光星街、最強の男

「カバディ! カバディ! カバディ!」


 極度の緊張で可笑しくなってしまったのかと思う程の、タイチの奇声と踊っているような動きに、周囲が呆気に取られる。


「カバディ! カバディ! カバディ!」


 本当にタイチの気が触れた訳ではなく、に意味など無いに等しかった。

 意識を少しでも逸らせれば、奇声は『カバディ』でも、『オーエス』でも、『ワッショイ』でも何でも良かったのだ。


「カバディ! カバディ! カバディ!」


 本命は、その【武道】の発祥の起源が、を主目的とした躍るような【武道】。

 タイチの【武道】を瞬く間に吸収する天才フェイ・ランに、学習されないように選ばれた【武道】の名は___




 ___【カポエイラ】!!!




 ーーーーーー




「【瞬歩シュンブー】!!!」


 踊るように、一定のリズムで、【武道】でなく【舞踊】のように、非合理的な動きを織り交ぜた【カポエイラ】の”右後ろ回し蹴り”のタイミングで【神技シェンジー】を使い、距離を詰めるタイチ。

 まだ数メートルは離れた状態から、未知の動きをするタイチを必要以上に警戒していたフェイ・ランの守護の【仙術シィェンシュ】の盾の内側に潜り込むことに成功する。


 勢いそのままに狙うは左胸、”心臓”の部分。

 ”ハートブレイク”、”心通し”、”金剛”と【武道】の種類によって様々な呼び方をされる必殺の際に狙われる部位。

 まともに当たれば絶命、良くて血流が滞ることで意識を失うか、動きが極端に鈍くなってしまう部位。



「想定内だ!!!」


 見事に狙いの箇所に”右後ろ回し蹴り”を炸裂させたが、生物を蹴ったという手応えを感じず、返ってきた手応えは”電柱”。

 元より、これで決まると思っていなかったタイチが、回転の動きを殺さずに”右裏拳”を顔面に叩きこもうとしていた。



「奥義___


 対するフェイ・ランにも微塵の油断も無い。

 タイチが”電柱”と感じたように玄武シェァンウーの【仙術シィェンシュ】で質量を、白虎パイフーの【仙術】で筋力を。


 ___【寸勁ツンジン】!!!」


 肉薄された状態からでも充分に全ての力が乗るように、最適化された流れの動きが出来るようにする青龍チンロンの【仙術】と、当たった時の衝撃力を増幅する朱雀ヂゥーチュエの【仙術】が拳に込められる。



「「「タイチさん!!!」」様!!!」


 ”四神スーシェン”の【仙術】全てが詰まった拳の一撃は、【神技】と呼んでも過言ではないほどの威力を誇っていた。

 ”右裏拳”への防御を捨てた、必殺のがタイチに突き刺さるのを、見ているだけしか出来ない精霊ジンリン達の悲痛な悲鳴が響き渡る。




 ーーーーーー




「少しは、になれよ。おかげで、になっただろうが!」


 青龍の【神技】、【ヂー】!!!

 いかなる流れでも、衝撃でも、斬撃でも、あらゆる攻撃を、穏やかな海のように受け流す【神技】。

 フェイ・ランの奥義を受け流して、”右裏拳”を変わらず、顔面に送り込む。


「貴方は、本当に私を驚かせるのが上手い。全てが想定以上だ。ですが、勝つのは私ですよ!!!」


 相手の殺気の流れを読んで自動的に守護する盾が、”右後ろ回し蹴り”に反応できなかったことを晴らすように”右裏拳”を防ぐために立ち塞がっていた!



。素寒貧になった、てな」


 幻のように、実体のないのように、盾を無いモノとしてタイチの腕が通り抜ける!!


「なっっ!!???」


 防げず、触れることも出来ない腕が、顔面を、視界を塞いでくる衝撃に、に撃たれたような硬直を見せるフェイ・ラン!!!



「想定外すぎると! テンパる、よな!!!」


 一度ならず二度、その存在を”消滅”しかけたタイチだからこそ思いつけただろう戦法。

 その内の一度が、自身の仙力シィェンリーの過剰喪失だからこその戦法。


「俺は遊んだことは無いが、格ゲー好きの弟の話だと。”キャンセル技”ってことらしいぞ!!」


 とっさのことなので、【神技】を発動させようと仙力を込めた後、フェイ・ランの意表を突いて隙を作り、して腕を実体化させ、服に掴みかかる。

 この世界に来て一度、経験したことなので再現可能だったのである。



「素晴らしい!! どちらもウチの相手に相応しい!!!」


 ”右後ろ回し蹴り”からの一連の攻防の勢いのまま、二人が絡まりながら転がっていくのを見ながら、トウコツが大いに興奮していた。

 どちらも戦うに値する強者であることを喜ぶと共に、自身の戯れのために、その片方が死ぬかもしれないことに短慮だったと嘆いていたのだが……。




 ーーーーーー




「約束は守ってもらうぞ、トウコツ。、俺もフェイ・ランも戦った。クゥイちゃんには、これ以上の手出しをしないと」


 タイチが、タイチだけが起き上がった時には、

 気を失っているが、目立った外傷の無いフェイ・ランの命に別状は無さそうであった。


「まさか、気を失っても戦いが終わっていないなんて、屁理屈を言わないよな。生死不問と言ったのもトウコツだ。生きてても良い負け方なんて、気絶くらいだろ?」


 適切に、完璧に【絞め技】が出来たのなら、一瞬で気絶させることが出来る。

 実戦では非常に困難なことではあるが、予想外の攻撃に動きの止まったフェイ・ランに極めるのはタイチ程の実力者なら可能なのだ。

 加えて、もつれて転がるという抵抗の難しい状態が数秒、続いていたのが大きかった。


 当然、この世界にも首を【絞める】という行為は存在するが、直接的に手で絞める行為の目的は、

 タイチの【絞め技】のように、服の襟首を掴み、衣服を利用して【絞め落とす】ことで気絶無力化する技術ではない。

 だからこそ、服を掴まれることへの警戒が、フェイ・ランに薄かった故の決着である。




「ウハ~~~~!! タイチ様が、勝った~~!! めっちゃ、強いよ!!!」


「しゅごいです! タイチさん!! 5級が特級に勝つなんて!? 下剋上です!!!」


「フフーン! ボクの次、くらいには、凄くて素晴らしいと認めてあげますね!!」


 精霊達の歓喜の声が轟く中、勝敗が決したのだと、誰もが納得していた。





 ここに光星グゥァンシン街、最強の五級が誕生したことを……。






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