第1話「A」悪夢と炎

 俺は…ヒーローになりたかった。

 悪人から市民を守るヒーローに、

 その為に警官になった。



 あの"事件"が起こるまでは…



 満月が綺麗に輝いている夜にその姿は写った。

 大量の死体を周りに作り上げまるで映画のワンシーンのように異形の人物人の形をしたバケモノが佇んでいる。

「動くな!!手を上げろ。」

 俺はホルスターから拳銃を抜き、目の前の人物に向かって構えた。

 すると、拳銃を向けられた人物は俺に向かって笑顔で話しかける。

「やぁ、良い夜だね。」


 その後、気を失い目を覚ますと病院にいた。

 同僚に話を聞くと俺は腹部の衣服が破れて、血塗れで横たわっていたらしい。

 だが、体には傷一つ無かった。

 この事は連続殺人事件として捜査が開始されようとしたのだが突如、上司から捜査中止の命令が出た。

 理由を何度も問い詰めたが上層部での決定の一点張りで取り合ってすらくれなかった。


 あの事件の後から俺の価値観が変わった。

 巷で都市伝説のように噂されているオーヴァードの存在を、

 オーヴァードとは特殊な能力に目覚めた人間のことで噂では火を操ったり怪物に変異したりするらしい。

 最初の頃は全く信用してなかったが今は違う。

 あの時の事件の現場は異常だった。

 沢山の人間が殺されていた…その全てが胴体を真っ二つに切断されていたりパーツが判別できないほどズタズタに切り裂かれていた。

 普通の人間の力ではそんな事出来ない。

 犯人はオーヴァードだ。

 そして、己の無力さをひしひしと感じた。

 悪人から市民を守るために警察官になったのに…守るどころか全員殺されて自分だけ生き残った。

「俺は何のために…」


「黒観!」

 突如呼ばれた俺は声の方に顔を向けた。

「黒観ハヤタ巡査、先ほど頼んだ資料はもう出来ているんだろうな?」

「…いえ、まだです。」

「だったら、そんな風にボケーっとしてないで手を動かさんかぁーー!」

 上司の怒号が響き俺はパソコンに目を向けた。


 最近、都内で複数の放火事件が起きており俺はその捜査に駆り出されていた。

 今も上司にこれまでの捜査を纏めた物を提出する為にパソコンで清書を行っていたのだ。



 これまでの行われた放火は全部で5件、

 どちらも家が留守の時を狙った様で被害者は一人もいなかった。

 出火元はバラバラだが共通するのは通常では発火点にならないコンクリートの壁や火の使わない部屋等で火災が起きている点から何者かによる連続放火事件として警察は捜査に乗り出しているのだが…


(5件とも普通じゃ燃え広がる事の無い場所で火事が起きてるこんなこと現実的なあり得ない……けど)


「オーヴァードなら」

「黒観、何時になったら…」

 プルルルル♪

 上司の席の固定電話から着信が入った。

「はい、こちら天谷警察署…何!?分かった支給応援を向かわせる。」

 受話器を置く上司の顔つきが変わった。

「F市の住宅街で火災が起きたらしい至急、現場に向かってくれ。」

 俺は椅子にかけてある上着を手に持つと急いで現場に向かった。



 現場に到着してみると消防隊が来ており消火作業しているまっただ中だった。

 見た感じ火元はマンション一室のようだが火の勢いが強くホースによる放水でも消える気配は全くない。

「もっと水をかけろ!」

 消防隊員の一人が仲間に激をかけていた。

「すみません、警察のものです何があったんですか?」

「住民が言うには急に炎が上がって燃え始めたと言っているのですが…失礼行かなければ」

 そう言うと隊員はいそいそと走っていった。

 俺も何か探すために辺りを見回すとふと不思議な者を見つけた。

 一人の男のようなのだが彼の周りだけ人がいないまるで何かの結界でもあるかのように、

 気になった俺は彼に近づき話を聞こうとした

「すみません警察の者ですがお話をお聞きしても?」

 すると、聞かれた男は火元から目を離すことなく話し始めた。

「何か用かね?私は忙しいのだが」

「忙しいとはどういった…」

「今、私はこの事件について考察しているのだ邪魔をしないでくれ」

「待ってくれ何でこれが事件だと」

「出火元は5階の6号室、部屋の間取りから考えてリビングではなく一人部屋からだな。

 火力から考えても化学兵器の燃料でもなければここまで燃えることはない。」

 まるで知ってて当然のようにマンションの出火原因を推察していると驚くような事を彼は口走った。

「これは、サラマンダーの能力を持つオーヴァードの仕業か。」

 その言葉を聞くと俺は彼の腕をつかんだ。

「オーヴァード?今そう言ったな。」

「イタタタ、黒観くん力が強いよ。」

「何故俺の名を?」

「さっき、消防隊の人に警察手帳を見せていたではないか。」

「見えてたのか?あの距離から」

 絶対にあり得ない距離も遠かったし彼は火元しか見ていなかったのだから

「ちょっと署まで来てもらおう…」

「良いのかね?そんなことをしてて」

 俺の話を遮ると彼はそう聞き返した。

「あの中にはまだ人がいるよ。」

「何だって!」

「過去5件の事件は自分の能力を確かめるために起こした、だから死人もいなかった。」

「だが、今回は違う下校のタイミングを狙いドンピシャのタイミングで火をつけた。」

「お前…何でそんなことが分かるんだ?」

 俺がそう聞くと彼はこちらを向き不敵に笑いながら答えた。

「決まっている、私が"探偵"だからだ。」



 続く

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