わけもわからず歩いたはなし

たかあり

第1話 M君について

私とM君とは同い年である。M君はメガネをかけていて痩身。性格はというと、少々だらしないところがあるが、さまざまな欠点も含めて彼のことは嫌いではない。好きなところは個性的であることだ。

M君は十代のころ、旅館に住み込みでバイトをしていた。だが、ある日急にイヤになって夜中に脱走したらしい。時期は夏だったとは言え、群馬の山の中の旅館だったので、駅に向かって寒い山道を歩かねばならない。のちに彼にそのルートを案内してもらったが、ゴールデンウィークの時期だったのに雪がたっぷり残っていた。標高が高い場所なので下界とは気温がまるで違うようだった。

そんな山道で彼は寒さのあまり、持っていた漫画本を燃やして暖をとりつつ歩いたそうだ。その行程をグーグルマップで見たところ、なんと30kmの距離である。朝まで歩いたというのだから面白い。

いや、面白がっていられるのも最初だけだった。

ついにはなぜか私まで彼に歩かされることになった。

「初日の出を見に行こう」

と、M君は言うのである。

「どこに行くのか」と聞くと、

「葛西臨海公園。家から歩いて行こう」という。

我々の家は浦和である。

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