06作品目

Rinora

01話.[嫌われるよりかは]

 教室内は凄く盛り上がっている。

 なんで群れるとこうなるのかが分からない。

 あとは毎日毎日、飽きもせずによく盛り上がれるものだと思う。


高子たかこ、なに変な顔をしてるの?」

「変な顔にもなるわ」


 ここまで騒がしくされると特に、たかが校外学習ぐらいではしゃぎやがってとは思わないが。


「僕と一緒の班でいいよね?」

「ああ、それはよろしく頼む」


 他のメンバーと無理やり組まされるぐらいならこいつといた方がいい。

 何気に昔からずっと一緒にいるから問題もない。

 あとはそうだな、こいつが変なのを連れてこなければそれでいいかな。


「あ、千葉さんと清水君もいるから」


 千葉と清水? まあ、派手すぎないし、うるさくないからいいか。

 これで4人だから変なのはいないな、後は適当に合わせればいい。

 というか、入り口で待っているつもりだから合わせる気もないが。


「僕がちゃんと対応するから高子は付いてくるだけでいいよ」

「別にいい、お前らだけで見て回ってくれればな」

「え? そんなのつまらないじゃん」

健太けんたは変な気を使おうとしてないで楽しんでこい」


 気を遣われることが1番嫌だった、気を遣われるぐらいなら悪口を言われていた方がマシだ。


「来年は違うクラスになっちゃうかもしれないじゃん、高子と一緒に楽しみたいよ」

「離れられて清々するだろ? あたし達はずっと同じクラスだったんだからさ。これ以上迷惑をかけなくて済むのならそれがいい」


 そうか、もう入学してから1ヶ月が経過しようとしているのか。

 その間にできたことと言えば、毎日登校して、授業を受け、下校したことだけ、所謂一般的な学生らしいと言えばらしいが。


「みんなすっごく盛り上がってるねー」

「あ、千葉さん」

「誘ってくれてありがとっ、ひとりだったからありがたかったよ!」

「どういたしまして。入ってくれてありがとう」


 らしいな、ひとりでいるやつを放っておけないあたりが。

 まあ、慣れれば友達もできて千葉みたいなやつがひとりでいるようなことはなくなると思う。


「や、やったぜっ、俺はずっと千葉と仲良くしたかったんだ!」

「そ、そうなんだ、それなら仲良くしよっか!」

「ああ! だがっ、それをするためには倉原の存在が邪魔になる!」

「ははは……言われちゃったよ」


 ここで怒れないから損するんだ、優しくすれば相手も優しくしてくれるというわけじゃないんだぞ。

 

「というわけで倉原は大桐と一緒に見て回ってくれっ」

「僕はそれでもいいよ? 高子とだけでも楽しそうだし」


 おいおい、だからあたしは入り口で休憩しておくんだって。

 あたし達が出かけることぐらい初めてではないんだからもう少し落ち着いた方がいい、なんなら一緒に旅行にだって行ったことがあるぐらいなんだし。


「私は倉原くんとも楽しみたいんだけど」

「ふむ、それならしょうがないな」

「うん、みんなで仲良くしようよ、いいきっかけになると思うんだ」


 こういう明るい系が言うみんなで仲良くが胡散臭いのは何故だ。

 あと、当たり前のようにあたしは含まれていなさそう。

 まあそれでもいいな、いや、寧ろその方がいいな。

 健太ぐらいのレベルじゃないとあたしには付いてこられないだろうし。


「大桐さんもよろしくねっ」

「お、おう……」

「やっぱりそういう喋り方をしているんだね」


 絶望的なまでに普通の女らしい話し方が似合わなかったからしょうがない、寧ろ周りのことを考えてこうしてやっているまである。


「はははっ、大桐にはお似合いだなっ」

「そうか、それなら良かった」

「ああ、倉原より格好良くていいぞ」

「健太には負けねえよ、あたしが守る側だからな」


 小さいし、困っているやつを見かけたら放っておけない奴だからそういうトラブルにもよく巻き込まれるのだ。で、普段迷惑をかけている分、そういうときはあたしの出番というわけ。


