出会い……それは『あって欲しくない』出会いだった
第11話 『魔砲少女』年齢28歳(女王様)と『ヤンキー應援團長』26歳(純情硬派)と『美女』年齢不詳(パチンコ依存症)
誠は意識を取り戻した。
畳の上、タオルケット一枚が腹に掛かっている。ここが屯所の隊長室では無いことは分かった。
辞めるつもりの誠はそのまま寝落ちして、今日の悪夢を無かったことにしようとした。
その誠の耳に、高校野球の代表曲の旋律が響いてきた。
それは妙齢の女性ボーカルによって歌唱されていた。そして数十人の拍手と歌声が響き渡っているのが分かった。
誠は顔を上げた。周りを見回すと、それなりに広い宴会場である。
女性ボーカルの歌詞は明らかに『違和感だらけ』だった。替え歌だった。
「……クソ投げ入れて~!奇声発して……」
高らかに歌い上げる美女と思われる上手な『馬鹿歌』に、誠は呆れかえり目を閉じた。
完全に『馬鹿集団』とは絶縁する予定だった。誠は現状を『無かったこと』にするためになんとか『馬鹿の限りを尽くした雑音』を聞かないために耳をふさいだ。
「おい、起きろ」
やさぐれた『美人』を想像させる声が誠の耳に心地よく響く。
同時に、額に金属の感触を感じて誠は『恐怖』で目を開いた。
誠が目にしたのは予想通り『銃口』だった。驚愕の表情でそのまま視線は銃を構えるおかっぱ頭のたれ目の美女と視線を合わせた。
「……あなたは……」
『馬鹿歌ミキシングマシーン』の同類の『馬鹿女』である。たれ目の美女は『サディスティック』な笑みを浮かべる。
「アタシは『西園寺かなめ』階級は大尉だ」
そのまま彼女は左わきのホルスターから拳銃を取り出して誠の額に銃口を向けた。
「アタシは『魔砲少女』28歳でね。アタシの草野球チームは『左のタフな本格派投手』が必要なんだ。額に穴が開くか、アタシんとこに入るか選べ、アタシの魔法の杖、『スプリングフィールドXDM40』は結構威力があるんだわ、試すか?」
目の前の『殺人に罪悪感』を感じないタイプのアジアン美女は冷酷にそう言った。
「……僕……野球は高校時代以来……」
冷や汗を流しながら誠はそう言った。目の前の現実から逃げ出したい。その思いだけが、誠にそう言わせていた。
「軍にいたんだろ?弾に当たるぐらいよくあることだ。銃で額に穴が開くかも知れねえが、死ぬとは限らない」
『魔砲少女』の顔に『女王様』の慈悲に満ちた笑顔が浮かぶ。
誠の『エロ妄想』の根底にある『奴隷根性』が口を理性とは反対の方向に動かす。
「……分かりました。やります」
左ピッチャー経験のあるの元高校球児の肯定の言葉が誠の命を救った。
「殺さないでやったんだ……我ながら、優しいな……アタシ。『悪魔』のようで、『悪魔』じゃないんだ」
黒のタンクトップに黒の皮のホルスターを身に着けた『女死刑執行人』は、満足げな笑みを浮かべて静かに銃をホルスターに収める。誠はかなめの足下に、『縄』と『鞭』と『蝋燭』が並んでいることに気づいたが見ないふりをした。
「いつまで寝てんだ?ボケ。あとで『10円』やるから『2分』で『かつ丼』作れ」
男の声で意味不明な音声が発せられている。誠はその認めがたい事実に気づいて、その『鳴き声』のした方に目を向けた。
「……無理ですよ……」
誠の目の前には若い男がいた。絵にかいたような『好青年』が立っていた。白いTシャツとベージュのズボンが似合っていた。
妙な鳴き声を上げて口にタバコをくゆらせて、手に『マックスコーヒー』のロング缶を持っている以外は特におかしなところは無いように見えた。
「アタシは『生ハムの薄切り』。あとで『500円』やるから、ここで作れ。あれは手間がかかるから、それなりに時間をやる。『10分』で作れ」
かなめまで妙なことを言い始めた。誠は体を起こして両脇に立つ中身が『アレ』な馬鹿を眺めた。
「できませんよ……」
理屈は通じないとはわかっていたが、薄ら笑いを浮かべながら誠はそう言った。
『やれよ!根性見せろよ!やってみねえで結論出すなよ!あきらめるな!』
両脇から男女のステレオで言葉の使い方を間違えた、理解不能な叫び声が誠の耳を直撃した。
さらに両脇の男女の『馬鹿』は金をどちらが払うかで揉めてつかみ合いを始めた。
誠はこの『ド阿呆』集団から逃げ出すべく、自分の置かれた状況を把握しようと周りを見回した。
高校の教室くらいの広さの畳の部屋に誠はいた。
テーブルが乱雑に置かれ、その上には『ザ・沖縄料理』のようなものが並んでいる。ジョッキが無造作に置かれているのが普通の飲み会のようにも感じられた。
二人の『欲の亡者』の争いから逃げようと、誠は這いつくばって一つのテーブルにたどり着いた。
