5分読書 ショートショート集

統星のスバル

近未来と現実

いつしかの秋の夕暮れ時。

今日も部活でしごかれて、疲れて家に帰る。

これから10:30まで塾があるが、授業中に寝落ちしないように頑張るのに必死になるだろう。

塾終わってから、家に着くころには11:00を過ぎているので、深夜徘徊で補導対象だ。


「はぁっ。」


口をついてため息が出る。毎度口癖のようにこの諦感ていかんのこもったため息が。


(私って、何の為に生きているんだろう?)


そりゃ、学校は楽しいし、友達だって多くいる。けど、毎日疲れはてて何も考えずにベッドに沈み、眠りの海に溺れていく生活は正しいのだろうか?


人生どのくらい長いのか分からないけど、今の生活は何か間違っている気がする。

「何が?」と具体的に分からないのがモヤモヤとするが、何だか思い描いていた日常と違うような、もっと日常を充実させなきゃといった焦燥感しょうそうかんにかられているような。


「フゥーッ。」


大きく息を吐き出すと、新しい空気が鼻から入って来る。

考えるのが嫌になってふと天を仰ぐ。

特に意味は無いが、空を見上げた。


「き、綺麗。」


考える前に、反射的に嘆息たんそくする。黄昏時の空は夕焼けの橙色を残して、夜になりつつあった。東の方には一番星が輝き、夕焼けとマッチして幻想的な幽玄な情景だった。


(初めて知った。空がこんなにも綺麗だなんて。)


この情景を見た刹那せつな、今までの疲れが吹き飛んだ。まるで心まで洗われたような気分だった。

きっと、この時間は特別なんだ。だから黄昏時たそがれどきなんて名前がついているのだろう。


「あ....。」


あまりにも感動して、頬に一条の涙が伝う。

こんなにも純粋な気持ちで涙を流したのは久しぶりだった。

溢れた涙を拭おうと、目元に手をやろうとすると、何か硬いものに手が当たる。


「ん?」


その瞬間、全てを思い出した。


私は、今、家に居る。もうすぐ塾だ。

そして、目元にはVRゴーグル。

暗い部屋にたたずむ私。

つかの間の現実逃避は、唐突の修了と共にドッと疲れが溜まった。


(あー、何やってんだろ私。)


黄昏時だからこそ、自分に問いたい。

作り物の、VRの映像なんかに感動していた私自身に。


「誰ぞ彼」と。




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黄昏時の意味は、夕焼けで薄暗い中、景色が黄金色に輝く時間帯を示す言葉です。


この黄昏時の語源は


誰ぞ彼(たれぞかれ)

たそがれ

黄昏時


日が暮れて薄暗くなり相手の顔の見分けがつきにくく「あなたは誰ですか?」と問いかける時間帯ということで「たそがれ」になったのだと言われています。

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