第77話・無関心を装います


 翌朝、わたしは普段とは違う寝具の感触で目を覚ました。肌に伝わる毛布の柔らかさと、何かに抱きしめられているような感覚に戸惑いを覚えて、その正体を見極めようと頭を上げたところで驚いた。


「ぎ、ギルバード……?」


 どうしてここに彼が? と、思いながら昨日の記憶を探る。昨日は鷹狩りに出てイサベル王女の手の者に命を狙われ川に落ちた。そしてギルバードに助けられてこの狩猟小屋まで連れてこられて、食事をしたところまで覚えているけれどその後の記憶がない。酔いが回ったわたしは気分良くなって寝てしまったに違いなかった。

 狩猟小屋の狭いベッドの中で、毛布に包まれた状態でふたり抱き合うようにして寝ていた。ちょっとこれはまずいんじゃないかしら? 未婚者の男女が一つベッドの中で?

 不安が頭の中をよぎる。まさかギルバードはわたしが寝てるのをよい事に、体に悪戯とかしてなかったわよね? 最悪体を重ねていたとしたら目も当てられない。

ベッドから身を起こし自分の体を確かめると、裸体に毛布を巻かれてる他は、なにも変わりないように思われた。いつの間にか脱いだドレスは乾かされていて椅子の上に乗せられていた。これ幸いとギルバードが寝てる間に着替えることにする。下着をつけ始めてから気が付いた。コルセットが自分では締められないことに。


「ん……んん?」


 隣に寝ていたわたしがいないことに気が付いたようで、ギルバードが目を覚ました。


「おはよう。ジェーン。先に起きていたの?」

「おはよう」


 彼の視線から逃れるべく、下着姿に毛布を巻きつけると、それを見て悟ったようにギルバードがベッドから起き上がった。


「コルセットが一人では締められないよね? 締めてあげるよ」

「……ありがと……」


 恥ずかし過ぎて顔もあげられない。ギルバードは椅子の上にあったコルセットを手に取ると、わたしの後ろに回って締めてくれた。


「そんなに強く締めなくてもいいよね? これぐらい?」

「それぐらいでいいわ」


 彼の手馴れた手つきにさすが軟派男と変な感心をしながらも、無人となったベッドに目を向けぎょっとした。ギルバードの脱ぎ捨てた毛布がベッドの上にある。と、いうことは彼は裸のまま自分の後ろに立っているということだ。悲鳴をあげそうになったが、声をどうにか飲み込む。ここで過剰に反応しては彼に馬鹿にされそうな気がする。ここはあえて無視だろう。そうよ、無関心を装うのよ。ジェーン、あなたなら出来るわ。無関心。無関心。心の中で唱え続けると終わったようだ。


「はい、終わったよ。ジェーン」

「ありがとう」


 コルセットを締めてもらえばあとはドレスを着るだけだ。その後はどうでもなる。ドレスに体を通していると、ギルバードも着替えを始めたみたいでこちらに背中を向けて着替えていた。贅肉のない綺麗な体つきが嫌でも目に入ってきて目の毒だと思う。あの体で何人もの令嬢や淑女たちを翻弄してきたとは。罪な男だ。

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