「高子さん、平気で嘘をつかれると困るんですが」

「え? 嘘はついてないだろ?」


 わざわざ廊下に連れ出して言うことかよ。

 昔は本当に可愛かった、何回も泣かされてこっちに助けを求めてきたからな、抱きしめてきたことなんかもあったか。

 それがいまは謎のプライドと自信から素直じゃない。


「流石にもう僕が守る側だから」

「あたしはいいから千葉でも守ってやれ」

「あ、うん、なにかありそうならそうするつもりだけど」


 それでもそろそろ解放してやらなければならない。

 口で言っても聞かないから、そういう大切な存在を他所で作ってもらうのが1番だ。相手は千葉だけではないが、他と仲良くしてほしかった。

 しゃあない、そのためになら他の班に入るとするか。

 先に言うと絶対に文句を言われるから探してからにする。


「今田、あんた誰と組んだ?」

「私? 誰とも組んでないわ」

「え……あ、じゃああたしと組まないか?」

「倉原くん達と組んだんじゃないの?」

「大丈夫だ、一緒に見て回ろうぜ」


 よっしゃきたこれ、今田は口数が少ないからいい相手だ。

 一応まだ誰とも組んでないやつを集めてからにした結果、ちょうど新しい班が作れる人数だった。


「いいか? あたし達はただ同じ班なだけ、当日は自由行動でいい」

「分かったわ」

「わ、分かりました」

「りょ、了解」


 よし、後は意外と頑固な健太を説得するだけ。


「は? やっぱり抜ける?」

「ああ、千葉や清水と上手くやっていける自信がなくてな」


 誰かに使われるのもごめんだった、それにどこに入っていようが結局変わらないのだからどこでもいい。


「あたしのことは気にせずに楽しんでくれ」

「まあ、もう班を組んじゃったんでしょ? それならしょうがないね」


 意外とこういうときにごねたりしないのがいいところか。

 あとは当日に適当に過ごせばまた普通の学校生活に戻れる。

 そうしたら健太以外でまともに話せるやつを見つけないとな。

 今田がそのまま友達みたいな存在になってくれるのが1番か。

 なんだかんだ言っても一匹狼でいつまでもいられるわけじゃない。


「それでも残念だよ」

「そもそもあたしは入り口で休憩ウーマンだからな」

「はぁ、高子らしいって感じもするけどね」


 行った後は自由行動だからなにかを言われる謂れはない。

 教師だって少しだけ注意みたいのをするのが精一杯だ。

 校外学習なんて格好つけているだけで遠足みたいなもんだしな。




 校外学習当日。

 あたしは決めた通り入り口のところに設置してある椅子に座っていた。


「雨ね」

「だな」


 残念ながら雨ではあるが、パラソルがあるから問題はない。

 あと、今田が付き合ってくれるみたいなので退屈はしなくて済む。


「できればバスで休んでいたいわよね」

「流石にそれはないな」

「そう? 静かな車内とかよく寝られそうじゃない」


 自分が言うのもなんだが、今田は周りとあんまり合わなさそうだ。

 協調性がないというわけではなさそうだが、あたしは今田が他の人間と仲良さそうにしているところを見たことがない。単純にまだ1か月しか経過していないからそうなのか、そもそも今田美吹みぶきという人間はこうなのか。


「高子、手を出して?」

「ん? おう――って、なんだこれは?」

「私の連絡先を書いてあるわ、登録しておいて」

「分かった、ありがとな」


 いや、ひとりでいるタイプではないな。

 基本的に誰かと一緒にいてからかうような態度を取る女ってポジションかもしれない。健太と相性が良さそう、あいつならいつまでも付き合ってくれるから。


「なんか眠たくなってくるなあ……」

「寝てもいいわよ? 私が見ていてあげるわ」

「いや、流石にそんなことはできねえよ、逆に今田が寝ればいい」

「そう? それならそうさせてもらおうかしら」


 ちゅ、躊躇ねえ……もう寝息を立てているぞ。

 まあいいや、見ておくというやることができたからそれで。

 こうして誘えば付き合ってくれるあたり、やっぱり人のことが嫌いというわけではないんだろうな。急に名前で呼んできたり連絡先を渡してきたり、そういうところもこの判断に拍車をかけている。


「いたっ」

「健太? どうしたそんな急いで」

「ち、千葉さんと清水君が喧嘩しちゃってさっ、一緒に来てくれないかなって……」

「あー、今田が寝ちゃったんだよな」


 行ってやりたいが放置するわけにもいかない。

 そうしたら健太が残る代わりに行ってきてと言われてしまった、仕方がなく急いでいたら幸いふたりはすぐに見つけられたが……。


「千葉、どうしたんだ?」

「清水くんなんて嫌いっ」


 これはあれか、健太と仲良くしようとした千葉を清水が邪魔をしたんだ。

 そうでもなければここまで怒ったりはしないだろう、基本的に笑みを浮かべて受け答えするようなやつなんだからさ。


「とりあえず千葉、入り口のところに健太と今田がいるから行っておいてくれないか?」

「うん……ごめんね、私達のせいで」

「気にしなくていい、無理して合わせると楽しめなくなるからな」


 さて、残るは清水だな。


「清水、お前千葉になにしたんだ?」

「……俺はただ千葉と仲良くしたかっただけなんだ、なのに千葉が倉原とばっかりいるからむかついて倉原に文句を言ったら……」


 いまに繋がったというわけか。

 そりゃ、千葉の目当ては健太だったんだからそいつを悪く言ったら怒られるだろうに。そもそも女にがっついてしまっているところも良くない、下心があるのだとしてもある程度は隠さなければならないんだ。

