うちの師匠は冒険しない〜資格停止中の最強の暗殺者、暇だから後輩冒険者を指導する〜

帝国城摂政

双子のソルナ兄妹は、剣の道を志す

第1話 いや、資格停止って……なんだい?

「----と言う訳で、Sランクパーティー【千軍万馬】の5人は、1年間の冒険者資格停止とするっ!」


 ギルドに入るや否や、ギルドマスターは俺達にそう告げた。

 お腹がでっぷりと膨らんだ、お金とか贅肉をでっぷりとため込んだ彼は、すっごく満足そうだ。


 けれども、言われた方----つまりは、冒険者資格停止を告げられた【千軍万馬】の5人は、呆然としていた。

 なにせ、今、超高位難易度のクエストを必死になって、終わらせたばかりだったから。

 もう疲れ切っていて、後はギルドの受付で、報酬を受け取る所だったのに。


「あー、それじゃあ今日は報酬をもらって帰りますわー」


 5人の中で一番衝撃が薄かった、一番復活が速かった俺は、受付で報酬を貰いに行こうとする。

 ギルドマスターのバカな発言は、ゆっくりと眠って疲れを取った後、対処しようと思って、とりあえず用事だけでもやり遂げておきたいと思ったのだ。



「残念ながら、報酬を受け取ることは出来ませんよ。【千軍万馬】のブラドさん?」



 すーっと、冒険者としての報酬を受け取ろうとした俺の前に、そいつは現れた。


 そいつは、憎たらしいような顔を浮かべつつ、白銀に光り輝く鎧をこれでもかと見せびらかしていた。

 腰に、龍の紋章を象った聖剣を持った彼は、俺達に指を突き立てる。


「なにせ、あなた達が報酬を受け取ろうとする依頼文には、ちゃーんと書いてありますからね。

 "依頼を達成した冒険者にこの報酬を与える"という、ごく当たり前の条件が!」


 ----ぷーくすくすっ!


 完全に小馬鹿にしてるとしか思えない、そんな笑い声と共に。

 そいつは、聖剣と共に現れた。


「冒険者である資格を持たない、あなた達はこの依頼の報酬を受け取ることが出来ないんですねー。

 残念でしたねぇ~、ブラドさん?」


「タツヤ……」


 俺はそうやって、笑って煽ってくる白銀の鎧を纏ったそいつ----タツヤを睨みつける。


 全然、役に立たずだから追放したばかりの、勇者。

 その名も、タツヤ・ドラゴニック・イチノセ。


 聖剣に選ばれただけの、役立たず。

 なんでも自分が一番目立っていて、なおかつ自分が一番サボりたいという、パーティーに一番向いていない男。


「この勇者である私を、追放するだなんて、やーっぱり間違っていたんですよ。どうです、間違いを認める気になりました?」


 ----もう謝っても、許さないけどねぇ。


「(あー、なるほどなぁ)」


 タツヤの様子を見て、俺はこの状況の全てを理解した。


 全てはこのバカ勇者が腹いせとして、同じくらいバカなギルドマスターと一緒に企てたもの。

 俺達が一番困るタイミングで、冒険者資格を停止させる。

 そういう、計画なんだろう。


「悪趣味だなぁ、タツヤ」


「ククク……褒めても何も出ないですよぉ?」


 いや、全然褒めてないんだけど。

 むしろ、貶しているくらいなんだけど。


「さて、ブラドさん? 残ったあなたはどうするんですか?」


「え? のこ、った?」


 キョロキョロと、後ろを振り向くと、そこに居るはずの連中の姿はなかった。

 つまりは、俺の他の4人のメンバーの姿がなかったのだ。


 リーダーで、【剣士】のイキレウス。

 副リーダーで、【格闘家】のチャッキー。

 【弓手アーチャー】の、ツバレロ。

 【魔法使い】の、ナロン。


 俺の他のメンバーの姿が、いっさいなかったのだ。


「うわぁー、判断が速いなぁ」


 どうやら他の4人は、もうどっかに行ったみたい。


「で、【暗殺者】のブラド? あなたは、どうします?」


 他の4人と同じように、どこか別の地域に逃げて欲しいのだろう。

 そんな思いが透けて見えるタツヤの言葉に、俺は----



「そうだな。それなら1年間、のんびりダラダラと、ここで過ごさせてもらうよ」


 これがSランクパーティー【千軍万馬】のメンバーとして、唯一残った俺が出した決断である。


 この決断が、後に"ギルドの酒飲み野郎"たるブラドが誕生した理由である事は、間違いないだろう。



==== ==== ====

【Tips】冒険者資格

 冒険者ギルドが発行する、ギルドカードに記載されている資格のこと。"クエストを受ける"、"ギルドに金を預ける"など、ギルドからの様々な恩恵が受けられる

 逆に言えば、この資格を失うということは、ギルドからの恩恵を全て失うということである

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