”雷”の化身

 思い返せば、タイチちゃんと出会ってから、一目見た時から想っていたことだと思う。




 どこか、ツァンに似て、信用出来る、信頼出来る人だと、漠然と感じていた。




 その第一印象が間違いで無かったことが、タイチちゃんの”属性”を見たことで確信に変わった。

 感じた親近感、同じだから感じた信頼感。




 ツァンの”属性”も、属性”も____”いかずち”!!!




 だから、かれた!



 






 ツァンの、殺しうる恋焦がれる相手だと!!!






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 古今東西、人は自然現象に超常現象に、不可解な事に”神”を、”妖怪”を、”幻獣”を、”グゥイ”を見ていた。

 河川の氾濫を”龍”神に例え、枕の位置が起きると変わっていることだけで”妖怪”を生み出した。



 ことさら”鬼”は引用が多く、日本では”風”や”雷”の神の造形は”鬼”そのものである。






『アーーッハハハハ! 気分が良いわ!! !? やっぱり身体にくで感じる大気かぜは良いわ!!!』


 結んだ髪を振りほどき、自身が嫌悪する”グゥイ”の象徴である”ジャオ”を曝け出したツァンが、ツァンを知る人物達が声色で語りだしていた。



「ツ、ツァンさん? ツァンさんですよね!??」


「この仙力シィェンリーの質。……


 髪を振りほどいただけで、突如として様子の変わったツァンに一同が驚いていた。

 たった、それだけのことで河川の水量が増加するように、莫大に増加を始めたツァンの仙力に驚いていた。




 ツァンから漏れ出ているのか、のか、不定期に周囲に火花を、稲妻を撒き散らしながら上機嫌に笑っている。






「本性を現したということか! め!! だが、強いのは俺の___


『ちょっと、。……あ~~、あと、



 ___っーーー!??  --!! --!?? ____ガハァっ!!!??」


 発言を遮られた刑天シンティェンが、己の意思に反して黙り込み、受け身を取らない勢いで、




「貴様!? 何をした!___


『だ~~から、っての』


 ___っぬはぁあ!!?」


 即座に起き上がり、豹変したツァンを詰問しようとしていた刑天が、言葉だけで同じように地面に頭を叩きつけ




がぁぁ!!!」


 無様に頭を地面に擦りつけながら、刑天が怨嗟の声を上げていた。

 両の腕で全力で身体を起こそうと地面を押すが、それ以上に全身全霊で頭を、地面に押し付ける身体の力に勝てずにいた。


出させる決心を、このにさせてくれたから見逃してあげようと思ったけど。駄目ね。止めたのに2度も”汚らわしいその言葉”を、言ったわね。__


 ツァンの言葉に従うように、刑天が今度は直立不動に立ち上がり、微動だに出来ないことに冷汗をかいていた。




 使の覚醒に影響を受けたのか、暗雲が立ち込め始める。



 草原の中央で怨嗟を声を上げる刑天と、その背後に広がる森林、その奥の小高い山を絵画やカメラで収めるように両手の親指と人差し指で、ツァンが捉えていた。



再見ザイジィェン、また会いましょう。きっちり2回。


 失敗した絵画を、要らない部分に絵筆で”線”を引くように左人差し指を、刑天の”首”を両断するように軽く振る。


「貴様! 貴様!! 貴様!!? 貴さ____


 たったそれだけの所作で刑天の”首”が鋭利な刃物で斬られたように見事に____

 その余波は、背後の森林の大部分、あろうことか山の一部ですら両断する程の威力を誇っていた!!




『アハッ! アハハ!! アーーッハハハハ!!!』


 今までの【不死】が無くなり、過剰な仙力も無い刑天の”霧”が”首”を残したまま、周囲の仙力を搔き集める為に何処かへと流れていく。

 無様に、ゴミ漁りに行く負け犬を嘲笑あざわらうツァンの笑い声だけが残される。






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「アレは誰なんですか!? ツァンさんは完全な白虎パイフー様の【仙術シィェンシュ】使いのはず」


