第41話 咎人の正体
スタークたちは、フルールの家の外観が双子が住んでいた家に酷似していてるからか、その内装も同じような雰囲気なのかもしれないと思い込んでいた。
しかし、実際に入ってみると趣が随分と異なっており、いかにも魔女の家といった妖しい色の液体が入ったフラスコや、この国の技術である
それらに強い興味を持ったスタークたちに対し、フルールは面倒臭がる事もなく丁寧に教えてくれた。
──例えば。
持って産まれた適性によって八色のうちのいずれかの体色に変化する鳥の魔物、“
潮風に曝される丘の上にあるからか、ほんの少し肌寒く感じる事も多いこの家には必要な
これらは全て、レイティアと同じように魔物たちと心を通わせる事でフルールが一体化させたらしい。
しばらく物珍しそうに家の中を見て回っていた二人と二体だったが、フルールが茶菓子の準備を済ませた事により、それぞれが大人しく席についた。
そして、スタークたちは適当に茶菓子をつまみながら、フルールも分かってはいるのだろうが念の為にと自分たちの旅の目的や、この町に到着してからすぐに垣間見る事となったある男の処刑について話し──。
「──それで、先生が来てくれなかったのはあのイザイアスとかいう男のせいだと思ってたんですよ」
「あぁ、あの男ですか……確かにそれもありますね」
大体の流れを話し終えて、そう締めくくってみせたフェアトの言葉に、フルールは『なるほど』と顎に手を当て頷きつつ教え子の推測を肯定しながらも、その他にも理由があるのだとそれとなく仄かしてきた。
それを察したフェアトは、『他にも理由が?』と問おうとしたのだが、そんな彼女の問いかけはスッと手を自分の前に出してきた姉に遮られてしまう。
「なぁ、あんたは──あの男についてどう考えてる」
いち早く、あの男が
一瞬、『何の事か』ときょとんとしていたフルールも、スタークの言いたい事をすぐに察して──。
「どうって──あぁ、
「……どういうこった」
自分から見てもイザイアスは
すると、フルールは『そうですねぇ』と呟きながら目を細め、もう随分と前の出来事を回想する──。
それは、十六年前──勇者一行の活動とは別に各国から集められた優れた魔法使いたちが天空に浮かぶ巨大で荘厳な漆黒の魔王城を地に落とす為の方法を模索しており、そこには若き日のフルールの姿もあった。
確かに魔王城は遥か天空に浮かんでいるとはいっても、その時にはすでに魔物を従える魔法の技術は確立されており、鳥や竜種なら辿り着く事自体はできる。
──と、思うかもしれない。
しかし、その城は城塞と称した方が正しいのではと思えてしまうほどに多種多様で強力無比な兵器が設置されていた為、魔物たちも簡単に撃墜されてしまう。
また、仮に魔法の銃弾や砲弾をかい潜る事ができたとしても、魔法使いたちの攻撃では城に一切の傷をつける事も適わなかったものの、それにしたって硬すぎるだろうと魔法使いたちは銘々頭を抱えていた。
それでも、大陸中を旅して魔族を討伐していた勇者たちの力になる為に魔法使いたちは尽力したが、そんな彼ら、或いは彼女らの前に現れたのは──その傍らに名もなき二体の女性魔族を侍らせた男性魔族。
その魔族は──イザイアスと名乗り、いかにも高価そうな酒瓶を片手に醜悪な笑みを湛えながら魔法使いたちの努力を嘲笑いつつ、あまりにもあっさりと城が堅牢である理由が自分にあるのだと得意げに明かす。
当然、魔法使いたちは術者が出てきた今が好機だと全力で魔法を放ったが──イザイアスはおろか、イザイアスが侍らせていた二体の女性魔族も、彼が持っていた酒瓶すら割れていないのを見た魔法使いたちは。
……退却を余儀なくされたのだった。
「……魔王より与えられた称号は、【
フルールは、その時の不甲斐なさを思い返して顔を顰めつつ、あの時はまだ魔族だったイザイアスが授かっていたらしい称号と、その称号を授かった事によって覚醒した力、そして序列をも口にしようと──。
──した、その瞬間。
「──
「っ!?」
『『りゅう〜……っ!』』
イザイアスの並び立つ者たちについての序列を示す旨の幼い女声に、フェアトがその表情を驚愕の色に染めて振り向く一方で、パイクとシルドは小さな四枚の羽を広げて低い声音で威嚇するように鳴いていた。
「……誰だお前」
その反応を見たスタークは、イザイアスやセリシアを見た時のパイクたちの反応に似たものを感じ、『まさかな』と考えつつも警戒しながら素性を問う。
そんな風に緊迫している二組の双子だったが──。
「あら、お帰りなさい。 早かったですねぇ」
「「……!?」」
何故か、こんな状況でフルールは自分で淹れた紅茶を嗜みながら、それこそフェアトに話しかける時と殆ど同じ感じで話しかけた事で、スタークたちは思わず目を見開いて驚き、『どういう事か』と振り向く。
すると、突如として現れた濡れ羽色の長髪が特徴的で、スタークたちよりも更に幼い七、八歳ほどの少女は明らかに人間のものではない羅針盤のような模様が入った瞳を細めながらくつくつと喉を鳴らし──。
「【
実際に雷が落ちたと仮定して、その落雷による雷鳴が届く距離まで転移できる魔法──【
「──【勇者】と【聖女】の娘に会えるんだから」
「「!!」」
急ぎ足で帰還した理由がスタークたちにあるのだと語るも、どうして話してもいない自分たちの素性が露呈しているのかと驚き、双子は言葉を失ってしまう。
だからか──そもそも、この少女が何者なのかという事を聞く事すら二人の頭から抜けてしまっていた。
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