特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と1984年』 甲武の闇
橋本直
『未知のプリティーで可愛らしい殺戮者との遭遇』 『人類最強』のちっちゃいエースとの遭遇
第1話 隊長の思い そしてそこに配属になる、史上最悪の落ちこぼれ。『配属辞令』
遼州星系『甲武国』陸軍大学校の卒業式は首席卒業者への修了証書の授与が行われていた。
二十歳ぐらいの若者に見える男の『主席卒業者』がそこにいた。
彼、嵯峨惟基少佐はその証書を受け取るとそのまま演壇を、修了者の整列する会場に足を向けた。
嵯峨少佐はそのまま演壇の淵まで歩いていくと、手にした卒業証書を破り捨てた。
笑顔で少佐は会場のどよめく『甲武国』陸軍幹部と陸軍士官学校を優秀な成績で卒業した未来の幹部達を見回した。
「みなさん!戦争したい人!手を挙げて!……」
『甲武国一の奇人』。全員がこの『陸軍大学校主席』の男、『陸軍士官学校』を経ず、陸軍大学校に『中尉』として進学した『天才』を驚きの目で見つめていた。
「上げねえんだ。戦争始めそうなのに……この国。シャイなんだね。アンタ等」
そう言うと嵯峨は胸のポケットから軍用タバコを取り出して使い捨てライターで火をつける。
「じゃあ、心の中で思った人……今すぐ死んで!」
静かにそう言うと嵯峨は腰の日本刀を引き抜いた。
「こいつは『同田貫正国』。アンタ等、地球人が作ったんだと。俺が首をこの刀で斬り落とすから。ちゃんと死んでね。死にたい軍人がみんな死んだら戦争終わるよ。うちは負けるけどね」
沈黙していた議場が次第にざわめきに包まれた。
嵯峨は言葉をつづけた。
「戦争に勝つ方法もある。確実に勝てるよ。それは一つ!周りの奴の後ろに俺が刀抜いて、『督戦隊』とか言って機関銃と俺の部下並べて。生きて帰ったら『殺す!』って言えば、アンタ等は素手でも俺の思う方向に走り出すわけだ。名案だろ?」
まるで嘲笑するような笑みが嵯峨の顔には浮かんでいた。
「それで俺の命令に従わない奴を皆殺しにする、それが武器の正しい使い方と戦争の正しい勝ち方。それ以外はミリオタのお遊び。死んでるのは全部事故死だね。勝てば神、負ければ事故死。わかりやすいね戦争は」
静かにタバコの煙を灰に流し込みながら、嵯峨は口を開く。
「陸軍大学校首席じゃん。軍服を着せるマネキンにも劣るアンタ等みたいな、頭に『糞』が詰まってる奴とは出来が違うんだよ、俺の頭には『脳味噌』がはいってんだ」
そう言って、驚く陸軍大学校の校長の陸軍大臣から辞令を取り上げると嵯峨は手元のマイクを握ってそれを読み上げた。
「へー、『甲武国』陸軍作戦総本部付諜報局長補佐……どうせあれだろ?戦争をしたい政治家連中に暗号文の読み方教える『連絡係』だろ?そんな『廊下トンビ』興味ねえや、やなこった」
嵯峨はそう言うとマイクを捨てて、手にした日本刀を構えて議場をにらみつける。
「だから!アンタ等が死ねば。兵器での戦争はできねーんだ!『全権』督戦隊長以外は全部拒否する!知るか!」
嵯峨惟基少佐は『甲武国』陸軍大学校の卒業式の式場を去った。
陸軍大学校首席卒業者、嵯峨惟基少佐。
彼には追って『陸軍中尉』への降格処分と、『東和共和国付二等武官』への配属変更の通知が出された。
三か月後、『甲武国』は『ゲルパルト第四帝国』と『遼帝国』との同盟を理由に、『遼帝国』が攻撃を始めたものの苦戦していた、遼州星系、第三惑星『遼』の月に奇襲作戦を敢行し、『第二次遼州大戦』が始まった。
嵯峨惟基中尉が東和の武官として『東和共和国』の首都『東都』に赴任した目的は不明。
