第13話 双子の竜の出自
時は、およそ十五年ほど遡り──。
地母神ウムアルマが世界の端に創造した小さくも豊かな大地に、ウムアルマが行使した【
(どうか、せめて安らかに……)
両手を組み、青々とした草原に膝をついて祈る。
(私に、もっと力があれば……リヒトも、皆も……)
それと同時に、レイティアは自らの非力に対して強い悔恨を覚えているらしく、絶対に生き返らないと分かっていても『あの時ああしていれば』という、もしもの考えが彼女の脳内を支配してしまっていた。
(……これから、どうしようかな──うん?)
その後、しばらく瞑想するように祈りを捧げていたレイティアが、組んでいた両手をゆっくりと解いて立ち上がろうとした時、彼女の視界に光る何かが映る。
(これは……リヒトの
その光の正体は、勇者でありレイティアの最愛の人でもあるディーリヒトが、かの魔王との決戦前に『とある試練』を乗り越え手にした水晶の如き
(鎧や盾は全く光ってない……他の皆の装備も……確かに、この
特殊──レイティアはその
例えば勇者が装備していた鎧と盾は神々より授かった文字通りの【神器】で、この世に並ぶ物は一つとして無いだろうと言える最上位の防具である。
そして、それぞれの出身国の王族より賜与された仲間たちの装備も、魔力や身体能力で勝る魔族の攻撃を
だが、その剣はレイティアの言葉通り確かに特殊であり、神々の防具や各国の国宝に劣らぬばかりか、さも他の装備が数段弱いのでは、と映ってしまうほど。
価値も、意匠も、性能も──。
その全てを、最高位と称せる一振りだった。
──“
その名の通り……神々に選定されし勇者だったディーリヒトと、かつては下界に手を下す事のできない神々の代行者だった“神晶竜”の力が一つとなった
神晶竜とは──神々の代行者として世界で最初に創造された生命であり、その創造主たる神々にも出現を想定できなかった魔王“カタストロ”を除けば、この世界で最も強く大きな力を有する生物だった。
また、あらゆる生命の祖と云われているだけの事はあり、勇者と同じく全ての属性の魔法を扱うのはもちろん、この世界の全ての存在へと自らの身体、或いはその一部を変化させる事も可能としていた。
魔王だけには、なれないようだったが。
勇者に課せられたとある試練──それは、『己一人の力で我を討ち倒してみせよ』という、神晶竜が自らの存在を賭した勇者への『力の授与式』だったのだ。
自分の力が、かの魔王に劣ると知っていたから。
無論、授与式とはいっても死力を尽くした戦いであった事は疑いようもなく、その試練が終わった時には勇者も神晶竜も互いに満身創痍となっていた。
そして、勇者の全てを認めた神晶竜は空を覆うほどの自らの巨体を光とともに、一瞬のうちに透き通るよつな
それこそが、
そんな
普通の人間ならば、まず間違いなく失明してしまうだろうというほどの八色の鮮やかな閃光を、だ。
八色とは──赤、青、緑、橙、黄、藍、紫、白。
つまりは──火、水、風、土、雷、氷、闇、光。
八つの属性を指しているのだろうと推測できた。
しかし、この世界の八つの属性全てを常人以上に扱う事が可能だった勇者が消えた今、レイティアこそが世界で最高位の光の使い手であるゆえに、この程度で目が眩んでしまう筈もなく、ただただ見つめ続ける。
その破片は一つ、また一つと浮かび上がりながら集まっていき、やがて掌大の楕円形の水晶となった。
まるで卵のようだと思ったレイティアが、その
二つの水晶が胎動を見せると同時に、中にいる何かが外へ出るべく内側から殻を突いているのを感じた。
──と、思ったのも束の間。
まさしく卵が割れる音とともにその中から現れたのは、かつて見た神晶竜をそのまま小さくしたような。
『『りゅー!!』』
「え……?」
後に姉の方を“パイク”、妹の方を“シルド”と名付けられる事になる──二匹の竜の幼体だった。
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「──と。 まぁ、こんなところね。 理解できた?」
そんな昔話を終えたレイティアは二人に……というより、主にスタークの方へ向けて声をかける。
一応、神晶竜は魔物半分、鉱物半分といった存在であった為、スタークの興味を惹かなくはない筈だが。
「私はさっきも聞きましたから。 姉さんは?」
「……まぁ、おおよそは」
一方、一足先に事情を聞いていたゆえに『改めて尋ねる事もない』と考え、レイティアと同じくスタークに顔を向けたフェアトに対し、スタークも大体は理解できていたようで肩に乗るパイクを見遣って頷いた。
「さて、この子たちの説明も済んだところで──」
「……あー、お袋? その、さっきは──」
その後、話題を切り替える為に手を叩き乾いた音を鳴らしたレイティアの言葉を聞いて、『先に謝っとかねぇと』と判断したらしいスタークが栗色の髪を掻きつつ先程の自身の酷い言い草を詫びようとする。
──が、聖女の言葉は止まらない。
「貴女たちには、この二匹の竜と一緒に──」
レイティアは、ここでようやく光の椅子から立ち上がり、わざとらしく溜めるように一拍置いてから。
「──
スタークにとってもフェアトにとっても、あまりに唐突としか捉えられない命令にも似た提案に二人は。
「「……は?」」
──まさしく双子らしい反応を見せたのだった。
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