認められた者

 勝つには勝ったが、、薄氷を行くが如き勝利だったと自覚していた。

 お互いに戦ったが、真の意味でで戦った訳では無かった。

 以前に使った【精霊技ジンリンジー】の【虎爪フーヂャオ】のような殺傷能力のある【仙術シィェンシュ】を、お互いに使っていたら殺し合いになっていただろう。



「確かに殺す気本気だが、お前もクゥイちゃんの”願い”を最低限、叶えようとしたのが敗因だ。の戦い方ではなく、戦い方の違い」


 そういった意味での

 こういう小難しい戦い方が、年季のある俺の経験と【武道】に有利に働いたおかげで、俺の術中にハマってくれたのだ。

 いまだに気を失ったままのフェイ・ランに対して、賞賛を送る。



「タイチ殿。娘、クゥイを助けてほしいという私の”願い”を叶えて頂くばかりか。クゥイの無茶な”願い”を叶えるために尽力して頂いて、なんと御礼を述べたら良いか……」


 領主のシュが、”迷い人ミィーレェン”であり、平民以下に近いであろう俺に跪いていた。

 前のように、中空に無数の”媒介”を浮かび上がらせ、数個を俺への礼として贈るつもりらしい。


「お願いだから、立ってくれ。今回の礼なら、すでに受け取っている。


「ですが、タイチ殿。前に渡したのを含めて、”媒介”を2つも使ったではありませんか」


 断る俺に驚いたシュが、出費に対してのだと主張する。


「最初の段階で、トウコツの存在に気付いていたら無かったかもしれない出費だ。。クゥイちゃんに要らぬ苦痛と絶望を与えてしまったことに、むしろ謝りたいくらいだよ」


 再度の申し入れを、自分の失態から来た出費だと言って、断らせてもらった。




 ーーーーーー




「ならば、せめて”等級”の昇級をさせてほしい。”2つ名”が許される特級を打ち破ったのです。タイチ殿に特級と”2つ名”を」


 最初五級からの積み重ねによる功績と、その者の特徴に送られる異名である”二つ名”に相応しい偉業が無いと断ろうとする。



「相応しい功績や特徴あるじゃん。タイチ様の”2つ名”は、”お節介焼き”!!」


 断ろうとしていた俺を止めるようにガンちゃんから、”二つ名”の候補が挙げられる。


「フフーン! 偉く賢いボクが、タイチさんの”2つ名”を考えてあげましたよ! ”頑固者”か”浪費家”、ですね!!」


 同じくシンから、一つ間違えば悪口にしかならない候補が挙げられる。



「ガンガンもシンも分かってませんね! タイチさんは青龍チンロン様の”迷い人”。”2つ名”を付けるのは、この私です。私で、あるべきです!!」


 自信満々に、俺のことを一番に分かっているという風に小さな胸を張って、主張するリウ。

 確かに青龍の”迷い人”である俺の”二つ名”を付けるのは、青龍の精霊であるリウが一番ではないかと思っ___


「タイチさんの”2つ名”は……””!! これで決まりです!!!」


 ___ていたが、却下にすることにした。




 何だ、そのみたいな名前は!!?




 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






「アッハハハハハハ!!! いいゾ! いいゾぉ!!!」


 弛緩した空気が流れる中、今回の全ての元凶、悪神”四凶スーシィォン”トウコツの高笑いが響き渡る。


「ウチの玩具おもちゃの、どちらかがかもと、思っていたが。壊れるどころか今すぐにでも、!?」


 興奮を隠しきれないように、笑顔で、常人とは思えない、狂った笑顔で、ゆっくりと近づいてくる。


「オマエの名は、タイチだったな。とりあえず、礼を言おうか。オマエというの後に、フェイ・ランデザートを残してくれたことをナ」


 シュが不用意に発言した際に危害を加えようとしたので、誰も何も言えず、その歩みを止める者が存在しないことを良いことに、ゆっくりと俺に向かって歩いてくる。


「ウチを殴り飛ばした時やフェイ・ランとの最初の攻防の時は、実に合理的な動きだった。だが、最後の方は不合理な動きが有ったナ。しかし、意図を感じる動きだった。【武道】は奥が深いな」


 俺の目の前に立ち、少女の姿をしたトウコツの”現身シィェンシェン”が、その身長差の為に見上げるようにして、俺の顔を覗き込んでくる。



「今すぐ俺と戦う気か?」


。クゥイとかいう娘は見逃すと言った。ここで戦ったら、巻き込んでしまうかもしれないからナ。今日は無しだ」


 そう言う割には、俺を覗き込むのを止める気配が無いように感じる。



「この”現身”が女の姿なのはナ。ウチとの戦いに敗れた者達が、をするからだ。見所のあるヤツなら、再戦のために強くなってくるからナ」


 てっきり、戦った相手は再起不能にしていると思っていたが、道楽の為でも生かすことが有るらしい。


「難点は、常に【実体化】しているせいだろうナ。精神が肉体に引っ張られることダ。本来、ウチに性別は無い。長いこと”現身”のせいで、性格、嗜好、好みが”メス”に近くなっている」


 何を言い出しているのかと、考え込んで___




「っプハァ! つまりは、


 ___いたら、頬に口づけをされた……。




「ウチですら未知の【武道】を使う、強き男、タイチよ。お前が欲しくなったゾ。これはマーキング予約のようなモノだ。ウチに敗れた時は、ウチのモノになってもらう!」




 ーーーーーー




「ツァンちゃん____パーーンチ!!!」


 俺の前方、トウコツの居た位置あたりから、前方に向けて巨大なクレーターが出来ていた。

 ミサイルでも墜ちて来たのかと驚いていると、俺達を心配して来たツァンがクレーターの先、を睨んでいた。



「コラーー!! 男の人に無理矢理、キスしたら駄目だお!!! ……ツァンだって、まだなのに……」


「アッハハハハハハ!! タイチを喰おうとすると、前菜が付いてくるのか! ますます、オマエが欲しくなったゾ! タイチよ!!」


 ツァンによって、のも気にせず、屋敷の屋根の上でトウコツが笑っていた。





「オマエの【武道】に敬意を表して、このまま去ろう。再会の日まで、壮健で居ろよ!! タイチ!」


 トウコツが去り、少女の”病”を治すだけだと思われた一連の事件が、こうして幕を閉じる。




 是枝これえだ太一たいち消滅まで、あと十ヶ月……。






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