ここからなのだ。


(これでハッキリする。 あの人たちに勝ったらどうなるかが)


 そう、フェアトがずっと気にかけていた疑問。


 もしも姉がプロヴォ族を一人も殺さずして勝利してしまったら、彼らの如何なる行動を取るのだろうかという疑問。


(素直に退いてくれるならそれで良い、復讐を目論む様子が見て取れたなら殲滅すれば良い──……ちょっと乱暴だけど)


 フェアトが思い至る事ができた選択肢は、二つ。


 撤退か、報復か。


 前者なら無視して先に進めば良いし、後者なら気は進まないが禍根を残さぬ為にも皆殺しにすれば良いのだから大して悩む必要もないし疑問に思う必要もない。


 だからこそ、問題なのは──。


(……問題なのは、そのどちらでもなかった場合。 何が起こるかは分からないけど、更なる厄介ごとに巻き込まれる気がしてならない)


 フェアトが思い至った二つの選択肢のどちらでもない行動を彼らが取った場合、フェアトにも予想できない面倒な何かが発生する気がしてならない。


 ……予想できないからこそ、先だっての対処もできない。


(もう姉さんの勝ちは殆ど確定してるし、あとはプロヴォ族の動向を見逃さないようにするだけ)


 その為、今のフェアトにできる事はその何かが発生する瞬間を決して見逃さない事、発生した場合は即座に即興で対処する事だと心に決めたはいいものの。


(……だけど、まだ完全には終わってない──)


 残念ながら、その時が訪れるにはまだ早い。


「で、お前は? 勝ち目のねぇ戦いを続けんのか?」


『──……ッ』


(そう、まだ一人だけ戦意を失ってない人が居る)


 何を隠そうプロヴォ族の誰よりも先に、そして誰よりも前に立ってスタークを倒そうとしていたあの男だけが、まだ攻防一体の戦盾デュエリング・シールドを構えて臨戦態勢を取っていたからだ。


 とはいえ彼も、すでに無事とは言えない状態にあり。


 スタークの言う通り勝ち目など欠片ほどもないだろうが。


 彼の瞳は、まだ輝きも覚悟も失っていないのだ。


 盾を掲げ、仲間を護るようにして立ちはだかっている。 


 しかし、それもスタークにとっては詮なき事。


「……まぁ、どっちでもいい。 まだ続けるってんなら、こっからは手加減なんざしねぇぞ。 どうせ伝わらねぇんだろうが──……皆殺しだ」


『……』


 ハッキリ言って、すでにプロヴォ族への興味をすっかり失っていたスタークは、ここまでは多少の加減をしていたというプロヴォ族にとっては絶望的な──まぁ伝わってないが──宣告をするとともに。


 ここからは、加減なしの全力で以て鏖殺してやるという更に絶望的な──もちろん伝わってないが──宣告をし。


 間違いなく伝わっていない筈ではあるものの、その二度に亘る宣告を受けた男は何かを熟考するように俯いた後、構えていた盾を下げてから。


『……──、────。 ────、────』


「あ? 何つった今」


 やはりスタークやフェアトには伝わらない何らかの言葉とさえ認識できない呻き声のようなものを発し、それを唯一理解しているセリシアの方へ目線だけを向けると。


「……我らの敗けだ、素晴らしい力だったと」


「へぇ? 中々殊勝じゃねぇかよ」


 彼女が通訳する事には、どうやら素直に敗北を認める旨の降伏宣言だったようで、思ったより男が潔い態度を見せた為か、スタークが僅かに機嫌を良くして笑みを浮かべたのも束の間。


「だから──」


「……あ?」


 セリシアの口から発せられたのは、まだ通訳に続きがあるのだとスタークでも流石に分かる接続詞であり、まさか潔いと思ったのは早とちりだったかと思い直そうとした、ちょうどそのタイミングで。











「──我らの〝長〟になってくれ、と。 そう言っている」


「……はっ?」


 片手と片膝をつき、頭を下げる男の姿が目に映った──。

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