第4話 漫画に全てを教わった!

 むか~しむかし。

 北海道のある街に。


 じふちゃんという名の、少女が住んでおりました。


 じふちゃんはね、ちょっぴり変わった女の子。


 ある日ね、近所のおばさんがじふちゃんのおかあさんを呼び止めて、こう言ったんですって。


「おたくのじふちゃん、なにか悩み事でもあるの?」


「ええっ? いえ、そんな様子はありませんでしたけど~! あらあら、うちの子、どうしちゃったのかしら~?!! 」


 じふちゃんのおかあさんは、すっごく驚きました。


 近所のおばさんは、しんせつに教えてくれました。


「じふちゃんね、誰もいない公園のブランコに揺られて、空を見ながら、1時間以上も、……ぼ~っとしていたのよお~! 」


 近所のおばさんはそんなじふちゃんを見て、とってもな悩みがあってそうしているのではないかと、すご~く心配してくれたんだそうです。


 おばさん、優しいですねぇ~。


 それを聞いたおかあさんも心配になり、じふちゃんにこう尋ねました。


「どうしてブランコに乗って1時間も、ぼ~っとしていたの? じふちゃん」


「……」


「なにか悩んでるの? おばさん、心配してたわよ」


 じふちゃんは、首を横に振りました。


「じふちゃん、悩みなんてぜ~んぜん、ないよぉ」


「は?」


 じふちゃんはおかあさんに、こう答えました。


「漫画のお話を、考えていたんだよ」


「……は??」


 じふちゃんはブランコに揺られながら楽しく、物語の内容を考えていただけだったんですって!


 人騒がせですね~。


「……そ、そうだったの? な、なら良かったわ。は、ははは~」


 おかあさんは、あきれたようなホッとしたような声で、笑いました。


 そして、


「……恐ろしい子!!! 」


 ……ではなくてですね、


「我が娘ながら変な子!!! 」

 

 という感じのビミョ~な笑顔を、じふちゃんに見せてくれました~。


 ちゃん、ちゃん。


 あ、スイマセン。


 じふちゃんは、私です。

 フツーに話します、ハイ。


 9歳から19歳まで、漫画家を目指していました。


 目指していたといっても、『漫画家になった自分』をひたすら夢想していただけです。


 メチャクチャ楽しんで描いてはいたんですよね。漫画が大好きだったから。


 キリが無いのであまり買ってもらえませんでしたが、当時の人気漫画雑誌を買っては友達何人かと、楽しく回し読みしたりしていました。


 ドラえもんが一番大好きでしたから『コロコロコミック』に始まり、少女雑誌や少年雑誌、面白そうな漫画なら何でも読んだ少女時代でした。


 すごいですよね、漫画家さんって。


 ストーリーだけじゃなくて、絵まで描けちゃう!


 自分もこんな風な面白い漫画を描いて、○○先生って呼ばれてみたいー!!


 とまあ、こういう不純な動機で、夢中になって描いていました。


 ある少女漫画雑誌のふろくに『○○先生の、漫画の描き方』というのがついていて、それを見ながら必死に練習したのを覚えています。


 でも結局のところ全部、自己流。

 ひとりよがりでした。


 今ならそれがわかります。


 どんなに描いても『そこそこ』にしか上手になれなかった理由は何故か。


 『本当の漫画家』になりたくても、なれなかったのは何故か。


 根本的な(自分に足りない)技術力をUPするための研究や勉強、行動や段取りが決定的に足りないまま、ただ楽しく好きなように描くだけだったからです。


 雑誌に投稿できたのは一作品だけ。

 あとは完結しませんでした。


 なにしろ「あ~でもない、こ~でもない」を繰り返す人間です。


 ストーリーはおろか絵の方もコロコロ変わり、夢想家じふちゃんは迷走を繰り広げるばかり。


 そんな風に夢中で描いているうちに、自分と同じように絵や漫画を描く友達と、大変親しくなりました。


 絵そのものがとても上手な友達、コマ回しが上手な友達、動きをダイナミックに魅せるのが上手な友達、背景などの描写が上手な友達……たくさん出会いました。


 どうしてあの時の自分は、ベテラン漫画家さんの模倣をしたりとか、アシスタントへの道のりを真剣に考えたりとか、上手な友達の誰かをリスペクトしようという考えに、及ばなかったのでしょう。


 ただ楽しく描きたかったからに他なりません。


 本物の漫画家を目指していたのではなく、『漫画家を目指す自分』に酔っていただけだったんです。


 そのくせ自分よりはるかに絵が上手な友達に、強烈な嫉妬心を覚えたりもしました。


 ○○ちゃんも〇△ちゃんも絵が上手だけど、自分には『無敵の想像力』がある。


 自分の漫画が『一番面白い』はず!


 自分にしか思いつかない物語を、一生懸命描いているんだから!


 ……そんな感じでした。


 自己過信です。


 う~ん、切ないね。


 自分の幼少期、それは。


 自己客観視ができない、誇大妄想少女。ただの『夢想家』だったんです。

 

 そんな『妄想お花畑』状態で、10年間フワフワしていました。


 しかしついに、ある結論に達しました。


『どうも自分の絵はコロコロ変わるし、不器用過ぎるし背景が全く上手に描けない。だから絵を描くのを、完全にやめてしまおう!』


 ちょっぴり自己客観視ができた19歳で、やっと絵を断念。


 当時は、苦しかったですね。


 それから全然、絵を描かなくなっちゃいました。


 あんなに好きだったのに。

 

 描きすぎて飽きたのかな?

 それもあるかも知れません。


 絵を諦めたことを思い出すのが、今でも苦しいからなのかも知れませんね。


 でもね。

 財産はたっぷりと残りました。

 ただの夢想だったとしても。


 物語を作る楽しさや、何かに夢中になれる面白さだけは、自分の中に固く根付いたんです。


 全てを教えてくれた『漫画』。

 出会えた事に、心から感謝!


 今でも大好きですよー!


 少年漫画も少女漫画も!!

 そのほか様々な漫画も!!


 ……そんなわけで。


 頭の中はいつだって、大好きな『物語』で、ぐるぐるしております。


 妄想少女じふちゃんは、妄想爆発乙女になり、妄想おばちゃんWEB小説家になりましたとさ。



 ちゃんちゃん。



 

 

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