mc2020.12.11 大雪の日、喋るウサギさんと


 早朝。あまりの寒さで目が覚めたので、カーテンを開くと、そこは一面厚い雪に覆われた銀世界だった。

 もう十二月も半ばに差し掛かっているし、そろそろかなーとは思っていたけど……いきなりだねえ。


 お店の開店時間は少し遅めにして、ストーブでしっかり店内が暖まった十時過ぎ。

 コーヒーを飲みながら雑誌を読んでいると、ドアを小さくノックする音が聴こえた。


 経営者として言えた台詞じゃないけど、こんな雪の日にお客さんが来るとは。

 ゆるりとドアに近づいて開いてみると、そこには自分の足元程度の大きさの真っ白なウサギさんが両脚を揃えてお座りになっていた。


 えっ。

 ウサギ?

  

 最初は、たまたまウサギがドアを突いたのかな……なんて思ったんだけど。

 ウサギが「こんにちわ」と流暢に喋ったことには驚いた。 獣色が濃い魔族の方々は珍しくないとはいえ、動物がそのまんま知性を持っているのは初めて見たし。

 とりあえず店内に案内すると、彼はストーブの前に飛ぶように移動して、その場で屈み、暖を取り始めた。なんだか絵本のワンシーンのような、何ともファンタスティックな光景だなーと笑ってしまった。


 その後、ウサギは暖まりながら辺りを見回して、そのうち棚の下段にあった毛糸の玉を見つけると、つぶらな黒い瞳をキラキラ輝かせた。そういやウサギって丸いモノとか、かじるものって好きなんだっけ?


 右前脚を立てて「あれはなんですか」と訊いてきて、毛糸であることをお伝えしたんだけど、ウサギが顔を伸ばして必死に棚を覗こうとするもんだから、失礼しますと断って両手で抱っこ。彼の目の前に毛糸のボールを見せてあげると、それはまあ……体を震わせて興奮したように、これほど欲しがっているのが分かり易いのも無かったよね。


 一応購入するか尋ねると、彼はお金が無いとガックリと肩を落とされた。

 ……そう悲しい顔をされると、なんだか俺まで悲しくなる。

 だって、お客さんがウサギだしモフモフだし可愛いんだもの。

 卑怯だってば、そういうの。


 さすがに商品を無料で渡すのはアレだったから、代わりに俺が個人用で普段使ってた毛糸の余りを持ってきて、結んで繋げてボール状にして渡してあげた。

 小さい布で包み、彼の首元に巻き付けて落とさないようにしたんだけど、布包みを背負った姿はもう愛らしいの一言だったわ。

 ウサギは飛び跳ねて嬉しそうにお店から出て行ったんだけど、ベーさんと時と一緒で儲けが無かったところか無料提供でマイナスですよ。


 俺ってお人よし過ぎるのかな。


 でも、まあいいや。ウチの店に来たお客さんが笑顔で帰られたのなら、それでヨシ!!

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