5分勇者

ナディア・グリマルディ《Alice》

第1話 召喚

「聞こえるかい?」


暗闇からこちらへ問いかける声が聞こえる。


「誰?」


私は正体不明のその声に対して恐怖心を抱きながら恐る恐る逆にそちらが誰であるのかと問いかけた。




私の名前はユウ。さっきまで天界で休日を満喫していたというのにいきなり気を失って気がつけばこの暗い空間にいた。


ちなみに天界にいるということで薄々気づいているだろうが私は既に1度死んでいる。いや1度ではないかもしれない。この世界は輪廻転生で成り立っているからな。


それも転生の神の仕業らしいが、詳しいことは知らない。


それはともかく、生前の記憶はほとんど失われている。

2つだけおぼえているが、それは自分がユウという名だったことと、男であったということだ。


今はなんと女の子になってしまっている。しかも年齢20前後に思える。


死ぬ前はもっと歳を食っていた気もするがまあいい。


既に過去のことだし、未来も人間ということが確約されていることだし、安堵していたがそんな時に一体この声の主は何のつもりで私を呼んでいるのだろう?。


「ま、返事をしてくれるということは聞こえてるようね。よかった。」


向こうからホットしたような声色でそう聞こえた。


カッカッカッ。


歩いてくる。


段々と近づいてきたがある程度近づくと止まった。


しかし、姿は見えない。いや認識出来ないと言った方がいいかもしれない。次の言動でそう判断した。


「私は時空の神。あなたをここにかっさらってきたこの世を灰色に染め上げる者よ。」


なんて奴だと心の中で思ったがどうやら相手は神。天使ですらない私には向こうが見せる意思がない限り姿を認識出来ない。



「それでなんの用ですか?あなたと話したことも無く、天使ですらない、単なる天界の転生待ちの住人の私に一体何を求めているのですか?」


私は強気な姿勢で彼女に臨んだ。



すると、

「貴方は私にとっては単なる天界の住人ではない。対時間の神の切り札になり得る。」


「切り札?」


なんの事だったかさっぱりだったので大人しく話を聞くことにした。


「そのままの意味よ。貴方は生前の記憶がないようだけど、死ぬ直前の事だけ話すけれど貴方は時間の神の実験により命を落とした。その時の記憶はなくとも憎悪は残っているはず、そこで取り引きだけど生前の記憶を思い出させてあげる代わりに私に協力してくれない?」



「この世を灰色に染め上げる者に協力しろだと?」


しかし、私の中では憎悪が煮えたぎる感情は無かった。そもそも記憶が伴わなければそんなモノ湧き上がるはずがない。何を期待しているのだ?。まあ、ぶっちゃけ灰色に染め上げるのはどうでもいいや、ノリだろうと思って軽く流した。


「簡単に説明すると、世界を救って欲しい。これからかの時間の神クロノスにより、この世が暗黒の障壁により包まれこの次元に住む人間は須らく命を落とす。私が支配する世界に住人がいないのは寂しいだろう?これを解決するにはひとつしか方法がない。それは時間の神を抹殺することよ!だから協力してほしいの、お願い!」


「しかし、それは貴方が直接手を下せばいいのではないか?もしくは天使に。いくら生前にその時間の神と私が関わりがあると言えども私は全く記憶にないし、なんの敵対感情もない。それにその対価が生前の記憶というのもリスクに見合ってるとあまり思えないんで帰りたいんですが…。」


「なんでもするから!お願い!」


「今なんでもするって?」


「うん!」


「じゃあ、転生待ちの住人から天使に格上げ+自由に天界で行動出来る範囲を大幅に拡大+気に入らなければ他にもこちらに有利な条件を約束ということならば考慮しますよ?」


「それでもいいよ!とにかくあいつ嫌いだから抹殺してくれ。期待してるよ。じゃあ、後は私の天使に説明投げるからあとはよろしく。」



かなり投げやりな感じで時空の神は去っていったようだ。


そして、神々しい光が目の前で輝きだし、思わず目を瞑った。


その光の中から金髪の長髪で、透き通るような白い肌、煌びやかな衣装に身を包んだThe天使という見た目な女性が現れた。


「しっかり目を開けろ。腰抜け。」


初対面の人に対する態度とは到底思えない上からの態度で喋りかけてきた。


えーこれからこれと付き合うのかと思うとゾッとしたが、仕方ない。約束だ。


「これから先程、時空の神様から説明があったようにこの次元の人々が死亡する惨事が起きることが予測されている。それを食い止める術は残念ながらないが、なかったことにするのが我々の天命だ。そのために何が必要だと思う?」


「力ではないか?それと資本。」


咄嗟にそう思ったので呟いてみたが、


「まあ、あながち間違ってはいないが、これから貴様には異次元から英雄を召喚してもらう。」


「召喚?英雄?…。そいつが協力的なのか?それに一体どうやって?」



「協力的なのかどうかは保証するものでは無い。それから、誰が送り込まれてくるのかについてだが、全て時空の神様がかつて声をかけていた者だが、いずれもこの世界を時空の神に支配されることに賛同した人物だから、そこまで心配することはない。それと…。」


その天使はおもむろにカードを取り出した。


「これを破ることで召喚することが出来る。」


「やっ破る?」


「そうだ。破るのだ。こうしてな!」


ビリリッ!


彼女の手に持っていたカードは無惨にも破られたが、破片は光り始め、魔法陣のようなものに変化した。


すると、その魔法陣の中心から光が差し、人型の光となり、一瞬にしてそれは人に変化した。


その姿は鋼鉄のヘルメットに鋼鉄の鎧、短い剣に安っぽい軍靴を履いた兵士だった。


「ほう。これがその英雄ですかい?」


「そうだが、私の分析眼によるとそいつは異次元の王国の一般兵。能力的には微妙だが、まあ弾除けにはなるだろうな。」


その兵士は見慣れない空間に来てオドオドしていた。


「ここはどこ?私は誰?ああああああ!」


「発狂してるけど…」


「落ち着け。お前は天命を果たすためにここに来たのだ。」


それから天使は私にしたように長々と丁寧に事情を話した。


「そっそうですか、やはり時空の神様の手引きでしたか!いいでしょう!手を貸しましょう!」


「ああ。よろしく頼む。」


この2人のやり取りを見ていて私は不安になった。こんな人らしか仲間が居ないのかと思い、先が思いやられた。


「ということで残り2枚のカードも破るか。」


そうして、再び魔法陣が出現し、現れたのは

金髪の筋骨隆々の男と金髪の男勝りな面構えの女性の騎士だった。


それぞれここはどこ?と先程の兵士と同じことを言うので天使は説明に苦労していた。


それぞれ名はヒカリとエクシアと言うそうだ。ま、覚えやすい名前でよかったね!とだけ。


「君が天命の勇者たるユウさんですか、これからおともさせていただきます!よろしくお願いします!」



頭を下げてそう言ってきたので2人に対して、


「これから長くいつ終わるのか分からない旅になるかもしれないが仲良く、そして我らの天命を果たすため共に協力しよう!」


「はい!」



いつの間にかリーダー格に私はなっていたが、これも天使のせいか?が探りはやめよう。別に召喚してきた人らの誰かしらをリーダーに添えることも出来たろうにな。ま、別にいいけど。



そして、天使はこう言った。



「準備は整った。それでは下界に飛び立とう。」



「おー!」


と一同は声を上げた。



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