昔と違う生き方

 ”青龍チンロン”の棲み処である洞窟を抜け、うっそうとした森の中を、人里に向かって歩く。

 死んでからの驚きの連続で気にする余裕が無かったが、だった俺に、この辺りの一般的な衣服を青龍の神通力で、作って頂いた。


「俺の世界の東洋系の服に似ているな。文化みたいなものは、どんな感じなんだ?」


 死んで魂だけの状態から異世界に転移することで、魂が覚えている二十代の頃全盛期の肉体に受肉しなおしていたので、肉体に問題は無い。

 だが、この世界の文化や風習、法律みたいな最低限は必要になる知識が、俺には無い。


「う~~んとね。タイチ様の世界基準だとね。昔の中国? そういうのに近いみたいだよ。それに”妖魔ヤオモ”っていう、妖怪とか魔物が居るって感じかな。あと、”仙力シィェンリー”は魔力とかMPが近い感じかな~~」


 そういう足りない部分の補助に青龍と白虎バイフーが、それぞれの精霊使い魔のような者を付けてくれた。

 知識や文化の革命を目的に、青龍や白虎の上に当たるに招かれる”招き人ヂァォレェン”や、俺のように紛れ込んだ”迷い人ミィーレェン”の情報のおかげで説明もスムーズだった。


「分かりやすい説明で助かるよ。ガンだったか」


「”ガン”だけだと可愛くないから。ガンちゃんって呼んでよ。僕らが付くような”招き人”は文化系ばっかりだからね。白虎系統肉体系の僕は付き添ったことがなくて、暇なんだ~~。そのおかげで、資料みたいなものを読み込めたから。説明は任せてよ!」


 白虎から付けられた精霊、桃色の髪の虎の獣人のような女性のガンちゃんが、背後霊のように浮かびながら、褒められたことが嬉しいのか、照れながら微笑む。



「文化系ばかりか。物語で良くある”勇者”みたいな肉体系は招かれないのか?」


「そっちの世界で言う”魔王”みたいなのが居ないからね。全人類の敵。この世、全ての悪。そういうのが居ないのに呼んじゃうと駄目なんだってさ。僕はバカだから、よく分かんないけどね」


 軍事的な面で、特定の勢力や国家に武力が集中するのは良くないと、創造神とやらが考えた結果なのだろう。

 そのおかげで、暇で退屈していたガンちゃんが、最初から俺と友好的に接してくれようとしているのは嬉しいことだ。




「お喋りなんかしてないで、さっさと歩いてください! 夕方までには、街に着きたいんですから!! 迷い人さん!!!」


 青龍の付けてくれた精霊、青みがかった長い黒髪のトカゲの亜人のような少女”リウ”は、俺を嫌っているようだった。


シャオリウを嫌わないであげてね。”招き人”に一番多く付き添って、文化と生活に貢献してきた自負と自信が有るんだ。本当なら、そこら辺で適当に消滅する”迷い人”に付けられたのが、不本意だったみたいだから」


『リウよ。この者、タイチを不本意だろうが、街まで連れて行き、当面の暮らしが成り立つまで面倒をみよ。その後は、好きにするが良い』


 青龍も言っていたように、俺を一刻も早く独り立ちさせて、新しい気高き”招き人”の付き添いに備えたいという想いが、リウの俺への当たりの強さに出てしまっていた。

 俺の妹達の中に、齢不相応に背伸びをしたがる、オマセな妹が居たことを思い出しながら、リウの叱責を聞き流す。


「僕はタイチ様が独り立ちしても、暇だろうから付いて行くよ。仕事が無ければ、!!」


 俺へのフォローのつもりなのか、ガンちゃんが満面の笑みで少し怖いことを言う。

 矮小な人間の考えが大いなる精霊様には、ちょっと理解できないのだろうと勝手に解釈することにしよう。




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 その後も主にガンちゃんから、この世界の文化や風習なんかの予備知識を尋ねながら、人里へ向けて森を歩く。

 正しき流れ、水の神である青龍の精霊のリウが道案内に適しており、俺達の前を先行していた。


「軍事。武器のレベルは、どれくらいなんだ? ”招き人”が文化系ばっかりなら、その辺の技術は高いのか? 例えば、


「静かに!! 黙ってください!!!」


 突如、先行していたリウが停止し、辺りを警戒し始める。



「シャオ・リウ。問題無いと思うよ。妖魔の声と匂いがするけど、狙いはコッチじゃないみたい。女の人の声もするし、狙いはソッチみたい。


「ガンガンが、そう言うなら問題ありませんね。


 ……ちょっと、待て。


「誰かが妖魔とかいう魔物に襲われてるんだろ? 助けようと思わないのか?」


 迷い人さん」


 理解できないといった風なリウと、リウよりかは俺の考えが分かるのだろうガンちゃんが、という顔をする。


「私達の言われた仕事は、迷い人さんの独り立ち。私達のあるじへの願い雑用の手助けです。弱肉強食。自然の摂理を曲げてまで、襲われている女性を助ける



 助ける必要が無いと言い切るリウは、昔の俺のようだった……。

 貧しい家族の為に、他の家族の幸せを壊すような仕事をしていた俺のようだった。


「リウやガンちゃんには無くても……」


 正義の味方理想と程遠い探偵稼業現実を、生活の為と割り切っていた俺に重なって見えた。

 だが、弟達、妹達が独り立ちし、縛り付けるものが無くなった俺は、


「俺には! あるんだな!!!」


「あ!? 迷い人さん!!??」「タイチ様!??」


 襲われている女性が居るであろう場所に、精霊達を振り切るように走り出す!!

 俺には距離が離れている妖魔の声や匂いを感じ取れないが、培った洞察力で、リウやガンちゃんの視線や反応から、方向は分かっている!!!




 元居た世界で結果的に死んでしまったが、今でもお節介同じようなことをしただろう!

 あちらでは家族や友人が居るので、手荒なことは出来なかったが、この世界では縛り付けるものなど無い!!




 俺は、俺の心の赴くまま、探偵正義の味方として生きさせてもらう!!!






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