【完結】高嶺の花である美少女先輩が狙っているのはイケメンの親友かと思ったらどうやら狙っていたのは俺の事だったらしいです

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第1話「久しぶりに登校したら親友に彼女らしき存在がいるんだけど……」

 ――蝉のうるさい鳴き声が聞こえ始め、俺はもう夏なんだなという事を実感する。

 ついこの間までは桜が咲いていたというのに、本当に時が経つのは早いものだ。

 そして、時と同じくして人間関係が変わるのも早い。


 俺は今、それを目の辺りにしているところだった。


 色々とあって久しぶりに学校に登校した俺は、少し離れたところで女の子と楽しそうに会話をしている親友を目撃する。

 普通なら何気ない日常の一コマかもしれない。

 しかし、相手はこの学校で高嶺の花と噂される春野はるの美琴みこと先輩だった。


 アイドル顔負けの整った顔立ちに加え、大人びた顔付きや左目のすぐ下にある小さな泣きぼくろによって色っぽいと噂高い美少女だ。


 長く綺麗に伸ばされている黒い髪が風によってなびかれると、春野先輩は気持ち良さそうに片目を瞑りながらソッと髪を手で抑えた。

 それだけで、周りからは熱のこもった溜息が漏れる。

 男女問わず、誰もが彼女に目を奪われている事がわかった。


 そんな彼女と正面から相対する俺の親友――夏目なつめ翔太しょうたは、女を虜にする甘いマスクで笑みを浮かべて話しており、春野先輩と親しい関係だという事がありありと伝わってくる。

 そして、絵になる美男美女の二人が仲良く話をしているせいか、あそこの空間だけ俺たちとは別空間のようだった。

 確か翔太と春野先輩は同じ生徒会だったはず。

 だから俺が知らない間に仲良くなり、いつの間にか付き合い始めていたのかもしれない。


 折角久しぶりに翔太に会えたのだから声を掛けようかと思ったけど、さすがに今声を掛けるのは悪そうだね。

 どうせ同じ教室なのだし、挨拶は教室で会ってからすればいいか。


 そう考えた俺は、スッと音を立てずにその場を立ち去った。


「――あっ……お、おはよう、冬月ふゆづき君……」


 教室のドアを開けると、丁度ドアの前で話をしていた女の子三人組と目があった。

 だけど、挨拶をしてくれた三人はみんなぎこちない笑みを浮かべている。

 そして、俺が挨拶を返す前にそそくさと立ち去ってしまった。


 クラス内に視線を彷徨わせてみてもやはり俺のほうを見ている人が多く、目が合うと即座に逸らされてしまっていた。


 まるで腫物を扱うかのような態度に思わず苦笑いが出てくる。

 相変わらず・・・・・、クラスメイトからは避けられているようだ。

 入学した頃から――いや、それよりも昔からこういった扱いは受けていたため、俺ももう慣れてしまった。

 だから俺は気にする事もなく自分の席に着く事にする。


 ほどなくして、廊下のほうが女子の黄色の声で騒がしくなり始めた。

 これが何を指しているのか理解している俺は、視線を教室のドアへと向けてみる。

 そうしていると、数十秒遅れてガラガラと音を立てながら教室のドアが開く。

 そして顔を出したのは、先程まで校門で目立ちに目立っていた親友の翔太だった。


 その後ろには翔太に声を掛けようと待機をしている女の子たちが見える。

 相変わらずのモテ具合に少し嫉妬するけど、まぁ翔太なら仕方ないと納得もしていた。


 人気者である翔太が入ってきた事により、俺が入ってきた時とは打って変わってクラス内から翔太に向けて挨拶が飛び交う。

 翔太はそんなみんなの挨拶に優しい笑顔で挨拶を返しながら、ほどなくして視線を俺の席へと向けてきた。

 そして、俺と目が合うとニコッと微笑む始末。

 相変わらず簡単に人を虜にしそうな笑顔だ。


 そういえば、今朝は春野先輩の姿があったのに翔太を囲む女の子たちの中には先輩の姿がない。

 校門ではたまたま会って話をしていただけだろうか?

 もしくは教室までは付いてこず、校内に入るなり自分の教室に行った可能性もある。

 だからそれはそれで納得がいくのだけど、一つだけそれとは別に違和感があった。


 翔太の性格的に彼女がいるのならいらない心配をかけないよう、付きまとってくる女の子たちにそれとなく付きまとわないように言うはずだ。

 それに、おっかけの女の子たちも春野先輩に気を遣うはずだろう。

 みんな気にした様子がない事から、翔太は春野先輩と付き合っているわけではないのかな?