妊娠中の妻を伴って、開戦の三日後、『中立不干渉』を国是とする『東和共和国』に赴任した嵯峨は開戦の四か月後、大使館に入ったまま消息不明となった。
彼が『甲武国』に帰還したのは終戦から3年後だった。
『テロ』で死亡した、妻の墓の前で呆然と立ち尽くす嵯峨を娘の家の使用人が目撃した。その時から彼の『嵯峨惟基』としての人生は再開した。
嵯峨惟基は娘を連れて『東和共和国』に入国し暮らし始めた。
時は流れた。18年の時が平和な時代が遼州星系を包み始めた時代から物語は始まる。
遼州星系は『アナログ』な世界だった。
そして中でも『東和共和国』は、20世紀末期の日本を思わせる世界だった。
神前誠(しんぜんまこと)少尉候補生は目の前の配属辞令を手にしてブツブツつぶやいていた。
周りに人がいないのを確認するとそれを読み上げる。
「遼州同盟会議・遼州同盟司法・治安局 遼州同盟保安委員会 直属実力行使機動部隊、機動部隊、第一小隊に配属する……ってなんだよ、遼州同盟保安委員会って……司法・治安局って警察じゃん。パイロットいらないと思うんだけど……」
そう言って誠は周りを見る。朝の出勤時間と言うこともあり、通り過ぎる人も少なくはない。それでも誠を気にかけることなく、大柄の誠をかわして自動ドアを出たり入ったりしていた。
誠は再び辞令に目をやった。
「それに実力行使機動部隊……。総本部の人事課まで、出てこいって言われて、来たら、こんなの渡して「はい、地下三階の駐車場入り口で女の人が迎えに来るって……あそこは『特殊な部隊』だって言うから、『「特殊部隊」ですか?』って聞いたら『「特殊部隊」じゃなくて、「特殊な部隊」だよ』って……なんで、「な」が入るんだよ……エロゲか?嫌いじゃないけど、僕はパイロットじゃなくてキャラデザインで呼ばれたのか?あのスダレ禿の眼鏡の大尉……木刀があったら、ぼこぼこにしてやる……」
誠がいるのは地球から一千光年以上離れた植民第24番星系、第三惑星『遼州(りょうしゅう)』。そこに浮かぶ火山列島は『東和共和国』と呼ばれていた。その首都の『東都(とうと)』。その都心にたたずむ赤レンガで知られる建物だった。
目の前には駐車場と言うだけあり、どこを見ても車だらけ。9時の開庁直後とあって、車の出入りが激しく、呆然と立ち尽くす誠の横を人が頻繁に本部建物と駐車場の間を行き来している。
そんな中、神前誠少尉候補生は呆然と一人、利き手の左手に辞令、右手に最低限の荷物を持って立ち尽くしていた。
8月半ば。そもそも大学卒業後、幹部候補教育を経てパイロット養成課程を修了した東和宇宙軍の新人パイロットがこの時期に辞令を持っていることは実は奇妙なことだった。
前年の3月から始まる大卒全入隊者に行われる幹部候補教育は半年である。その後、志望先に振り分けられ、各コースで教育が行われるわけだが、パイロット志望の場合はその期間は一年である。
本来ならばその時点、6月に配属になるのだが、そもそも人手不足のパイロットである。教育課程の半年を過ぎたあたりから、見どころのある候補生は各地方部隊に次々と引き抜かれていく。一人、一人と減ってゆき、課程修了時点では全志望者の半数が引き抜きで消えていく。それが普通なら6月の出来事である。
普通ならそこで配属先が決まる。それ以前に東和軍の人事の都合上、その時点ですでに配属先は決まっているものである。実際、誠の同期も全員が教育課程修了後、各部隊へと散っていった。
しかし、誠だけにはどの部隊からもお呼びがかからなかった。教育課程の修了式で教官から誠が伝えられたのは、「自宅待機』と言う一言であった。
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