五級・対・特級

戦え。その結果、相手が死んでも構わない。生き残った方とウチが戦うだけだ。生死は問わん」


 神の戯れとしか思えない殺し合い戦いが提案される。

 拒否権などは無いと、クゥイちゃんの命を人質に提案される。


 俺もフェイ・ランも戦うことを覚悟したことを、お互いの瞳を見るだけで確信する。


「申し訳ありません。部外者のタイチ殿の、クゥイお嬢様を助けて、救ってくださろうというタイチ殿と戦うことになってしまって。恩人のタイチ殿の命を奪ってしまうことになるかもしれないとは」


「謝るな、フェイ・ラン。これは俺の”お節介焼き信条”。お互いに苦労する”信条生き方”なだけだ。それに命を奪うのは、俺の方かもしれないぞ」


 軽口を叩きながら、お互いに笑いあう。

 フェイ・ランと共闘すれば、トウコツの”現身シィェンシェン”を撃退は出来るのだろうが、本体のトウコツからの【呪い】が止められる訳では無い。



。失敗や不履行は、そのまま自身の弱体化に繋がるから絶対なんだよ、タイチ様。トウコツの【呪い】2回は、むしろ気前が良いくらいなんだよ」


 ガンちゃんが言うように、願う【呪い】を行使した時点で”願い”はしていたのに、追加で行使したトウコツは気前が良いことになる。

 その身をもって、悪人達はトウコツの【呪い】が成功であったことを実感していることだろう。



「……止めて。……クゥイのために。……ランや……タイチ先生せんせーが……」


「クゥイ!? 駄目じゃないか! 寝ていなさい!!」


 トウコツの乱入と、俺とフェイ・ランの決闘騒ぎに、シンの【神技シェンジー】と屋敷の結界の効果で症状の悪化を抑えられたとはいえ、満身創痍のクゥイちゃんが止めに入る。


「トウコツ。戦いが終わって、俺が生きているとは限らない。戦いの前に、クゥイちゃんを治してきていいか?」


「逃げさえしなければ好きにするが良い。生き死にの戦いを前に”弱体化”したいならな。言ったはずだゾ? 、と」


「つまり”弱体化”しようが、何しようが。どのような状態でも、本気で、勝つ気なら良いのだろう? 万全な状態で、全力で、とは言っていないからな」


 俺に発言の揚げ足を取られて、勝手にしろと、仕方なく許可が出たので、クゥイちゃんを治すためにシン達と共に、寝室に向かう。



 ーーーーーー



「【魂移身フンイーシェン】」


 後顧の憂いが無いように、【神技】を使って完璧にクゥイちゃんを治すことにした。

 光が収まり、土気色だったクゥイちゃんの顔色が戻ったことに安堵し、戦いの場に戻ろうとする。



「待って、タイチ先生せんせー。……死なないで。クゥイのために、ランもタイチ先生せんせーも死なない……で、ね……」


 トウコツの【呪い】を受けながらも、騒ぎが起きている庭まで移動したためなのだろう。

 倦怠感の中での行動の疲労感、治った後の充足感で”願い”を告げた直後に夢の世界へと落ちて行った。



「クゥイは優しい娘なんだ。我ながら、過ぎた娘だと思う」


 中性的な奥様、アイさんがクゥイちゃんの穏やかな寝顔を眺めながら言う。


「自分の為に、フェイ・ランとタイチ殿が戦うだけでも心苦しいのでしょう。……どうか、お二人とも死なないでください」



「フーー。仕方ありませんね。タイチさんが、


「相手は”特級”のフェイ・ランだからね。【神技】無しで≪殺さずに勝つ≫どころか、普通に勝つのも、タイチ様でも難しいだろうからね」


 庭に戻る間に、青龍チンロン白虎パイフーの”媒介”を胸に忍ばせた俺に、リウとガンちゃんが諦めたように言う。


「理解できませんね! ジィェンさんの時と同じで、収支がマイナスなるのに! 適当に出来ないんですか!?」


 俺を理解しきれないシンが非難の声を上げるが、クゥイちゃんの”願い”を叶えるために、のだ。

 当然、フェイ・ランは大恩があるシュの娘の為に殺す気本気で戦ってくるだろう。



 達人特級が殺す気で向かってくるのを、殺さずに決着を付けるには出し惜しみは無しだ。



 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー




「フェイ・ラン、準備は良いか? 武器を使っても良いんだろう?」


「私は無手が基本です。タイチ殿こそ、?」


 庭で待っていたフェイ・ランが、俺の胸に忍ばせているであろう”媒介準備”が出来ているかと問うてくる。


「卑怯と言うなよ。可愛らしい、お嬢様からの”願い”だ。本気のオマエと≪殺さず≫に決着を付けてくれと頼まれたからな」


「タイチ殿は、万全なら自力で【神技】を使える方だ。それについては文句は有りません。クゥイお嬢様の”願い”を叶えようとする想いも嬉しく思います。……ですが」


 礼の言葉を切ったフェイ・ランから、裂帛の気迫が放たれる。



「その”願い”を叶えるために手を抜くことは有り得ません! 私はクゥイお嬢様の命の為にも!! タイチ殿に殺す気本気で挑ませて頂きます!!!」


「いいね! いいね!! 滾ってきた!!! 自分で戦うのも楽しいが、戦いを見るのも、ウチは好きダ!!!」


 フェイ・ランの決意と、トウコツの歓喜の咆哮が響く。




 五級特級フェイ・ランの死闘が始まろうとしていた。






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