第六章 スカウト

第六章 スカウト



 赤羽や大宮、浦和といった駅前に車で乗り付け、素養のある男の子を探した。

 当初は『順当な』人に声をかけて行こうと思っていたのだが、次第にあることに気が付いた。

 街中で性風俗のスカウトを受けたところで、単純にほいほいついていく人間は少ない。まして男が男から声をかけられて、快諾する例は皆無だろう。

 ただ、俺は男に興味のある男の容貌を理解していた。

 その仕草や表情などから、それらを汲み取ることが出来る。

 高校時代に培った知識と感覚は、このスカウトでも威力を発揮した。

 しかしながら、素養ある子を見つける事とは別の問題である。

 男性に興味のある男は、世の中の人が思っているよりもいくぶん多い。ほとんどの人間は興味がない事を装っているが……本質は違う。

 けれども、だからと言って彼らの多くが女性に変貌する要素を秘めているかと言われると、それは違う。


 では、女性として適正のある男性はどのようなものか。


 それを突き詰めていったとき……ひとつの答えにたどり着いてしまった。


 ――未成年。


 学生服を着た未成年。


 とくに、十四歳程度の中学生が良い。

 まだ骨格の成長が完全になされていない子どもの方が、良い素養を持っている。

 彼らに声をかけることはできない。

 けれども、帰宅ラッシュの終わった駅前のロータリーで『人待ち』をしている子どもならば、話は別だ。

 彼らは「用事なんてない」「別に」などと口では否定するが、その身体は誰か他人を求めている。なぜ他人を求めているのか。自宅に帰ることはできない、何らかの事情があるからだ。

 俺は彼らを買うつもりはない。

 何度も繰り返すが、男性と交わる趣味はない。

 ただ純粋に美しい女性へと変貌する男性を見つけたいだけなのだ。

 男性として生きる彼らが、本来あるべき姿へと変貌する過程を、俺が導いていく。俺の手にかかれば、一時間……いや、数十分で彼らは魅力的な女性へと変身する。その過程と達成感が、俺に生きている実感や存在の証明を与えてくれるような気がしていたのだ。

 胸にシリコンを詰めたり、ホルモン注射を実施したり、切開して頬骨を削ったり……そうした直接的な改良はくわえない。

 あくまでも生まれたまま、無理のない成長のなかにある男性の身体を表層的にいじることによって、本来の形を取り戻すのだ。それは魂と呼応したものでなくてはいけない。

 自らの深層心理に埋まっていた女性への憧れが、俺の手によって呼び覚まされる。健次郎のようなお店に仕える人間は、すでに意識の中で女性への憧れがあったわけだが、大宮や浦和のロータリーを歩いている学生たちはそうではない。

 彼らは虚勢を張り、声を上げ、悪ぶり、ときには隣を歩く友人よりも自分が優れているということを暗に表現しようとする。それは自分がなにものであるかわからないためにおこる恐怖の表れである。

 思春期の子どもたちが陥る、ありがちな背比べのようなものだ。

 その背比べをしている少年たちの中に、間違いなくきらりと光る女性の原石がいる。悲しいことに当人は自分が女性になりうるという可能性に気づいていないのだ。

 幸福な例として、文化祭などで女装することでそこに気づく者もいるが、それはあまりに少ない。そして正しい気づきが必要である。女性になることのできない男が女装したところで、それはただただむなしいものだ。俺の求める女性的な完成度に近づくためには、心身ともに女性となりうる要素を持った素体でなくてはいけない。


 俺はその素体を探し出さなくてはいけない。


 健次郎も立派な女性的要素を持った男の子だった。

 だが、彼を超える可能性を秘めているのは……未成年以外にいないと思われた。

 中学生から高校生の学生こそ、穢れのない女性的意識を心の奥底に内包している可能性がある。不用意にスカートを短くしてコンビニで品物を選んでいる女子高生よりも、よっぽど高貴な女性的魅力を含んでいる。


 俺には、それがわかる。


 夜の街にふらりふらりと漂う少年たちを見つけては、適当に声をかけ、引っ張れるかどうかを確認していく。

 冷静に考えてみれば、なんとも度胸のいる作業だと思う。

 引っ込み思案だった俺の性格が、女性的な要素をもつ少年を見つけるという作業を介すことによって、俺自身の人格までも変化してしまったのかも知れない。

 少なくとも男性アイドルの芸能事務所のスカウトとやっていることは同じだ。

 俺にないのは後ろ盾とブランド力だけである。


 男性アイドル芸能事務所よりも先に、魅力的な少年を見つけ出さなくてはいけない。


 しばらくの期間、俺はそうしたポリシーのもとで少年たちをスカウトし続けた。

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