 例えばあたしと健太ぐらい関係が長ければ相手に理解してもらえているからいいだろうが、出会ったばっかりでするにはリスクが大きすぎる。下手をすれば3年間そのまま、なんて可能性も0ではない。

 ただまあ、千葉の気持ちを考えなければ真っ直ぐにぶつかれる強さをこいつは持っているわけだ。そこらへんはなよなよしている奴よりはマシな気がする、褒められることばかりでもないけどな。


「清水、もう少し上手くやれよ」

「そうだな、大桐の言う通りだ……俺は流石に下手くそすぎた」

「とりあえず、健太の悪口を言うのはやめろ、千葉の心象に良くない」


 単純にあいつが悪く言われているところを見たくない。

 あいつはいい奴だ、ずっと呆れずに一緒にいてくれるぐらいにはな。

 一緒に過ごしていればいかにいい奴かが分かる、その価値はある。


「悪い……俺のせいで濡らしてしまったな」

「そんなの気にしなくていい、ただ、変に拗れないように早く謝った方がいいぞ。千葉達は入り口のところにいるから行ったらどうだ?」

「それなら大桐も来てくれ」

「元々そのつもりだ」


 今田があたしのメンバーなんだからしっかり見ておかないと。

 マイペースに寝ている彼女の隣に座って、向こうのパラソル下で話し合いをしている3人を見ていた。


「ん……あら、戻ってきたのね」

「悪い、ちょっとな」

「ふふ、気にしなくていいわ、あなたはまた戻ってきてくれたんだもの」


 なんか怖えな、こういう人間をミステリアスって言うのかも。


「ごめんね大桐さん」

「仲直りできたのか?」

「うん、少なくとも今回は3人で見て回ろうって」

「そうか、それならあんまり濡れないように素早く移動しろよ?」

「うん、ありがとう」


 きゃーきゃー言いながらも雨の中移動してまで魚達を見に行こうとする若い精神が素晴らしい、あたしなんかそうでなくてもここに張り付いていたいというのに。


「寒くないか? 寒いなら上着貸してやるが」

「大丈夫よ、あなたは自分の心配をしなさい」

「あーまあ風邪を引いても明日は休みだからな」


 適当にタオルで拭いておけば十分だ。

 ところで、あたし達の班の残りふたりは楽しめているんだろうか?

 それともあたし達とは別の場所で似たようなやり過ごしをしているだけなんだろうか、少しでも自分らしく楽しんでくれればいいんだがな。


「それより高子、あなたよく私に話しかけてきたわね」

「教室内をよく観察していたからな、その中で今田は良かったんだ」

「なるほど、あんまり騒がしくしないからでしょう?」

「そうだ、あんまりに班のバランスが悪いと疲れるからな」


 無理やり一緒に見て回ろうだなんて誘われたくないから。

 あくまで想像に違いなかったものの、彼女ならそうしないと思った。


「今田は他人といるのが嫌なのか?」

「え? そんなことないわよ、もしかしてひとりでいたからそのように思われていたのかしら……」


 凄く残念そうな表情を浮かべて「それは残念ね……」と彼女は呟いた。


「積極的に友達を作りたいのよ。ただ、実際に動こうとすると自分のしていることはエゴなんじゃないかって不安になって、あの日も嫌だったわけではないのよ? 残念だったのは誰も誘ってきてくれなかったことね」

「それならあたしが誘ったのは悪くなかったんだな」

「当たり前よ! あなたが天使に見えたわ!」


 お、大袈裟すぎる、あたしが天使だったらモテモテだよいま頃はさ。


「ありがとう、私は救われたわ」

「そうか、なら救えて良かった」

「でもあなた、髪の毛をもう少し綺麗にしなさい」

「毎日あ、洗っているからな!?」

「そうではなくて、そんな適当に縛るんじゃなくて……こうよ」


 分からねえけど、多分ポニーテールになっているんじゃないかと思う、上の方が重いからそれぐらいしか思い浮かばない。


「お団子ヘアなんかもいいかしらね」

「適当に遊んでくれ」


 健太以外の人間とこうして友達みたいなことをできているのが素直に嬉しいと言える。というか、たまにこちらを覗き込んでくるから分かったことだが、こいつまつげ長え……女子力特化だな。


