乙女の妄想は時空を超えて

霜月 龍

第1話 お兄ちゃんを追いかけて

「それじゃあ 行ってくるよ。 爺ちゃん フィーネ。」


 バルオキーから始まるいつもの朝。


「うん。 行ってらっしゃい お兄ちゃん。」

「気を付けて行ってくるんじゃぞ。」


 ここからいつもの冒険が始まると思いきや、今日は違う。

 アルドが玄関から出ていくのをいつものように見送りながら、いつもとは違って首を傾げながらフィーネは思案する。


(……お兄ちゃんって 家では 頼りになるし 優しいし たまにお寝坊さんなところはあるけど…… 旅をしてる間のお兄ちゃんのことは あんまり知らないかも? エイミさんや リィカさん サイラスさんみたいに いろんな時代に仲間がいるけど 特別な関係の人がいたりして……)


 時の暗闇でクロノスメナスを打倒し、アルドは超時空猫キロスとしてフィーネはセシルとしてエデンとの再会を果たした。けれどその再会の喜びも束の間、エデンは空に溶けていくように消えてしまった。その後、消えたエデンと再び相見えるために、復活させる術を探しアルドは仲間たちとあてどない旅を続けていた。

 手掛かりらしい手掛かりもないまま幾日かが経過し、たまには休息も必要だろうと仲間たちと一旦別れてバルオキーに戻ったアルドだったが、どこか落ち着かない様子で一夜を過ごすと、行き先も告げずに飛び出していった。

 

(実は 今日も内緒で 誰かとデートだったりして……)


 多感な妹してはそう勘繰りたくもなってしまう。


(例えば 旅の途中に颯爽と女の人を助けて恋が芽生えたり…… 背中預ける戦友に意外な女性らしい一面を見て惹かれたり…… 公にできない事情を抱えた女性と人目を憚りながらの逢瀬を繰り返したり……)


 そこまで考えてフィーネは頭を横に振る。


「この間 読んだ 恋愛小説のせいかなぁ。」


 ぼやくような言葉を零しつつも、やはりアルドに特別な相手がいるのか気になるフィーネ。


「決めた!」


 フィーネは近くに村長がいることも気にせず声を上げた。


「お兄ちゃんのあとを コッソリ追いかけよう。」

(東の方に走っていくのが見えたから とりあえずリンデまで行ってみようかな。)


 コッソリというには村長の耳にしっかりと届くボリュームだが、村長もそれを指摘したりはしない。


「これは将来 お義姉ちゃんになるかもしれない人を見定めるための 家族として 妹として当然の行動だもん。 とっても大切なこと! 全然 野次馬したい気持ちなんかないんだから!」


 自分を言い包めるようにフィーネは意志を固め、元気よく家を飛び出し、アルドの向かったであろうリンデ方面へと足を進めた。


「ほっほっ…… フィーネも元気じゃのう。」


 ひとり家に残された村長は、嬉しそうに口髭を揺らしながら子たちの背をいつものように見送った。

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