第32話 『トラップ』と『機械魔砲少女28歳』の経歴書

『伏せろ!』


 かなめの合図と同時に、誠は男の手を振りほどいて地面に体を叩きつけた。


 轟音が響き、肉のちぎれる音が、誠の上で響いた。


 誠が振り向くと、壁の破片と一緒に男の上半身が吹き飛ばされて踊り場の方に飛んでいるさなかだった。階段下の三下はそれを誠達と勘違いして、サブマシンガンでの掃射を浴びせかけ、男の上半身は一瞬でひき肉になった。


 誠はそのかつて人間だったものから目を反らして後ろの壁を見た。


 そこには人の頭ほどある弾丸の貫通した跡が残り、コンクリートの破片が散乱している。


「これが、アタシ等のやり方。そいつの体がアタシが設置したアンチマテリアルライフルの射線に入ったから撃った。そんだけ」 


 その声で誠は状況を把握した。


 かなめが男を挑発していたのは、かなめが設置した壁をぶち破るほどの威力のアンチマテリアルライフルで、男を狙撃するのが目的だと。誠が男を振りほどけばもうすでに撃たない理由は無い。そして、遠隔操作で対物ライフルは発射されて男は死んで、肉片となった。


叔父貴おじき……オメエの隊長だよ。アレはアタシの『叔父おじ』」


 かなめは安心したように胸のポケットからタバコを取り出して一本くわえた。


「オジキ?おじさん?あの『若いツバメ風駄目人間』が?」


 次から次へと訪れるかなめの隠された過去に誠は驚き続ける。そして、耳には近づく銃撃戦の銃声が響いてくる。 


「残念ながら本当。アタシが生まれたときからアレがちゃぶ台で飯を食ってた。親父の戸籍上の弟だから『叔父貴おじき。血縁的にはお袋の血族らしいから……親戚なんだよ、あの『脳ピンク』とはな」


 タバコにジッポで火をつけるとかなめは誠の目を見てはっきりと言った。


 誠は状況が把握できないで銃を握って震えていた。 


「行くぞ、左腕投手。アタシがけりの付け方を教育してやる」


 そう言うとかなめは銃をもう一度、確実に握りなおした。


『この人は楽しんでる……』 


 相変わらず残忍な笑いを浮かべているかなめを見て誠はそう確信した。


 誠はかなめに視線をやりながらも、下での話し声に耳をすませていた。先ほどからもめている若いチンピラの声に混じって下から駆けつけたらしい低い男の声が聞こえる。


「どうするんですか?西園寺さん。三人はいますよ」 


 誠は銃を拾い上げながら、通路越しにかなめに話しかけた。


 かなめは一瞬下を向いた後、誠に向き直った。


「お前、囮になれ」 


 そう言うとかなめは飛び切り嬉しそうな顔をする。まるで何事も無いようにその言葉は誠の耳に響いた。


「そんなあ……」 


 誠はかなめに渡されたチンピラの銃を手に握って泣きそうな顔でかなめを見つめる。


「あんなチンピラにとっ捕まるようじゃあ、先が知れてらあ。これがアタシ等の日常だ。嫌ならさっさとおっ死んだ方が楽だぜ?」 


 かなめは階下を覗き見てそう言い放った。下のチンピラ達はとりあえず弾を込め直したようですぐにサブマシンガンの掃射が降り注いでくる。


「どうしてもですか?」


 誠の浮かない表情を見てかなめは正面から誠を見つめた。 


「根性見せろよ!男の子だろ?」 


 かなめはそう言うと左手で誠にハンドサインを送る。突入指示だった。


「うわーっ」 


 そう叫んで誠はそのまま踊り場に飛び出すと、拳銃を乱射しながら階段を駆け下りた。


「馬鹿野郎!それじゃあ自殺だ!」 


 かなめは慌ててそう叫ぶと、すぐさま後に続いて立ち上がり、次々と棒立ちの三人の男の額を撃ち抜いた。


「うわあ、ううぇぃ……」 


 三人の死体の間に誠はそのまま力なく崩れ落ちる。


「冗談もわからねえとは……所詮、正規教育の兵隊さんだってことか?ったく。それにしても……下手な射撃だなあ」 


 誠の撃った弾丸が全て天井に当たっているのを確認すると、かなめは静かにタバコの吸い殻を廊下に投げた。

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