 ……でも、いい雰囲気だったんだよね……。


 俺はふと疑問に思った事が気になってしまい、考えを巡らせ始めてしまう。

 だけど答えは出ず、本人に聞いたほうが早いと結論に至った。


 そうしていると、翔太が自身を囲っている女の子たちに軽く謝り、落ち着いた仕草で俺の席を目指して歩いてくるのが目に入った。

 翔太が近付いてきた事で俺は右手をあげて笑顔で挨拶をする。


「おはよ、翔太」

「おはよ、優弥ゆうや。元気そうで何よりだね」


 クラスメイトたちからは優男と呼ばれている翔太は、挨拶をすると俺の前の席に鞄を置いて腰を下ろす。

 二年生になって席替えが行われて以来、翔太は俺の前の席だ。

 ちなみに位置的に言うと、俺が窓際の最後列で、翔太がその前になる。

 窓際の最後列になった事や翔太が前の席になった事から、席替えのくじ運は凄くよかったと思う。


「ずっと後ろの席が空いていて寂しかったよ」

「はは、ごめんね。だけど、またちゃんと通うから」

「うん、わかってるよ。あんまり休むと去年みたいに出席日数がやばいからね」

「うぐっ……」


 去年俺は、後一日休めば留年というかなりギリギリの状態だった。

 不幸が重なった――っていうのもあるのだけど、自分の見通しの甘さが招いた結果だ。

 今年はそうならないようにしないと注意しないといけない。


 ……いや、もう一ヶ月以上休んだせいで既にやばいんだけどね。

 まだ七月中旬だっていうのに、俺大丈夫なのかな……。


 この先の事を考えてしまい、ちょっと俺は絶望してしまった。


「まぁ優弥の場合、その辺も計算して休んでいるだろうからあまり心配はしてないけどね。ただ、体調不良はいつ起きるかわからないんだから、あんまりギリギリを攻めるのはやめなよ?」


 俺の心のうちを知ってか知らずか、翔太が優しく言い聞かせるように注意をしてきた。

 他の人の出席日数なんてどうでもいいはずなのに、こういうふうに心配してくれる翔太はやはり優しくていい人なのだろう。

 顔だけでなく性格も優しいからこそ翔太はモテるのだ。


 俺は苦笑いをしながら頷き、なるべく翔太に心配をかけないようにしようと思った。

 それにしても――春野先輩の事は結局どうなのだろうか?


「んっ? どうかした?」


 チラッと顔色を窺うように翔太の顔を見ると、ちょうど目が合ってしまい首を傾げて尋ねられた。

 どうやら俺が何かを聞きたそうにしている事に気付いたらしい。


 察しがいいのにはいつも助けられているけど、正直こういう時は察しがよくなくていいと思う。

 こちら的にも聞いていいかどうか判断に迷ってるのに、こんなふうに聞かれたら誤魔化すか正直に聞くかの二択になってしまうじゃないか。

 そして、翔太相手にあまり誤魔化す事をしたくない俺の場合、もう正直に聞くしかなくなるのだ。


「えっと……翔太ってさ、最近彼女とかできた?」


 さすがに春野先輩の名前を出すのはどうかと思い、少しだけ遠回しに聞いてみる。


 ――と、その時だ。

 クラス全員の意識が俺と翔太に向いたのは。


 どうやらみんな、気になっていたけど気にしないふりをしていただけらしい。

 そんな中俺がその話題を切り出したものだから、全員が耳を澄ませているようだ。


 そして当の本人である翔太はといえば――

「なんの事?」

 ――全く身に覚えがない様子で首を傾げていた。


「あっ、いや、違うならいいんだ。うん、なんでもない」


 さすがにこんな反応を取られれば自分が的外れな事を言っているのがわかる。

 だから慌てで誤魔化すも、翔太は不思議そうに俺の顔を見つめてきた。


「そんなふうに思われる相手なんかいなかったと思うけど?」


 ――そっか、忘れていた。

 翔太は元々こういう女の子の気持ちに鈍い男だった。

 自分に恋愛的な意味で好意を向けられているにもかかわらず、翔太は相手が優しくて親切にしてくれると思ってしまう。

 そのせいで今まで泣かせた女の子も数知れず――つまり、春野先輩の件も同じかもしれない。


 翔太の反応から二人は付き合っていないのだろうけど、春野先輩が翔太に好意を抱いている可能性があるという事だ。

 校門前で見掛けた二人の雰囲気はとてもよかったから余計にそう思う。


 まぁ、さすがに今朝だけの事では断言できないけど。


 ――しかし、この後まるで俺の予想を裏付けるかのようにある出来事が起こる。

 それは、休み時間になる度に春野先輩が翔太の元を訪れるという事だった。

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