第13話家族が居なくなるのは嫌だよ

 僕はお父さんファングに近寄ります。やっぱりあの黒いモヤモヤが、身体中にまとわりついてる。オニキスの時みたいにとっても濃い黒。


「ハリュト…。ひっく…。」


 涙でくちゃくちゃの顔で、子ファングが僕に擦り寄ってきます。


「ぼく。やってみりゅ。がんばりゅ。」


「ありあと…。ふええ…。」


 えっとオニキスの時はどうしたんだっけ?確かなでなでして、こんな穢れなんて無くなればいいのにって、思ったんだよね。そしたら体があったかくなって。とりあえずなでなでからだ。

 僕はお父さんファングをなでなでします。それから同じように、穢れなんてなくなっちゃえって。でも体があったかくなりません。何で?

 

「ハルト、まったくしょうがない奴だ。もう姿を見せてしまったし、お前の気持ちを大切にしたいからな。いいか、俺の言うとおりにしろ。」


 オニキスが力の使い方教えてくれるって。でも、僕1人だと、この前みたいに力使い過ぎちゃうといけないから、オニキスが一緒に魔法使ってくれるって。ありがとうオニキス!


 最初にオニキスが僕の肩に前足を乗せました。それからオニキスの魔力を僕に流してきます。あったかい魔力が、僕の体に溜まりました。それでね次は、この前契約の時に、自分で魔力を流したでしょう。その感じで今、オニキスが流してくれた魔力と同じくらいの暖かさの魔力を溜めてみろって。難しい…。僕は集中して魔力を溜め始めました。


 ちょっとの後、オニキスの魔力以外のあったかいものが、僕の中に溜まり始めました。これが僕の魔力。同じくらいの暖かさで止めます。それをお父さんファングに流せって。穢れを外に押し出す感じだって。

 言われた通りに魔力を流します。そうしたら、黒いモヤモヤの穢れが、薄くなり始めました。上手くいってるみたい。そう思ったんだけど、すぐに元の濃い黒いモヤモヤに戻っちゃいます。


「どうちて?このまえは、できちゃよ。」


「やはりダメか。この前ハルトは無意識に魔力を使って俺を助けてくれたんだ。ハルトの魔力は膨大すぎて、あの時下手したら、魔力の使いすぎで、ハルトが死んでたかも知れなかったんだ。」


「じゃあ、もうしゅこしまりょくだめ?」


 オニキスにお願いしたけどダメだって。僕のこと心配してくれてる。でも…。子ファングを見ます。泣きじゃくってお父さんお父さんって、ずっと呼んでます。僕はあの時のこと一瞬思い出したよ。

 僕のお父さんとお母さんが、事故で病院に運ばれて来た時のこと。あの時僕は、今の子ファングみたいに、ベッドに寝て動かない2人に抱きついて、ずっと泣いてたんだ。大切な大好きな家族。あの時僕は何も出来なくて。

 今の家族を見ます。オニキスにフウとライにブレイブ。もし皆んなが苦しんでて、助けることが出来るのに、自分のこと心配して皆んなが死んじゃったら…。

 そんなの僕いやだ。これ以上家族や、友達、皆んなが悲しむの見たくない。


 僕はもう1度魔力を貯めます。それをお父さんファングに流して。オニキスが気付いて止めたけど、僕は止めませんでした。どんどん黒いモヤモヤが薄くなっていきます。さっきみたいに黒いモヤモヤに戻りません。そして、ふっと黒いモヤモヤが消えました。それと同時に僕はフラッとしちゃって、オニキスに寄り掛かりました。


「ハルト!ハルト!」


 この前は気を失っちゃったけど、今度は何とか起きていられました。


「むちゃしやがって、後でお説教だ!」


 オニキスの口調が、お父さんみたい。力が入らないけど声は出たから、へへへへって笑っちゃったよ。

 お父さんファングは、とっても落ち着いた呼吸をしていて、もう大丈夫そうです。そんなお父さんファングにくっついて、子ファングがやっぱりわあわあ泣いてます。それから泣きながら、


「ハリュト、ありあと」


 って。良かったあ。これで子ファング、お父さんとサヨナラしなくてすむね。また、皆んなで遊べるね。


<キアン視点>

「領主様、ファングが…?!」


 何が起こっている。上から見ていた冒険者の報告で、先程現れた子供が、どうもファングの穢れを払ったらしいと。ファングは報告では、かなりの穢れに襲われていたはず。それを子供が?

 ただでさえ上級の穢れを払える人間は少ない。貴重な存在で、その力を使える者のほとんどが国に仕えている。そしてそういった人間は、かなりの修行をしてレベルを上げ、国に認められる頃にはだいぶ歳をとってしまい、俺の知り合いでは全ての人が老人だ。

 しかし、そんな大変な苦労をして手にする力を、あの子供は使い、ファングの穢れを祓ってしまった。


「領主様、子供が倒れてます!」


「何だと!!」


 力を使い過ぎたな。回復魔法で少しは回復することが出来る。すぐにでも回復して楽にしてやりたい。だが…。

 あいかわらずファング達は、俺達を見張ったまま、威嚇してきている。まるで子供を守るように。

 一体どういう事なんだ。あの子供はなぜここにいて、なぜ魔獣達に守られている。ロードファングまでが子供について歩く。今にいたっては、子供の顔に顔を擦り寄せ、子供が辛くないように、うまくベッドの代わりをしているようだと、報告が続々と届く。

 

 私はどうするべきだ。声をかけ手を貸すべきか。ロードファングなら言葉が分かるはずだ。しかし無闇に声をかけるのもダメな気もする。彼らには彼らの生活がある。私達が口を挟んでいい事ではない。


 悩んでいる私に、ロードファングが動き出したと報告が来た。子供を他のファングが咥え、上手く背中に乗せたと。このまま別れて良いのか?

 私は自分でも気づかずに声を出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る