第40話 魔女との再会
しばらく幼子のような弱々しい力で魔女を抱きしめながら、それこそ幼子のようにポロポロと安堵からの温かな涙を流していたフェアトだったが──。
かたや、六花の魔女はそんな教え子をまるで親であるかの如く愛おしそうな笑みを浮かべてあやしつつ。
かたや、スタークは流石にそんな妹を茶化す気にはなれず、それが終わるまで大人しく待っていた。
その後、ようやく落ち着いてきたフェアトは──。
「どうして……どうして半年も来てくれなかったんですか……? 何かあったのかと心配してたんですよ」
先生のローブを自分の涙で濡らしてしまった事を謝罪しながら、『見限られたのかと思いました』と恨みがましくも寂しげな声音で控えめに問いかける。
「ごめんなさいねぇ、フェアト。 色々忙しくて……スタークも久しぶりですね、元気そうで何よりです」
「ん? あぁ、あんたもな」
すると、先生は申し訳なさそうに眉尻を下げてフェアトの金色の髪を撫でつつ、少し離れた位置で立っていたスタークにも微笑みかけるも、フェアトほど彼女に思い入れのないスタークは素っ気なく返答した。
「……それにしても、やっぱり私たちが来るのは分かってたんですか? 大して驚いてる様子もないですし」
そんな折、先生が扉を開けてすぐに『やっぱり』と口にした事を思い返したフェアトが自分たちの来訪を把握していたのかを問うと、彼女はニコッと笑う。
「えぇ、それはもう。 これでも六花の魔女なんて大仰な二つ名で呼ばれてますから。 六つの属性の【
尤も、スタークはまだしも魔法が効かないフェアトは基本的に【
彼女は両手に赤、青、緑、橙、黄、藍の六つの光を放つ精霊たちを浮かべながら『お手柄でしたね』と労い、精霊たちは嬉しそうに彼女の周囲を舞っている。
もちろん、その精霊たちは八つ全ての属性に勇者譲りの高い適性を持つ筈の双子には──見えていない。
基本的に、各種属性への適性さえあれば精霊を視認する事は可能な筈なのだが──こればかりは六花の魔女も、そして聖女レイティアにすら分からなかった。
「流石です! “フルール”先生!」
「ふふ、ありがとうございます──ただ」
それはともかく、フルールというらしい六花の魔女の名を口にしてフェアトが称賛した事により、彼女は少し照れ臭そうに微笑んだ──のは、いいものの。
当のフルールは、それとは別に気になっていた事があるようで、フェアトやスタークから視線を移し。
「その二体の竜には驚きました。 貴女たちのお母様から話だけは聞いてましたが──神晶竜なんですよね」
『『りゅー!』』
【
「やはり……という事は、どうやら穏やかな旅ではなさそうですね。 貴女たちの旅の目的は──」
それを見たフルールは満足げに頷きながらも何やら意味深な言葉を呟いて俯き、ただ旅をするだけなら神晶竜に乗ってくる必要性は薄いだろうと考えて──。
「──
「「!?」」
この世界に復活した二十六体の元魔族を再び討ち倒す為の旅なのか──と問うべく真剣な表情を向けた事で、スタークとフェアトは目を見開いてしまう。
「せ、先生も
そう、フェアトにしてもスタークにしても、魔族たちの復活に関しては自分たちだけが知っている秘密であり、だからこそ目立たないように努めてきた。
だというのに、まさかフルールが
「えぇ、貴女たちのお母様──レイティアから聞いていましたよ。 と言っても、つい半年前ですけど」
すると、フルールは教え子の問いかけをあっさりと肯定しつつ、どうやら本当に聖女と仲が良いのか呼び捨てにしながら、半年前という割と最近にその事実をレイティアから教わったのだとつまびらかにした。
半年前──それは言うまでもなく、フルールがあの辺境の地を訪れなくなった時期と一致しており。
この瞬間までイザイアスの凶行が原因だったと思っていたフェアトだが、あの男が
「半年……? もしかして、それが原因で──」
それこそが会いに来てくれなくなった原因だったのでは──と自分なりに推測したフェアトだったが。
「まぁまぁ、続きは中でにしましょう? さぁ入って」
「え、あ、はい……」
そんな彼女の推論は、『いつまでも立たせたままじゃ悪いですし』と家に入るように促すフルールの声に遮られてしまい、フェアトは思わずたたらを踏んだものの、とりあえず先生の言う通りにする事にした。
無論、姉と小さくなった二体の神晶竜も一緒に。
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