休日の顔

宵闇(ヨイヤミ)

第1話

休日、それはその人にとって気を抜ける時間なのではないだろうか。学生には普通だと感じる休日だが、会社員からしてみれば貴重な休日となるのかもしれない。

だがそれら以上に休日を貴重だと思っているのは《 アイドル 》などの芸能人なのではないだろうか。

今日は私の友人である、とあるアイドルの“休日”の話をしよう。



ある日の正午、人気の多い商店街は夕飯の買い物をしに来た人や、お昼を食べに来ている人で溢れかえっていた。

そんな中からどこからともなく、明るく陽気な声が響く。

「今日は話題の某商店街に来ています!」

そう紹介するのは、最近人気急上昇中のアイドル『藤咲 瑠璃』(本名:藤崎 リラ)だ。そして彼女は私の親友でもあり、仕事が休みの日はよく2人で遊んだり出掛けたりしている。

現在、私とリラはある計画を立てている。それは彼女自身が一度やってみたいと言っていたことで、私もやったことがなかったので、これはいい機会だと思いやることにしたのだ。

そして明日はその為の準備をするためにリラに会うことになっている。準備とはいえ、一体何をどれだけ準備すればいいのかが曖昧な状態ではあるが、きっとなんとかなるだろう。



〜翌日〜



朝になりスマートフォンを見てみると、リラからメッセージが来ていた。

『今からそっちに行くからちゃんと着替えておいてね』

いやいやいや、え?私まだ今起きたばかりですよ?しかもこれ、15分前に送られてきてるじゃん。

リラの家から私の家までは徒歩で5分もかからない。彼女がメッセージを送ってから準備をしていたとしても、きっとそろそろインターホンを鳴らしに……


《 ピンポーン 》


噂をすれば……とはこういうことか。まだパジャマ姿だというのに…だが、来てしまったものは仕方がない。私は着替えずにそのまま玄関へと向かう。

玄関の向こう側から『おーい、起きてるかー』と、元気そうな声が聞こえる。起きたばかりでこの大声は頭が痛くなる。


《 ガチャリ 》


玄関を開けると『あ、やっと開けてくれたね』と言ってリラは立っていた。そして家の中に入ってくるなり『って、まだパジャマ!?着替えといてねって送ったのに……』と言ってくるものだから、まだ今メッセージを見たばかりだと言う話をして落ち着いてもらった。

「今から着替えてくるからリラはリビングで適当にテレビでも観てくつろいでて」

「はぁーい。早く来てよねー?」

「分かってるよ」

階段を登り自室へ行く。タンスから適当に服を引っ張り出し着替える。鞄に財布や携帯などの必要品を詰め込み、パジャマは洗濯機に放り込んだ。

「お待たせ」

「やっと来たかぁ」

「うん」

「じゃあ行こっか!」

「ショッピングモールでよかった?」

「うん!あそこなら大抵の物は揃うでしょ?」

「そうだね、行こうか」

そう言って靴を履き外へ出る。リラは顔を見られてはまずいので帽子にサングラスとマスクを装備している。そこだけ聞いてしまえば不審者だと思われてもおかしくはないが、服装はちゃんとしていて、今時の女子だというのがよくわかる格好をしている。

「外に車あるからそれで買い物行こ!」

「車?一体誰の……」

そこには見覚えのある人がいた。それはリラのマネージャーを務めている坂田さんだった。

「坂田さん、お久しぶりです」

「やぁ、久しぶりだね。今回は次の明日のための買い出しなんだって?重い物は僕が持つから遠慮なく沢山買ってくれ」

「ありがとうございます」

それからは坂田さんの運転で近くにある大型ショッピングモールへ買い物へ行った。食材を沢山買い物カゴへ入れいてくリラだが、内容が肉ばかりで偏っている。私は彼女に気付かれないように野菜を少しずつ混ぜていく。彼女がそれらの野菜の存在に気が付いたのはレジでお会計を済ませたあとで、既に手遅れだった。

「明日、楽しみだね」

「そうだね、リラ」

「そういえば2人とも、明日は何をやるんだい?」

坂田さんに唐突に投げ込まれたその疑問は、私たちの目を点に変えるほどだった。買ったものを見れば歴然だろうと言ってやりたい。

「バーベキューですよ」

「もー、マネージャーなのに食材見て分からないよ?」

『何だバーベキューか、そんな事も分からないなんて俺はマネージャー失格かな』と、坂田さんは笑いながら口を零した。



〜翌日の早朝〜



今日は待ちに待ったリラとのバーベキューの日てある。天気も良く、朝日が心地良い。

『おはよっ!いよいよ今日だね!7時には着くように行くからちゃんとそれまでに準備しておいてね!』

リラからは元気はメッセージが送られてきていた。『おはよう。リラこそ、忘れ物無いかちゃんと確かめてから来なよね』と返し、私は着替えを済ました。

リビングでは既に朝食が用意されており、母は『おはよう、リラちゃん来る前に早く食べちゃいなさいね』と言われた。


その後、リラは坂田さんと一緒にうちへ来て、坂田さんの運転でバーベキュー場へと向かった。途中で道の駅などがありそこでちょっとしたものを買って食べたりして、約2時間ほど経ったころに私たちは目的地に着いた。

「わぁ、いい所だねぇ!」

「そうだね、リラ早速準備しよっか」

「うん!」

まずはテントを張る。それから3人分の椅子を用意して、炭に火を付ける。火起こしは危険だということで坂田さんが担当してくれた。

その間に私たちは買ってきた食材を切ったり、串に刺したりしていた。


分担して作業を進めたお陰で、30分ほどでそれぞれの作業は終わり、いつでも焼くことができる状態になった。

「まだお昼まで時間あるね」

「折角だから2人で遊んでたらどうだ?俺はここでゆっくりしてるから、行ってこいよ」

「いいの?」

「あぁ、勿論だ。たまの休みだしな」

私たちはお言葉に甘えて、2人で遊ぶことにした。とは言っても遠くまでは行かず、テントの横にある木陰や、椅子に座ってのトランプなどのゲームなどをした。リラとこういった遊びをするのはいつぶりだろうか。普段は買い物や水族館などの施設に行ったりする事がほとんどだったから、カードゲームをやったりしたのはきっと小学生などの幼少期ぶりと言えるだろう。



〜昼時〜



遊んでいたこともあり、昼になる頃には2人してお腹の虫が鳴き喚いていた。

「はぁ……お腹空いたぁ…」

「リラ、そろそろ焼こうか」

そういうとリラは物凄い速さで網の前まで来て、肉や野菜などを乗せていった。『本当に全部食えるのか?』と坂田さんに言われていたが『お腹空いてるからこのくらい余裕だもん!』と反論していた。実にリラらしい。

そこからは3人で食べながら色々話をした。最近の学校の事や仕事のこと、次の休みはどこに行こう、何をしよう、そんな他愛もない会話をしていた。



〜夕方〜



「今日は2人とも楽しめたか?」

「「とても楽しかった!」」

私たちは2人で声を合わせてそう言った。今日はそれほどに楽しかったのだ。また早く次の休みは来ないものかと私は彼女の次の休みを楽しみにしていた。




____そして彼女は数日後に死亡した


あのバーベキューが、私と彼女の、最後の思い出となってしまったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

休日の顔 宵闇(ヨイヤミ) @zero1121

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