「とても可愛いわ」

「よせよせ、可愛いなんて言われることはないぞ」

「大丈夫よ、自信を持ちなさい」

「女子力は高そうな今田に言われるとなんか自信が出るよ」


 後は3時間ぐらいか、中々に長いな。

 雨でもなければ今田と歩いても良かったんだが、生憎と天候は雨だ。

 ならあたしにできることはお喋りしながらここでゆっくりすること、もう喧嘩とかもないだろうからゆったりしていればいい。


「ありがとな、あたしに付き合ってくれて」

「それはこっちのセリフよ、ありがとう」

「それならこれから友達として頼むわ」

「いいの? ありがたいわ、あなたの友達になりたかったの」

「なんでだ?」


 が、今田が答えることはなかった。

 それでも不安になる必要はない、健太以外で初めて相性が良さそうな人間との出会いだったから。

 長いと考えた自分だったが、その後も話したりぼうっとしていたりしている内にあっという間に時間が経過した。

 終われば後はバスに戻って帰るだけだ、送り迎えつきとなるとまるで自分がいいところに住んでいるような人間のような気持ちになる。


「横いい?」

「千葉? 今田は?」

「今田さんに言って交代してもらったの」

「それなら座れよ」


 正直に言って今田以上によく分からない女だから難しい。

 これぐらい明るい人間は基本的に複数の同性グループを築き上げるものだという偏見があるから、不思議で仕方がなかった。

 人見知りということも考えたがいきなり健太にぐいぐいいっていた、またコミュ障というわけでもないんだろう。


「なあ、千葉はどうしていつもひとりでいるんだ?」

「好きでひとりでいるわけじゃないんだよ? 私はただ、その人のことがよく分かってからじゃないと怖くて近づけないってだけで」

「なるほどな、健太は良かったってことか」

「うんっ、あんなにいい子って他にあんまりいないよ!」 


 もしかしたら千葉が案外、健太のそういう存在になってくれたりするかもしれない。そうすれば千葉のことを健太が大切にするだろうから悪くないな、あたしはただの友達ぐらいの立場に戻れる。


「健太はいい奴だからな、気に入ってもおかしくないな」

「どうすればあんなにいい人になれるんだろうね」


 それはあたしも聞いてみたい。

 だが、いい人であることがいいことばかりでもないと。

 だからまだまだ見ておかなければならない、少なくともそういう対象ができるまでは勝手にやらせてもらうことにする。

 いつまで経ってもあたしの方が守る側なんだ、守られる側になることは絶対にないと自信を持って言えた。


「はぁ、だけど清水くんのことがなぁ……」

「許してやってくれ」

「でもさ、他の子を落とそうとするのは良くないと思うの」


 確かに、そんなことをしても自分の醜さを露呈させるだけだ。

 相手がほとんど関わったことのないのにいい人と言われてしまうような人間であれば尚更のこと、振り向かせようとした行為が逆効果になりかねない。

 問題なのはここで、そんなことをしたら駄目だとは分かっているはずなのにしてしまうことだ。どうしようもない、なにをどうしても自分の評価が上がりそうにないならって焦って考えてしまう。言ってしまえば早いもの勝ちだからというのもあるんだろうな。


「それは千葉の言う通りだ、他人の悪口を言って自分を良く見せようとするのは駄目だ、清水は焦りすぎたな」

「仲良くしたいって言ってくれるのは嬉しいんだけどね」


 あたしでもそうだ、嫌われるよりかはその方がいい。

 でも、やっぱりその対象の気持ちを考えようとしなければ駄目だ。

 もちろん考えても他人だから分かりはしないだろうが、考えることをやめようとしてはならない。思考停止で誰かと仲良くするなんてできないのだから。


「ま、これから次第だな。無理そうなら無理だとはっきり言わないと駄目だぞ? でも、逆に仲良くしてもいいって考えられるなら、一緒にいてみるのも悪くないかもな――って、当たり前のことすぎるな、悪い」


 今日のあたしは喋りすぎた、しかも偉そうだった。

 こういう相談みたいなことをされると偉ぶってぺらぺら喋ってしまうところはそろそろ直したいと考えている。裏とかで「○○のくせに偉そうに言いやがって」とか言われてそうだし。

 基本的に諭す側だったからというのもあるのかもしれない。

 なんか気まずくなって窓際なのをいいことに外に視線を注いでいた。

 千葉はそれきり話しかけてこなかったから気にならなかった。

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