実態調査報告書ファイル№357

日々菜 夕

第1話プロローグ 【新天地は大草原だった】

 ここは本当に俺の生きてきた国なのだろうか?

 普通さ、駅前って言ったらコンビニやらタクシーってのはデフォルトだろ?

 なんでなんにも無いんだよ!

 そもそもここが本当に駅なのかすら怪しい。

 だってさ、駅って建物も含めてのものだよな?

 それとも、こんな草ぼうぼうの土台みたいなものまで駅って言うカテゴリーに入っちまうんか?

 おまけにスマホは圏外。GPS機能が生きててくれてるのが幸いっちゃ幸いだが目的地は迷いようがない。

 爺ちゃんが迎えに来てくれるってことになってるからだ。

 額に浮かび始めた汗は、暑さだろうか冷や汗だろうか?

 電車が走り去った後には、会話出来る人はだれも居ない。まるで無人島にでも迷い込んだ気分だった。


『あのねぇ、菜々瑠! どうせスマホなんて持ってってもほとんど使えないんだから、いいかげん諦めなさい!』

『ちっ! うっせーな! ババー! てめえらの勝手でこちとら迷惑こうむってるんだよっ! んぐれー好きにさせろやっ!』


 何度となく言い合いした過去は記憶に新しい。

 見渡せば、視界一面に広がった元田園風景は、すっかり他の植物に立場を譲っている。

 どう考えても親の言っていた事が正しかったと思うしかない状況である。

 半ば現実逃避を兼ねて遠方を眺めていた視線を自分の回りに向ければ……ここが以前駅だった事を理解すべき残骸は少なからず残っていた。

 朽ち果てた建物だったと思われるそれらは腐食し。植物の糧となり果てている。

 俺の知ってる駅は、冷暖房完備は当然のこと。自動販売機が備えられているのも普通だと思っていた。

 無人駅だとは聞いていたが。それは駅員が居ないだけで、キヨスクくらいは在るものだと信じて疑ってすらいなかった。

 ほとほと自分の置かれた状況ってものにうんざりだった。

 そしてなによりも、自分が目指してきた田中駅と読めなくもない看板が憎かった。

 長い時間を掛けて雨風と戦ってきたであろうそれは支柱がポッキリと折れ。降参とばかりに天をあおいでいる。

 普通なら無人駅といってもそれなりに手入れはされるのだが。この駅に関しては別扱いらしい。


 政府の減反政策が背中を押すようにして村人は減少し始めてから数十年――。 


 今では爺ちゃんとばあちゃんだけがこの地で人生を全うしようと住んでいるだけである。

 そんな場所にきちんとした駅なんて不要であり。

 そもそも乗客から願い入れなければ止まることのない場所だってのも嘘じゃなかったんだろうな。

 別の需要があるからこそ、この駅は一切の手入れがされずに存続してるって話だった。

 廃駅ツアーなるものが毎年何度か企画され。その度にそこそこ客がココを訪れるみたいなのだ。

 彼らは、綺麗に手入れされた駅なんて求めてはいないらしく。朽ちるまま、在るがままの姿を写真に納める事に情熱を燃やしているのだという。

 俺には、さっぱり理解できない趣味だ。

 しかしながら、その思いに応えようとした結果がコレであり。そんな場所だとは知らず普通に降りたバカが一人居ただけの事。

 これからは、もう少し人の言うことは聞くようにしよう。

 全くと言っていいほど車の走らなくなった道路は当然放置されたままであり。 

 物好きで補修してくれる金持ちも居なければ、植物がアスファルトを食い破り始めても止める者は誰も居らず。 

 今では、過去には道路だったのだろうと言った具合である。

 夏本番の日差しは殺人光線に匹敵する勢いで俺の全身を焦がそうと全力を注いでやがる。


「ちっくしょう!」


 なんなんだよこの草は!

 そりゃあ他人から見たら大草原な事態だけど!

 リアルに草はやしてどうすんだよ!

 しかも俺の背丈よりも高けーし!

 それは、これからの人生を通せんぼしてるみたいでもあり……

 まるで前途多難だと言っているみたいだった。


次回【勇者?】に続く

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