電子音

[31,536,000]


「ピッ。」


電子音が鳴った。


[31,535,999]







「ピッ。」


電子音が鳴った。

友達と遊んでいる時だった。

小さな音だったけれども、私だけには大きく聴こえた。

その音を聞いただけで、さっきまでの楽しさが一気に消えた。



「ピッ。」


電子音が鳴った。

テスト勉強をしている時だった。

短い音だったけれども、私の中には長く鳴り響いた。

その音を聞いただけで、さっきまでのやる気が一気に消えた。



「ピッ。」


電子音が鳴った。

家族で団欒だんらんしている時だった。

小さな震動だったけれども、私には殴られたような衝撃が走った。

その音を聞いただけで、さっきまでの賑やかさが一気に鎮まった。



「ピッ。」



「ピッ。」



「ピッ。」


[15,768,000]


毎回同じ時間に、同じように電子音が鳴る。

1週間の周期で、同じように電子音が鳴る。

その小さな音が私をさいなみ、現実を突きつける。


ポケットの中のタイマーは、余命1年を宣告された時から、ずっと時を刻み続けている。

私が呼吸を止めようと心臓は止まらないように、このタイマーを止めたところで時間は止まらない。


「ピッ。」


今週も来週も再来週もその次の週も、忘れずに鳴り続ける。

それがいつしか日常に溶け込むように。

しかし、

そうしているうちに






[00,025,200]


「ピッ。」


その音を最後に、電子音は鳴らなくなった。







[00,000,000]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る