そこにはエメラルドグリーンの髪の美女が静かにウーロン茶を飲んでいた。
彼女はポニーテールの美しい髪をなでた後、真っ直ぐに誠の目を見つめた。
「神前誠少尉候補生だな。我々の『火盗』にようこそ。カウラ・ベルガー大尉だ。クバルカ中佐指揮下の『機動部隊第一小隊』隊長だ。よろしく」
そう言ってカウラは右手を差し出す。
誠は聞き手ではない右手で握手した。どこか人工的な笑みを浮かべたカウラの姿に誠は『常識人』を見つけた。
「……あっ、あのう。僕は……」
カウラの真っ直ぐな瞳に誠は少し照れながら言葉に詰まった。
「貴様は、景品は何を選ぶんだ?」
誠は『景品』と言う言葉の意味がよくわからなかった。軍の特殊用語か隠語だとしても全く誠の記憶にあるものではなかった。
「私は『ライターの石』を選ぶことにしている。『景品交換所』で現金に換える時には便利だからな」
そう言って本心からの笑みを浮かべるカウラだが、誠は『景品交換所』と言う言葉を聞いた瞬間、目の前の『女将校風』の女の趣味が想像出来てきた。
「パチンコの話をしてます?カウラさん」
誠は自分の考えが間違っていてくれることを願いながらそう言った。
「無論、パチンコだ!パチンコ無しの人生などありえん!理解不能だ!」
そう言って『パチンコ依存症』のカウラはウーロン茶を飲む。
誠は思った。『火付盗賊改方』という組織には『馬鹿』しかいないと。
背後に気配を感じてを振り向く。そこには欲の亡者の争いに勝利したかなめの顔があった。
「ここにいるのは、アタシ等の機嫌を取る能力のある『
自分の社会への認識の甘さを痛感したが、それは誤解なんじゃないかと悩みながら誠はかなめの言葉を何とか理解しようとした。
「神前!それが
かなめの後ろから『好漢風』の馬鹿がそう言って腰を折って誠に語り掛けた。社会がそんなに酷いとは誠も知らなかった。そして、そんな社会を作った『地球人』を呪った。
「壊れてるよ……アンタ等」
誠はそう言うのが精いっぱいだった。
「地球じゃそうしてるって聞いたぞ?世の中みんなそうだろ?社会人になるってそうじゃねえのか?俺、純血の遼州人だもん。見た目や言動じゃ、区別できねえもんな。考え方、そっくりじゃん」
そんな訳は無いはずだが、誠は『地球人』を自称する連中に会ったことが無かったので半分信じていた。
「こいつ、『九九』の後半がまだわからねえんだぜ……『技術部部長代理』とか、『整備班長』とか、『東都電大工学部機械工学科卒』とか……ありえねえじゃん。島田正人曹長とか言って……こいつ、実はかなり馬鹿」
どう見てもかなめが自称『ヤンキー王』の島田を指さして笑う。
「俺、硬派だから。東都電気大学はかの『四工大対抗野球』で知られた……」
「あのー知らないです。そんな大学野球リーグ。僕は東都理科大ですけど……」
誠は高校時代野球をやっていたが、電大に野球部があることすら知らなかった。
「……なんだと……俺の支配する『電大應援團』を知らねえってのか!」
『ヤンキー王』はまた意味不明な単語を並べた。
「世間の認知度ゼロだもんな。六大学か東都大学リーグだろ?普通。そんな閉鎖的な試合誰が見んだよ」
かなめはそう言いつつ度の高そうな洋酒をラッパ飲みしていた。
「まあ、『神の野球リーグ』での伝説は後でいいや。俺、ちょっと昔、『やんちゃ』したの。大したことじゃねえんだ。電大應援團の親衛隊朝時代に『警察署』とか言われる建物中で焚火をしててさ。全焼させただけ。他にも色々『やんちゃ』をしたが、その『名誉』を神前。オメエにやる。だから『漢』になれ!神前なら出来る!」
『ヤンキー王』は『やんちゃ』の『罪』をどうやら誠に押し付けるつもりだ。その口から出る言葉の意味は誠も理解できた。
「感謝しろよ。たぶん、二度と『娑婆』には出れられないくらいの『やんちゃ』はしてるんで。俺は自覚ねえけど。結果、そうなったらしいわ」
誠の頭の中に『無期懲役』と言う文字が走馬灯のように走り抜ける。
「俺は純情なのが売りでだから。当然その『罪状』とかには、女関係はねえよ。安心しな!」
島田の安心が誠には全く安心では無いことだけは確かだった。誠は絶句する。
「どうやらマッポが言うには『性犯罪以外はコンプリート済み』だってさ!迷惑な話だぜ。そこんとこ、夜露死苦!」
島田は決め顔でそう言って誠にタバコの煙を吹きかける。
安心して誠は理性を手放した。
そして馬鹿共に口から『もんじゃ焼き』を吐き出す芸を見せてあげた。
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