 豹変したツァンが使っていたのが、青龍チンロン朱雀ヂゥーチュエの【仙術】だったことに青龍の精霊ジンリンであるリウが驚いていた。

 いかに妖魔ヤオモといえども、その身体を動かすには脳からの”信号”が、””が必要となる。




 その微細な、繊細な”電気信号”を高度な青龍の適性流れの操作で操っていたのだ。




「”適性”が成長することは有れど。ここまでの急成長は有り得ない。アレは別人よ。このドス黒い感覚。____アレは、ツァンの中の”鬼”ね」


 タイチに【仙術】を一から教えられる程の知識と経験のある朱雀の精霊のホンが、豹変したツァンが、と看破する。

 完全な白虎強化の【仙術】使いでは考えられない程の朱雀放出の高度な”適性”。




 糸のように細く凝縮した”雷”を、指を振る動作に合わせて朱雀の適性高速放出していたのだ。






 ーーーーーー






『長年、私を閉じ込めて来たツァンこの娘だけど。満たされることの無い空腹を味合わせてくれた、このだけど』


 餓えた野生の獣のような鋭く、獰猛な視線が倒れているチュイ、ガンとシン、”ツァン”を注視しているリウとホンに向けられる。


『好みではないけど、大男。”四神スーシェン”の精霊を全種類。御馳走を用意したみたいだから、許してあげましょう』


 刑天を容易く葬った左人差し指が、リウ達に向けられていた!




「____!!!」




 ソレを止めるのは、その”鬼”の左腕を止めるのは!!




 __雨が、降りだしてきていた。




『ぐぅ!? !!?』


貴女あなたは! ツァンと!! !!!」


 その左腕を捻り上げるのは、!!!




 ____雨が、強く、降り出してきていた。






『まだ、動けるようだけど。!!!』


「ツァンさんの”角”が!!?」


 リウの指差す先、本来の”鬼”の”角”ではなく、ツァンの左側頭部に生える混血である証の小さな”一本角”。

 ソレが主導権を強めているのを証明するかの如く、より大きく、目に見えて成長し始めていた




「言ったお! ココで!! ツァンと!!!」


「__!!? マズいわ!! リウ! 寝ているのを叩き起こすか、引き摺ってでも!!!」


『__止めなさい!?? 正気なの!!???』



 ツァンの右側頭部に、の”角”が生え始めていた。



 ”鬼”の象徴である”角”は、仙力の塊であり、”魂”を内包するモノ。

 生半可な攻撃では壊れず、本来なら二本を共鳴させるように増幅して使うモノ。




 混血とはいえ人の身で、が故に”一本”しか生えないモノが生え始めていた。




 ______雨が、雷を伴い、雷雨となっていた。






 ”角”が”二本”になったことで共鳴を始め、人の身体では耐えきれない仙力がツァンの至る所から、その身を焦がし、引き裂き、噴出する稲妻が周囲を照らし焼き尽くす。



「リウ! ほうけてないで逃げるわよ!! 自爆したら、が焼け野原になるんだから!!!」


「でも! ツァンさんが!? ツァンさんがぁぁ!!?」


 長く生きてはいるが、幼い外見に相応しいように駄々を捏ねて居残ろうとするリウをホンが叱咤する。

 頭で分かっていても、今までのツァンとの思い出が、自分の感情が、”魂”が、見捨てることを拒否しているのだ。




「……リウ、ちゃん、……皆を、連れて___


 そんなリウを、いつものように、笑顔で、、ツァンが告げる。




 ___【逃げて】」


「__そんな!?? 嫌です!! !!!!?」


 リウの意に反して、身体が、脚が、逃走を開始する。

 この状態のツァンなら、その身に二つの”魂”を顕現している状態なら、”ツァン”と

 タイチがシンやホンが近くに居れば、”適性”でない【仙術】を使えるように、使えるのだ!




 ーーーーーー




 リウがシンを抱え、ホンがチュイ担ぎ上げ、頑丈だと知っているガンを完全に引きずる形で逃走をしている。



「ああぁぁああ!!! ツァンさん! ツァンさぁぁぁん!!!」


「…………チッ!!」


 遠ざかるツァンにリウが何度も、何度も、呼びかける、叫んでいる。

 付き合いが浅いとはいえ、不本意な結果にホンが舌打ちをし、唇を強く噛んでいる。




「ああぁぁああ!!! 誰か!? 誰かぁ!!? ツァンさんを! ツァンさんを助けてください!!!」


 トウコツと刑天のせいで村人達は家に籠っているし、辺鄙な村であるため通りかかる者も居ない。

 よしんば居たとしても、この事態を収拾でき、激しくなる雨、風、”雷”の轟音の中でリウの声を拾える強者が存在するのだろうか。




「誰か!? 誰かぁ!!? ____!!!!!」




 ________一際、大きい”雷”が、ツァンの傍に落ちていた。






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「よく頑張ったな。やっぱり、お前は偉いよ。ツァン」






「__そんな、嘘だお。なんで……」


『何故! お前がココに居る! ____是枝これえだ太一たいち!!?』


 再度、魂の傷が開き、【消滅】状態のため戦線を離脱していたはずのタイチが、傷を塞ぎ、仙力を補充しなければ立つことも出来ないはずのタイチが___






正義の味方ヒーローは遅れて、やって来るモノさ! ……は、カッコ付け過ぎだな」


 ___”虎杖丸いたどりまる”を手に、立っていたのだ!!!






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