”仙術”予選~トラブル~

 激戦を終えた俺が控える場所に帰ってくると、ちょっとした騒ぎになっていた。



「どうした? フェイ・ラン」


「あ、タイチ師父シーフー。なにやら変なんです。予選の選手達がようなんです」


「……は?」






 ーーーーーー






 ・勝敗は気絶を含む戦闘不能、降参が認められているが、八百長などの防止を目的とした【縛り】の効果で、選手は常に””戦うことを強いられるため、負けを認めない限り降参は出来ない。



「いくら”縛り”でも心底、逃げ出したい奴は止められない。本選はともかく、予選は運営側の管理も緩いからな。観客の前で負ける恥をかく前に逃げるのは珍しくないが……今回は、ちょっと多いな」


 ヤーが何かを感じ取っているようで、表情が険しかった。


「タイチ師父シーフーの前半よりも、私の後半組に棄権者が多いみたいです。トウコツと、悪神と戦いたくなかったのでしょうか?」


 棄権者が多かったのがトウコツのせいでは無いかとフェイ・ランは考えているようだった。






「つまらないゾ! 選手不足で試合が組めないカラ、ウチとフェイ・ランの試合は無しだとさ。楽しみだったのにナ!!」


 予選が軒並み中止になり、トウコツとフェイ・ランの試合が無くなり本選出場が決まったようだ。




 俺の激戦を、ちょっとでも緩和してくれても良かったんじゃないですかね!?






 ーーーーーー






 __『不戦勝が相次ぎましたので、すでに予選の試合は終了しております。只今、本選前の昼食休憩を取っております。本選はウーの刻に開始を予定しております』


「すごい! すごい! タイチ先生せんせーは”仙術”でも、すごいね!」


「こら、クゥイ。走ると危ないぞ」


 創造神、”全知全能”の黄龍フゥァンロンの色、オレンジ色のボブの髪を揺らしながら、クゥイが走っていた。

 予選が予定よりも早く終了したため、通常よりも長い昼休み。

 その長い昼休みを利用して、本選へ出場するタイチとフェイ・ランを労う為に、タイチの仲間達はタイチの所へと向かっていた。




 __『不戦勝が相次ぎましたので、すでに予選の試合は終了しております。只今、本選前の昼食休憩を取っております。本選はウーの刻に開始を予定しております』




「__すぎだぞ。予選___を__止め__」


「すごい! すごい! 先生せんせー、すごい!」


 ”無手”に続き、先生せんせーと慕うタイチの”仙術”での活躍。




先生せんせー!! あっ!??____


「おっと!? ……ちゃんと前を見てないと、危ないぞ」


 幼心に興奮し、曲がり角に立っていた男性に気付かず、ぶつかってしまった。




 __『不戦勝が相次ぎましたので、すでに予選の試合は終了しております。只今、本選前の昼食休憩を取っております。本選はウーの刻に開始を予定しております』






「ごめんなさい。ちゃんと前見て、気を付けまーー!」


「ああ、気を付けてな……」



「待ちなさい、クゥイ! 走ると危ないと言っているだろう」


「大丈夫! 今度は、ちゃんと前見て、走ってるからー!」


 男性に、ぶつかったのを見たはずのタイチの住む街の領主のリ゛ーシュ、クゥイの父であるシュが男性に対して、何の謝罪もしない。

 それどころか、タイチの仲間達のように、通り過ぎていく。




「…………???」


 何かしらの違和感を感じて、視線を向けたツァンを除いては……。






 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






「ここ、というか俺達のことは誰にも気付かれないはず、じゃなかったのか? 渾沌コントン、いや____今は、だったか」


「オレンジ色の髪。その身に多くの仙力シィェンリー、聖なる仙力を宿す証の前では。私のような邪な【仙術シィェンシュ】は効きが悪いのですよ」


 ぶつかられた男性の背後から現れたのは、悪神”四凶スーシィォン”の渾沌コントンこと____参加選手のケイオスであった。




「先程のような状況、特異な体質でも無ければ、誰にも会話の声も内容も届きません。そういう【狂化クゥァンファ】を掛けたのです。だから、ご安心ください___




 そして、ぶつかれた男性は___




 ___ノン様。」




 ___赤壁チービー帝国、帝位継承権一位、皇帝ダオの長男、グゥァンウー・ノンだったのだ。






 ーーーーーー






「実力者にだけに話だったが、ばらまいたな。おかげで隠すのに苦労したぞ」


「”無手”で仕込んだ相手が、ろくに怪我を負わせる前に負けましたのでね。私の渾身の【狂化】が効いているか確かめるのに必要でしたから」


 ”仙術”で多くの選手が棄権したのは、負けるのが怖くて逃げたのではない。



「まあいい。抽選に細工して、シーと当たれるようにしてある。抜かるなよ。失敗は許さんからな」


「”仙術”予選の選手達を見たでしょう? 棄権選手を見たでしょう? 隠したでしょう?」


 コントンの、ケイオスの【狂化】によって、出場するのが困難になったためであった。






「妹君であるシー様の命だけでなく、心を殺そうと考えるなど。ノン様、貴方は実に


 口角を歪に吊り上げ、光を宿さぬ瞳が輝いたように感じる程の興奮を見せるコントンこと、ケイオス。






 その魔の手がシーを、ひいてはタイチを脅かそうとしていた!!!






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る