ACT10 免状持ちは辛いぜ【如月 魁人】
はは! 見ろよ! 女医め、真っ青になって見上げてら。当てが外れたって顔だ。まさか司令が勝つとは思ってなかったんだろ。そぉっと俺の銃手放して、白旗揚げたぜ。物分かりがいいこって。
「司令、早かったっすね」
「あの程度で手間取るものか。伊達に免状は持ってないよ」
だよなぁ。実は司令、「免状持ち」なんだよなぁ。
一般に免状って云やぁヴァンパイアハンター資格の免許証のこった。
あの「長崎事件」以来の免許制度で、歴とした国家資格。
(断わっとくが、鳥獣の保護及びなんちゃらって法律で定めるハンターの国家資格とは
取ること自体は簡単だ。
随分と安い資格だと思うだろ?
違ぇねぇ。ボーダーのCと、低ランクのE、最低ランクのF連中は殆どがペーパー。協会に身売りしねぇ限り、銃所持免許の更新だって必要だ。銃すら持たねぇハンターがわんさか居るわけだ。
それはそれでいいのよ。サッと構えてパッと撃って5
だから実際動いてんのはAランクBランクの
そん中でも特に出来る奴ぁ
さっき俺が言った
しかしだ。免状持ちは現状、たったの2人しか居やしねぇ。2人だぜ? たったの。うち1人が俺ってわけ。
まあな。お情けで受かった口だろな。読みは外すわ作戦立ては苦手だわ、頭の方はいまひとつって自分でも分かってるぜ。もう1人の免状持ち、名前は麻生っつうんだが、俺とは逆の慎重派で作戦派。2個上で歳も近ぇ。おっさん連中は「2人合わせてハイランク」なんて面白半分に言いやがる。返す言葉もねぇ。
んじゃ司令はなんなの? って聞かれたら、正確には
実は元自衛官の移籍組らしいんだが、受かった時点ですでに
今でも覚えてるぜ。3年以上も前の話だ。まん丸の
「ちょっと出かけて来るよ魁人くん」って出掛けた司令を俺は見送った。いつもの事だからしばらく気にも留めなかったんだが、ちょっとの筈が午前様。胸が妙に騒いだんで協会のエントランスで待ってりゃあ……司令がボロ雑巾になって帰ってきたのよ。
バッタリ倒れて意識無くしてそれっきり。面会謝絶が3年も続いたもんだから、俺も半分諦めてたんだが、ある日ひょっこり帰って来た。事務の受付に座ってたのよ。聞きゃあなんと、ヴァンプの
普通は退くが司令は違った。無鉄砲もいいとこだ。良く生きて帰ったもんだ。上はこれを重く見て、Sどころか免状自体取り消しちまった。とうぜん銃も持てねぇ。事務局長の肩書つけて椅子に縛り付けたわけだ。
見ての通り、ぜんぜん言う事聞かねぇけどな。
隙があるようで無い、そんな居住いで佇む司令。ちょい前髪乱れてっけど。
「それはそうと、君の方はあまり大丈夫じゃないようだね?」
「面目ねぇ。この女が銃持ってるのに気付かねぇで」
「ほう?」
ピクリと眉動かして女を一瞥した司令が、軽くため息つきながらこっち寄って来た。何する気かと見てたら、そっと俺の身体に手ぇ回して……
優しくだ。気味悪ぃくれぇ優しい手つきで俺の上着を脱がせんの。もちょけぇ(くすぐったいの北海道弁)ったらありゃしねぇ。その下のアンダーシャツ型の防弾・防刃
うつ伏せに寝かされて背中にピタリと当たったのは司令の手の平。
「いくよ、魁人くん」
「どこ行くんすか?」
「
司令が変な冗談飛ばしやがるから、俺ぁ油断したんだぜ。力入れてた腹筋背筋が緩んだわけだ。
したらいきなり来た。司令お得意の掌底だ。
ゴキリと鈍い音がして、俺ぁ「ぐぇっ」とか叫んじまったが……あれ?
「動く! 足が動く! 痛みもねぇ!」
「椎骨がズレていただけだ。運が良かったね、魁人くん」
まるっきり人畜無害な顔してほほ笑む司令。
女医が眼ぇ丸くして見てやがる。上げた腕は下げねぇ。逃げる気もないらしい。
俺は俺で喜々として拾ったぜ。女医が置いた銃と、向こう端に転がってたもう一挺の銃をな。そんな様子を、司令は日向ぼっこしてる猫みてぇな顔して黙って見てたんだが、カツン! と靴音させて女医に向き直った。
「さて」
女医の喉から「ひっ」って音が出た。おいおい。さっきはあんなに堂にいってたってのに、なんて顔してんだよ。いったい司令、どんな顔してみせたんよ?
VPの女だが一応は人間だ。あからさまに危害加えるつもりは
ありっちゃありだ。免状持ちは人殺しても何の咎めもねぇからな。
(くどいようだが、持ってんのは司令じゃなくて俺だがな!)
もちろん無差別に殺したりはしねぇ。ヴァンプの手がついた人間に限っての話だ。奴ら、おおかたが敵に回っからな、殺さなきゃなんねぇ場面がどうしても出てくるわけよ。んな時にいちいち上の判断仰いでたら間に合わねぇ。
気は進まねぇが、ヤるってんのなら躊躇はしねぇ。憂いは絶つべしと、爺様も良く言ってたしな。咎めがねぇってのは、いいようで決してそうじゃねぇ。そいつの人生全部
シリンダーずらして弾を籠める俺を、女医は半分諦めた顔して眺めてた。
胸んとこがギリっとしたぜ。「武士道と云うは死ぬことと見つけたり」って有名な言葉があんだろ? こんな仕事だ。いつでも、どんな時でも死ぬ覚悟をしろ、常に死ぬ気であたれって……そんな風に俺ぁ捉えてたんだが、そんな覚悟を決めた眼だ。
くそっ! 俺と
だが司令は俺にそんな指示しなかった。しゃがみ込んで、女医と目線を合わせながら言ったのさ。
「貴方には少し、手伝って頂きたい事があります」
「え?」
へぇ? 司令、なにか思う所があるらしいぜ?
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